イングランド戦前、目を閉じて集中を高める長野 [写真]=Getty Images
FIFA U-20女子ワールドカップフランス2018に出場中のU-20日本女子代表は、準決勝・U-20イングランド女子代表戦で2-0と勝利し、初の決勝進出が決定した。
準々決勝で強豪ドイツを下した日本は、欧州第5代表のイングランド戦で、左サイドバックにDF高平美憂(マイナビベガルタ仙台レディース)を初めて先発起用する。
日本は前半から度々チャンスを作り、22分にMF遠藤純(JFAアカデミー福島)のパスを受けたFW植木理子(日テレ・ベレーザ)が今大会5得点目をマーク。その5分後には、MF宮澤ひなた(日テレ)のシュートがクロスバーに当たってはね返ったところを、遠藤が頭で決めて前半のうちに2-0とした。
イングランドはリードを奪われながらも、前からボールを奪いにいかないため、日本が警戒していた攻撃的な選手にボールが渡る回数が少なく、日本はDFラインでボールを回せる時間を長くすることができた。終盤の15分間はイングランドの猛攻を受けたが、無失点のまま2-0で試合は終了し、日本はU-20女子W杯としては初めて決勝の舞台に駒を進めた。
この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出されたMF長野風花(仁川現代製鉄レッドエンジェルズ/韓国)は、試合後の会見にユニフォーム姿のまま登壇。「ファイナルに進めたことを嬉しく思う。最初に押された時間もあったが、前半の早い時間帯で2点が取れた」と勝因を話す時には、自然と笑みをこぼれていた。
それは、約10カ月前の2017年10月28日、AFC U-19女子選手権中国2017(アジア予選)決勝のU-19朝鮮民主主義人民共和国女子代表戦で勝利し、優勝を決めた後の顔と同じだった。
90分間、プレーの質が落ちない魅力を持つボランチの長野は、若くして日の丸を背負い、U-17女子W杯コスタリカ2014と、U-17女子W杯ヨルダン2016の両方で主力として活躍した。しかし、この年代の北朝鮮は一層強く、日本は常にその壁にはね返されてきた。特にU-17女子W杯ヨルダン2016では、決勝で北朝鮮にPK戦の末に負けて準優勝に終わった。だが、ようやく北朝鮮を上回れたのが、今から10カ月前のアジア予選決勝だった。
「北朝鮮に負けてから、その悔しさを1日も忘れたことはなかった。ずっとアジアの舞台でも負けてきたから」
しかし、その直後にこみ上げてきたのは、焦りにも似た感情だった。
「早く、本当に早く試合に出て、日々目標を見失わずに、U-20女子W杯だけでなく、その先に向けてもっと成長しないといけない。そのためには試合出場を続けないといけない。まずは浦和レッズレディースで試合に出ること」と、アジアを制覇した中国の夜に、長野は改めて固く誓った。
しかし、浦和のボランチは特に激選区と言えるポジション。MF猶本光(現・SCフライブルク/ドイツ)らを押しのけ、シーズンを通して試合出場することは容易ではなく、昨季のプレナスなでしこリーグ1部で、長野は1試合の出場にとどまった。
そして今季開幕前、長野は大きな決断を下す。なでしこリーグの4年間で23試合しか出場できなかった状況を打破すべく、韓国の仁川現代に移籍した。浦和Jrユース、浦和ユース、そして浦和と育ってきた代表歴のある長野が、10代のうちに活躍の場を海外に求めたのは異例のことで、それは驚きを伴って報じられた。
長野の耳には、移籍に関して否定的な意見も多数届いただろう。しかし今年5月、U-20日本女子代表候補の静岡キャンプに参加するため、韓国から帰国した長野は充実の表情だった。
「日本と韓国はプレーも全然違う。攻撃でも守備でも対応するのが難しかったが、だんだん慣れてきた。自分には足りないものが多すぎるので、これは私の考えだけど、このままの状況なら、日本にいてはダメだと思って移籍を決断した」
韓国女子代表選手を擁して『WKリーグ』で連覇を続ける仁川現代で、長野はすぐさま試合出場を続け、これまでに11試合出場、1得点1アシストをマークしている。
「U-20女子W杯や、その先のなでしこジャパン、そして東京五輪には絶対にメンバーに食い込んでいきたい。しっかりそこで自分の良さを出せるように、日々頑張っていくだけ」
そして、その合宿の最終日、長野は翌月に行うなでしこジャパンのニュージーランド遠征メンバーに飛び級で選出されたというニュースが飛び込んできた。
長野が見据えるのは、U-20女子W杯の準決勝や決勝の舞台だけではない。目標は常にその先にある。しかし、だからこそ、まずはU-20女子W杯決勝の舞台でどのような活躍を見せるのか、長野の動きに注視したいと思う。
取材・文=馬見新拓郎
By 馬見新拓郎