トレーニング風景 ©URAWA REDS
日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』(Women Empowerment League)が2021年9月に開幕を迎える。
プロリーグ初年度に、WEリーグ初代女王の座を狙うのが、2020年のなでしこリーグを制した三菱重工浦和レッズレディースだ。
ファン・サポーターからの期待も大きい浦和。プロクラブとして、どういったチームを作り、覇権を握りに行くのか。立花洋一代表取締役社長に、目指すクラブの姿や、開幕への準備、その先のビジョンなどを聞いた。
インタビュー=小松春生
―――WEリーグ参入に至った経緯からお聞かせください。
立花洋一(以下、立花) 浦和レッズという、浦和で生まれ育ったクラブとして、レディースを強化し、昨年はリーグ優勝するなど、力をつけてきました。日本のリーディングチームにしたいという思いでやっています。アカデミーにも力を入れ、埼玉県、特に浦和というサッカーが盛んな地域で、少女たちの夢を育んでいく中、築き上げているチームです。その思いを持っている我々がプロリーグで活動するのは必然であると思いますし、いろいろな方の期待もあります。それに応えるためにも、参入を決めました。
―――コロナ禍という状況下もあり、リーグ全体含め、プロ化への懸念を持つ方もいます。クラブ内ではスムーズに意思決定がされたのでしょうか。
立花 周囲の期待や我々の立ち位置を考えた時、参入は当然しないといけないと思っていました。コロナ禍において、クラブ全体が非常に厳しい状況にあり、議論をして、どうすればできるかを考えて決断しています。今の状況でも、事業としても結果が伴う形を考えた上での結論に至りました。
―――チーム作りの方向性はいかがでしょう。
立花 WEリーグになっても変わりません。浦和という地域でサッカーを志している若い選手も多いと思います。その人数をもっと増やしたい。それがサッカーだけでなくスポーツ全体や、WEリーグの理念でもある女性が活躍する社会、多様性につながると考えています。これを一つのきっかけとして、そういった世界が生まれることは素晴らしいことです。サッカー界、スポーツ界しかできない期待があり、我々に託されている部分は非常に大きいと思います。
―――期待はありつつ、課題も感じられていると思います。
立花 プロクラブである以上、経営面でプラスにならなければいけません。組織、会社にとってどれだけのプラス材料になるかを考えた上で、それを実現することが課題です。男女のリーグそれぞれでトップレベルのチームを抱えるクラブは他にありませんし、その中で互いが独立して事業を運営し、かつ健全に会社の事業として成り立つことを追い求めないといけない。それが大前提であり、そこに向けてどうしていくかが非常に重要です。それを達成することで初めて成功と言えると思っています。
―――事業として興行を成り立たせるには、さらなるファン拡大も必要になります。
立花 これだけサッカーが盛んで、理解のある人たちがいる街のチームですから、プロリーグとして生まれ変われば、男子トップチームのファン・サポーターの方からも、興味を示していただき、一緒になって応援していただける部分はあると思います。男女のトップチームを持つ強みをどう生かしていくかが大切ですし、新しいファン・サポーターを開拓していくことも大切です。それぞれにいろいろな施策をやらなければ、目標と掲げる観客数にも届きません。組織体制も新たに立ち上げ、プレシーズンマッチやリーグ戦の開幕に向けて進めている状況です。
―――選手契約について、WEリーグはプロA契約5人以上、プロB・C契約10人以上の登録条件があります。契約に際して、選手から様々なリアクションがあったと思いますが、反応はいかがでしたでしょうか。
立花 みんな非常に前向きで、「浦和でプロ選手としてサッカーをしたい」という選手がほとんどです。残念ながら全員とプロ契約ができるわけではありませんが、その選手たちも浦和でプレーをしたいと言ってくれています。
―――これまではサッカーと並行して企業で働く選手や学業に励む選手もいたと思います。生活の安定があった上でサッカーをすることから、プロ選手として専念することへの変化についてはどう感じられていますか?
立花 ほとんどの選手がサッカーに専念できる環境を望んでいます。そういった選手たちはプロ契約になりますし、これまで同様、お仕事をしながらチームに残る選手たちについても、大変ありがたいことですが、勤め先の企業の方にご協力いただき、練習時間に対しての柔軟なサポートをいただけるなど、いろいろと考えていただいています。練習環境等々、多くの方のご理解もいただき、いい方向に進めると思っています。
―――選手契約以外にも、役職員の50%以上が女性であることも条件にあります。新規参入クラブもありますし、経験のある優秀なスタッフの確保は大変になり、新たな人材の発見、育成ということも考えなければなりません。
立花 これまで担当している女性スタッフがいますし、社内の他部門から移ってきてもらったりもしています。今はレディース専任者が7、8名と、小さい所帯ですが半数以上は女性スタッフという体制です。WEリーグ開幕への本格的な準備を考えますと、スタッフはもっと充実していかなければいけないと考えています。WEリーグの理念もそうですし、いろいろなリクエスト、要請に応えながらスタッフを充実させていくことは、これからの課題の一つでもあります。
―――多くの変化を求められる中、クラブとして適応が必要になります。WEリーグに求める点はありますか?
