なでしこジャパンは再びトロフィーを掲げることができるのか [写真]=ullstein bild via Getty Images
文=馬見新拓郎
6月に行われる女子ワールドカップ カナダ2015に臨む、なでしこジャパンの大会登録メンバー23人が、佐々木則夫監督の口から発表された。佐々木監督がGK山根恵里奈(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)を「やまねゆりな」と言い間違えたこと以外は、大きなサプライズはなかったと見るべきだろう。
「未来のために若手を(メンバーに入れる)というイメージもあったが、やはり最終的に大会の連覇から逆算した」と佐々木監督が会見上で明かしたように、前回のドイツ大会とその翌年のロンドン・オリンピックを戦った、経験豊富な計17人をこの中に入れ、大会を勝ち抜くことに特化したメンバー選考となった。
多少なり若手選手を入れ、チームの循環を促すべきだとの声もあるだろうが、W杯と五輪は単なる未来に向けた選手育成の場ではない。結果を残す舞台である。大きな大会で結果を残し続けなければ、国内でサッカーを続ける場所すらなくなってしまう女子サッカーの境遇は、以前から変わらないからだ。
世界に目を向ければ、アメリカ女子代表もW杯や五輪の度に選手を入れ替えているわけではない。そういう観点から、サプライズのない佐々木監督の現実的な選手選考は、非常に納得のいくものだった。
なでしこジャパンにとって、MF澤穂希(INAC神戸レオネッサ)の約1年ぶりとなる代表復帰は久々の明るいニュースとなった。
「小手先のうまさではなく、90分間本当に集中し、惜しみなく体を張って戦っている姿勢は、やはりなでしこの姿勢であり、それを少し臆している他の選手の模範となる。まだまだ彼女の背中を見て学ぶことはある。今の彼女の力はなでしこジャパンに必要」
先のアルガルベカップで澤の代表復帰を望んでいた佐々木監督だったが、コンディション不良によって、このW杯直前のタイミングで代表復帰することとなった。6大会連続6回目のW杯に参加することが決まり、197試合の国際Aマッチ出場経験を持つレジェンドの存在感は、もはや世界中の誰も真似できない域にある。例えば大会中、なでしこジャパンの状況が悪くなった場合、彼女の『存在』自体がチームを助けることにもなるだろう。
しかし澤が選出されたのは存在や経験だけを買われたのではない。今季のプレナスなでしこリーグでのパフォーマンスを見ると、相手に体ごと寄せていく力強いチャージが戻り、しっかりフィニッシュに関わる運動量も証明してみせている。佐々木監督が「いいタイミングでここまで仕上げてくれたINAC神戸にも感謝したい」と壇上で述べたほど、澤はいい状態にある。
チームの拠り所としての澤と、戦力としての澤。アルガルベカップでは結果を残せず、本当の意味での新戦力が現れないなでしこジャパンの最後のピースが揃ったと言える。
一方、そのアルガルベカップで9位に終わったように、この経験豊富なメンバーでW杯を早々に敗退した時の代償は、大きなものになる。それは1年後のリオデジャネイロ・オリンピックや次回W杯まで影響していくだろう。しかしこれは、一度頂点を極めた者の宿命だ。佐々木監督は今回、「戦える選手」の他に、「意識の高い選手」も選考基準にしたと明言している。
「もうなでしこジャパンは負けてはいけないチームになった」と言葉を発するMF宮間あや(岡山湯郷Belle)のように、選ばれた23人の覚悟を、まずは5月の国際親善試合で確かめたい。