2月に行われたリオ五輪最終予選に出場していたFW横山久美 [写真]=Getty Images
日本女子代表(なでしこジャパン)は6月上旬にアメリカへ遠征し、高倉麻子新監督の就任後初めての国際親善試合を行う。試合は6月3日10時30分からコロラド州コマースシティ、同6日2時からクリーブランドで、アメリカ女子代表と対戦する(いずれも日本時間)。
「新生なでしこは高倉新監督のもと、どんな戦い方をするのか」「2020東京オリンピックに向けて、どんな兆しを見せるのか」と期待する人も多いだろう。しかし今遠征は日程、地理、U-20女子代表との絡みなどから、なでしこの将来を見通すには条件が悪い。
まず日程面。なでしこリーグのシーズンの最中に突如組み込まれた強行遠征であり、今遠征に選出された選手は、6月4日に行われるなでしこリーグカップの開幕戦を欠場せざるを得ない。クラブごとの選出人数を確かめてみると、最多は日テレ・ベレーザの5人で、他のクラブは2人以内に留まっている。
そこに地理的な問題も重なる。日本を出発した選手たちはデンバー郊外に降り立つが、標高約1600メートルの高地ではいきなり心拍数を上げるような練習ができない。したがって3日の初戦は、戦術的な練習をほとんど行わないまま、ぶっつけ本番で臨むことになるだろう。無論、低酸素状態で行われる試合でも、なでしこ持ち前のハードワークはあまり期待できない。
さらに、高倉監督は11月にワールドカップを控えるU-20女子代表の監督も兼ねている。U-20世代から今遠征に招集された選手はゼロ。高倉監督が意図的に見送ったと考えられる。したがって今遠征メンバーと、2019年の女子W杯や2020年東京五輪を見据えたチームは、切り離して考えたほうがよさそうだ。
コーチングスタッフの顔ぶれも含め、暫定的な船出となる新生なでしこではあるが、今シーズンのなでしこリーグでのパフォーマンスから、なでしこジャパンに定着することが期待される選手はもちろん存在する。
その筆頭に挙げたいのが、FW横山久美だ。彼女が所属するAC長野パルセイロ・レディースは、2部リーグから初昇格にもかかわらず、11節を終えた段階で7勝1分け3敗の2位(首位ベレーザと勝ち点4差)と健闘。まずは1部残留争いを勝ち抜けるかどうか、という開幕前の予想をはるかに超え、今や「日本のレスターになれるか」と注目されるクラブだ。
エースの横山はハイペースで得点を重ね、早くも昨年の得点王が挙げた12得点に並んだ。横山の魅力は、積極的に前を向くこと、囲まれてもボールをキープできること、そして倒れないことだ。特に、相手DFがシャツをつかんで引っ張るなどファールまがいのプレーで横山の突破を阻もうとした時、彼女は相手を引きずりながら前進する。
「わざと倒れてファールをアピールするようなことは、私は絶対にしたくない。もしそうしたとしても、(ファールを)取ってもらえるとは限らないから。だったら、立ってプレーを続けたほうがいい」
そう語る横山は、アメリカ戦でもいつものように強気でプレーするだろう。
また、スピードあふれるセンターバックの村松智子、小柄ながらボールキープ力に秀でるボランチの中里優(以上、日テレ・ベレーザ)、細身の体ながらパスのスピードと距離が魅力の杉田亜未(伊賀フットボールクラブくノ一)なども、代表定着に期待が寄せられる。
最後に、対戦相手アメリカの現状について触れたい。アメリカは今年すでに国際Aマッチを11試合行い、全勝。トータルでの失点はわずか1。昨年度の女子バロンドールを獲得したカーリー・ロイドは、ケガのため今回の日本戦で選外となったが、2012年に日本で開催されたU-20女子W杯で優勝を遂げたDFジュリー・ジョンストン、FWクリスタル・ダンなど若手選手の台頭が著しい。
文=江橋よしのり