立花 我々は男女ともにチームがあるので、どうしてもJリーグのやり方が一つのベンチマークになります。Jリーグが開幕した約30年前を考えれば、当時は手探りでわからない部分がたくさんあったことも理解できます。しかし、WEリーグは2021年にスタートすると考えると、わかっている上で決めないといけないことが、まだまだたくさんあると思います。それを今、1個1個潰していきながら進めています。ただ、開幕までも時間はあるようでないので、みなさんと協力しながら決めるべきことは決めていかないといけません。
何よりも、コロナ禍においていろいろな制限がかかる中、WEリーグの価値を高める意味でも、スポーツ業界だけでなく、たくさんの方に喜んでいただき、希望につながるムーブメントを起こしていきたいですね。それはリーグだけでなく、我々も一緒になって取り組まなければいけません。「おもしろい」と思って来場していただく方を増やしたいですし、ワクワクする気持ちをどうやって盛り上げるか、リーグと一緒にやっていきたいと思っています。
―――ワクワク感の醸成、興味・関心を惹きつける点は、これまでなでしこリーグでやれなかったこともあると思います。なでしこリーグとの差別化については、どう捉えられていますか?
立花 プロとアマチュアの違いについては、よく理解しているつもりです。アマチュアのリーグからプロリーグになるため、やらなければいけないことは非常に多い。実現は大変だと感じるのも事実です。ですが、その難しさをわかっていることが強みだと思っていますし、先ほどお話ししたように、前例なく始めたJリーグのように、見えないものに向かっていくのではなく、あくまでゴールがあり、そこに向けて積み上げていくことがたくさんある。それをどうしていくかを、みんなで考えながら進めていく状況にあります。我々がJリーグで経験してきたことをWEリーグにも伝えていくということですね。
WEリーグの良さは、女性活躍社会という一つの目標に向かい、みんなが一緒になって協力していくという部分です。各クラブももちろんですが、リーグのもとにみんなで協力していこうというつながりや、精神が強く感じられますし、我々も日本の女子サッカーを盛り上げたいと考えています。
―――地域密着も大切な点です。WEリーグに参加する11クラブの内、埼玉県に3クラブありますし、特に大宮アルディージャVENTUSが生まれ、浦和にとって大きな刺激と言えます。
立花 我々とファン・サポーターや地域との距離は近いと思っています。所属する多くの選手は育成から上がってきた選手ですし、サッカーの街・浦和で育ったクラブですので。埼玉県の他2チームには、絶対に負けたくありませんし、より浦和を意識してやっていきたいですね。選手にも一緒にいろいろと考えてもらい、地域密着でアクションを具体的に起こしていきたいと考えています。
育成の部分では、トップチームまで一貫してレベルアップにつながるよう、取り組んでいます。トップチームが活躍することで、ジュニアユースやユースも活性化しますし、たくさんの子に来てもらえるような組織づくりを目指しています。
―――浦和における育成の土壌は、どうご覧になっていますか?
立花 さいたま市の清水勇人市長は、「浦和駒場を女子サッカーの聖地に」とおっしゃっていただいています。行政も中学生年代の強化を図ってくださっているので、女子サッカー育成の一番の溝となる中学生世代のフォローを一緒にし始めている段階です。少しずつですが、浦和に関しては女子サッカー選手が増えてきています。
―――行政のお話になりましたが、連動についてはいかがでしょう。
立花 埼玉県やさいたま市などとは、日頃からスポーツ担当部門とコミュニケーションをしています。埼玉県に3つのチームが参入することで、行政の方も非常に喜んでいただいています。例えば、試合時に“埼玉県ダービー”という言い方が適切かはわかりませんが、そういった企画で盛り上げようなど、いろいろと考えていただいています。我々も一緒に組んで盛り上げていきたいですね。
―――開幕はあくまでスタートです。プロリーグとして5年、10年と発展していくために浦和として取り組まれたいことや方向性、未来のビジョンへの考えをお聞かせください。
立花 浦和レッドダイヤモンズレディースである以上、日本だけでなくアジア、世界を見据えていかなければいけないと思っています。世界で言えば、ワールドカップやオリンピックをはじめとした代表チームの試合はありますが、クラブチーム単位での様々な大会ができるためにも、WEリーグが成功し、日本の各チームが強くなり、世界へアピールできれば、いろいろなことにつながっていくと思います。まずはWEリーグに参加する11チームが競技力を向上させ、そこから生まれる代表選手が頑張ってオリンピックやワールドカップでタイトルを取ることで、WEリーグの評価が高まり、価値も上がります。それが5年、10年先というところでの目標になると思います。
WEリーグの理念でもある女性活躍社会や多様性の部分はそれについていくものであり、当然我々も今在籍する選手たちのセカンドキャリアに取り組みます。「輝く女性社会を作ったWEリーグはすごいね」となることで、日本の社会そのものを大きく変えるきっかけを作ったというところまで考えていかないといけない。それくらいの期待を日本中が持っているのではないかと感じています。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長