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【インタビュー】前なでしこ指揮官、佐々木則夫氏に聞く 世界で勝つための道筋

2019.06.14

J SPORTSでの日本戦中継で解説を務める佐々木則夫氏

 フランスの地で2度目の世界一を目指しているサッカー日本女子代表、通称:なでしこジャパン。2011年ドイツ大会以来の頂点を狙うが、当時の指揮官であった佐々木則夫さんに、優勝当時の想いやそこから得た経験、現在W杯を戦っている選手たちへのメッセージなどを聞いた。

―――2011年のドイツW杯については、語り尽くしてきたかと思いますが、改めて一番印象に残っていることを教えてください。

佐々木 優勝した場面はもちろんですが、優勝するまでにも実際にいろいろな駆け引きがありました。特にグループステージ第3戦のイングランド戦では0-2で負け、チーム内でも非常にもめたんです。準々決勝のドイツ戦を迎えるまでのインターバルの3日間では、それをみんなで話し合って解消し、すごく成長した域にあったんじゃないかなと感じます。決して順風満帆ではなかった。1位通過であれば、それまで敗れた経験がなかったフランスが相手だったんですが、第3戦で負けたことによって、逆に今まで勝ったことのない開催国のドイツと戦うことになってしまった。そこで悩んだ末、どんなふうに試合に臨むかを選手たちで話し合うことを勧めたんです。スタッフももちろんサポートしましたし、それはそれでもめたこともありましたが、それをクリアして解消した。そのプロセスが印象的でしたね。

―――具体的にはどんなところですか?

佐々木 グループステージを終えた時点では、攻撃と守備の考え方で、いろいろな動揺もあって、それぞれに思うところがあったんだと思います。例えば、オフェンスはオフェンスなりに、点を取らなければならない要素を主張することは決して間違った感覚ではありません。でも、攻守にアクションをするというサッカーからは乖離していたということです。インターバルの3日間では、今までやってきたことに立ち返って、冷静に攻撃と守備が一体になることの中でやるしかないと。出場していなかった選手からの「自分を信じて、もっともっと仲間を信じて、失敗を恐れずに頑張ろう」という合言葉の中で、再び結束できたことはすごく思い出深いです。

佐々木則夫

[写真]=Getty Images

―――決勝の話をうかがいます。PK戦で決着しましたが、岩清水梓選手と話す中で、佐々木さんがPKの順番を考えていなかったのでは!?という説が浮上しました。

佐々木 いえ、望月聡コーチと考え、ボードに順番も書いてあったんです。4番手のキッカーが澤選手だったんですけど、円陣を組もうと思ったら、僕の横に来て「ノリさん、私、蹴れない」と言うので。周りにも聞こえていたので「じゃあ、さっきもゴールで同点にしてくれたから許してやるよ」って言ったら、みんな「ずるーい」って言っていたんですよ。「ずるい!」じゃなくて「ずるーい」。そのイントネーションは許してあげていると思ったので、変えたんです。

 ただ、変えはしましたが、そこに当初6番手だった熊谷紗希選手を入れたんです。PK戦では、サドンテスになれば1本1本が大切ですが、5本以内に決める上では4番手が重要です。彼女、涙目で決めたでしょ。ちょっと時間が経ってから、「ノリさん、なんで私が4番になったんですか?」と聞いてきたので、「(熊谷は)背番号何番?」、「4です」、「だからだよ」と、それだけですよね。当時は細かく説明もできなかったので、「若いけど信じている!その度胸がお前にある」なんて言えなかったですけどね。今もキャプテンとして活躍している熊谷選手ですが、僕はその当時から将来なでしこの大黒柱になる選手と思っていましたから、わざわざ言う雰囲気でもなかったですし。だから岩清水、違うぞ。あれはちゃんと考えていたからね(笑)。

 そして運がよかったこともあって、アメリカはその前の準々決勝をPKで勝ち上がってきたんですが、その試合を我々もしっかりと分析していて。決勝でも(前の試合と)同じメンバーが1番手からちゃんと来た。どちらに蹴っていたかはGKコーチから海堀選手に伝えていて、その通りに蹴ってきてくれたんです。今思えばまったく同じだったので、どうなの?と思う点もありますが(笑)、運がいいことにその通りに来た。そこがポイントだったんだよ、岩清水さん(笑)。

熊谷紗希

[写真]=Getty Images

―――W杯優勝という快挙もあり、なでしこジャパンとして、国民栄誉賞を受賞しました。

佐々木 まさか、と思いました。2011年の震災があり、オープンに何か喜べないような空気感がある中で、なでしこの優勝。優勝の瞬間は奇跡的な要素もありましたし、小さい子たちが頑張って、大柄な海外の選手たちと、どちらかというと4:6でいつも押されているようなゲームの中、食いしばって勝ったサッカーを見た方々の想いが、当時の日本の状況と相まった部分もあると思います。そしてそれが喜びに変わった。今後の日本を考えたときに、非常にインパクトがあった団体だった、ということでいただいたと思います。そのくらいのパワーを彼女たちが出してくれたんだなと感じました。僕も決勝のときには、ニコニコ笑っていましたからね。もちろん、力以上のものも出ていたと思いますし、人やチーム自体がこんなにもパワーが出るときもあるんだ、と強く感じました。それが国民の皆さんにも伝わったんだと思います。

―――2008年の北京オリンピックで佐々木さん率いるなでしこジャパンがベスト4に入ってから、10年以上が経過しました。日本が好成績を残すとともに、日本に近いスタイルのチームも増え、女子サッカー全体の潮流もかなり変わったという印象は受けますか?

佐々木 間違いなく変わりました。以前はラインが間延びしていて、合間、合間でボールを動かすことが簡単で、守備では外から中に追い込むとテクニックのある人材が中央にいないケースもあり、ボールを奪取できました。でも、我々がボールを動かす試合をする中で、相手もコンパクト、組織的になってきた。そしてパワーとスピードはもともと兼ね備えている世界ですから、チーム戦術やスキルが上がってきたと見れば、勝つことが非常に厳しい状態になる。そのところから一つ一つもう1回整理して、2015年のカナダW杯まで戦えたということだと思います。

アルゼンチン戦でのスタメン [写真]=Getty Images

―――アメリカやドイツといった昔からの実力国も2011年、2015年を経て、スタイルが変わってきていたと思います。今回はそこからさらに4年が経過しましたが、どういう大会になるイメージがありますか?

佐々木 我々が優勝したときは、ボランチの澤選手が得点王で、カナダ大会もボランチのカーリー・ロイド選手(アメリカ)が得点王になった。ということは、組織的になっているということなんです。つまり、今回の大会はさらに組織的なチームとなり、ボランチの選手が得点に絡めるチームが有力になって来ると思いますね。

 日本は、スキルや連動・連携する質がもっと要求されてくると思います。その中で前線の卓越したコンビネーション、そしてショートカウンターの精度をさらに磨く必要があります。ボールを持っていない状況のサッカーの質を、さらに上げることが重要になってくるでしょう。日本も技術的な要素はどんどん向上していると思いますが、ボールを持っていない部分でのサッカーが勝負所になってくると思います。

―――これまでの日本の強みをさらに高めていく方がいいと?

佐々木 そうですね。全体的に身体能力の高い選手を配置できる現状ではないですし、将来やるにしても、まだまだ時間はかかってくると思います。そういった点を踏まえて、今まで持っているものの質の要素を見ることは重要です。実際にこれまでやってきたことより、質をもっともっと高める。オフ・ザ・ボールのサッカーでは、特に緻密に質を上げる。今の若い世代がこの大会でしっかりと経験を積み、質を上げる。若いからこそ、1試合の中で勇気を得られたときは、この大会でもすごく進化していくんじゃないかなと期待しています。

 今回のメンバーで経験を積み、一人ひとりが成長し、進化することで、今後の世界大会を切り抜けていけると思います。ぜひ、そういったところも踏まえて見てほしいですね。来年は東京五輪もありますから、この大会でしっかりいい経験をしてほしい。もちろん、結果も掴めたとすれば最高です。そういう意味では、アジア予選も僕が監督だった時より、かなりメンバーも変わった中で結果を出していますから。岩渕選手などもすごく成長しましたし、そういったところを期待したいと思っています。

 当時若手と言われていた選手も、たくましくなったと感じますね。熊谷選手もキャプテンになりましたし。彼女は僕が招集した当初からそういう資質があったので、イメージ通りの選手になってくれました。縦軸もしっかりとしていて、いい中盤の選手も揃ってきました。前線も楽しみな若手を中心としていますし、横山選手や岩渕選手がどれだけ引っ張っていけるかでしょうね。

 若い選手たちはアンダー世代で世界を経験していて、ひょうひょうとしている印象ですよね。物怖じせず、驕らず、失敗を恐れることなく、勇気を持ってやれば、十分高め合える大会になると思います。そういった選手たちが今後中心になって、将来やることになると思いますから。

佐々木則夫

―――グループステージの対戦相手を見ると、イングランドが近年、日本の因縁の相手になりつつあると思います。

佐々木 そうですね。僕が因縁をつけすぎましたかね(笑)。イングランドとのゲーム展開は、どの試合も楽なものはありません。さらに、今はかなりの力をつけていますし、優勝候補の一角であると思います。優勝候補と手合わせをして決勝トーナメントに行くことになれば、いい流れです。決勝トーナメントに入れば、チーム力は拮抗しますし、イングランド戦での反省も踏まえて戦えることになれば。何とか突破してほしいですし、あとは勢いですね。

 勢いというのは大事で、2011年にドイツに勝ったときは、準決勝のスウェーデンには負ける気がしませんでした。僕にはファイナルしか見えなかった。当時、ミーティングでは選手に言っていませんが、私はドイツに勝った瞬間から決勝のことしか考えていませんでした。それだけの勢いがありましたから。スウェーデン戦も先制されましたが、全く臆することなく戦っていましたからね。

―――勢いを引き寄せるには?

佐々木 大会の中では大きな山場が一つ二つあると思います。2011年で言えば、一山は我々にとっての内部的な要素であり、そこをどう解消するか。そして、大きな山場となったドイツ戦で、今まで勝ったことのない相手に勝利して、勢いがついたということです。どこかで波に乗れるゲーム展開が出てくるかもしれませんし、様々なことが起こりますよ。女性は一山も二山もあったほうが上に行くと僕は思います。2011年も、W杯前の壮行試合で韓国といい試合をしました。内容は横綱相撲ではなく、例えれば小結同士の戦い方で、なかなか勝ちきれなくて。何もいいことがなくて、負の部分で一山になりましたけど、その一山を越えて、よくなりましたし。

―――最後に、W杯を経験した監督という立場から、今大会でどういうことを期待されていますか?

佐々木 まず、平均年齢がかなり若くなった世代がメンバーに多くいて、そこに若いときから経験のあるベテランが融合しています。1戦1戦、学んだ中で成長できるチーム、個というところをぜひ表現してもらいたいです。今後、ステップアップしていく結果につながっていくと思いますし、来年の東京五輪のメダルにもつながる、大きな大会がフランスW杯だと思います。もちろん、結果をしっかり出してもらいつつ、若い世代ですから、どこでどう変化するか。我々の時も熟練したチームであっても、進化した中で決勝を迎えました。また朝方、なでしこジャパンに感極まる試合を見せてほしいですし、皆さんにも見ていただき、応援してほしいですね。

インタビュー=土屋雅史(J SPORTS)


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なでしこジャパンは2011年に優勝、2015年に準優勝という結果を残しているワールドカップ。
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