ノジマステラ神奈川相模原 ©Nojima Stella Kanagawa Sagamihara
日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』(Women Empowerment League)が2021年9月に開幕を迎える。
2012年に設立されたノジマステラ神奈川相模原は、着実に力を積み重ね、なでしこリーグ1部に定着。2017年の皇后杯準優勝や2018シーズンのリーグ3位など、結果も出してきた。
神奈川県はJリーグクラブが多数籍を置くが、WEリーグはノジマステラのみでのスタート。深井正吉代表は相模原でどのようなクラブ作りをしていくのか。話を聞いた。
インタビュー=小松春生
―――WEリーグ参入は大きなチャレンジになると思います。改めて、参戦に踏み切った理由を教えていただけますか?
深井正吉(以下、深井) WEリーグの理念に賛同できたからです。ノジマステラのコンセプトである「人創り」、「街創り」、「元気創り」に近いものを感じ、やっていけると判断しました。私たちはクラブ発足時に5年以内の1部リーグ昇格、10年以内の日本一を目標に掲げました。今年、ノジマステラは10シーズン目を迎えます。これまでご支援下さってきた皆様とともに目標や夢を継続して行くためにもWEリーグに参加すべきと感じました。リーグの理念に共感したこと、そして地域のみなさまとの歩みを続けたいという思いから参入を決断しました。
―――プロ化には様々な条件がありました。プロ契約選手15名以上、フロントスタッフの女性割合が半数以上などです。財政基盤も含めて、実務の部分でプロ化に踏み切るには尻込みする部分もあったと思います。
深井 現場まで含めると話が長くなってしまいますね(笑)。経営面では、やはりプロ契約選手やコーチングスタッフの報酬をまかなえるかどうかが大きな問題でした。当初はリーグが開幕する9月に合わせて、キャンプインする7月のタイミングで契約変更と考えていました。しかし、2月1日からのプロ契約という流れになるなど金銭面でとても苦労しました。
―――コロナ禍の影響もあります。
深井 経営的な苦労はどのクラブもされているのではないでしょうか。現場での最初の課題は、選手の「リアリティの薄さ」を感じたことです。ノジマステラの選手はこれまで、ノジマで働きながらプレーしていました。これも全クラブに言えることかもしれませんが、最初、選手の間で「よし、プロへ行くぞ」という盛り上がりが見えなかったと思います。でも、今は彼女たち自身がプロクラブ、プロ選手としてどうすればいいのかを考えているので、いい流れができてきたと感じています。
―――深井さんが考えるプロ選手像はありますか?
深井 これまでノジマステラに所属していた社員選手たちは職場を通じて社会教育を受けてきました。これがサッカーを中心にして、自分で生計を立てていくとなったとき、人間的成長をどのように研鑽していくか。今後、女子サッカー全体で磨いていかなければいけない部分だと思っています。こうすれば人は育つ、という成功例があるわけではない。クラブもリーグもこれまで以上に人としての育成を考えないといけないし、選手自身もそういう意識を持って自己研鑽力を高めなければいけません。これまでもノジマステラの選手たちには、トップアスリートとして24時間をどうデザインするか考えてほしいと伝えてきました。今年からはプロ選手として24時間をどうデザインするかが重要です。その変化を見届けていきたいです。
―――日本の女子サッカーは盛り上がりが頭打ちになった印象がありますが、それを打破するために必要なことは何だと思いますか?
深井 2つの局面があると思います。1つは社会性、もう1つはどんなファン・サポーター層を捉えていくかの戦略面だと思います。社会性で言うと、例えば少子化に対して女子サッカーは何ができるのか。実際にファンを増やしていきましょうと言っているなかで、少子化や人口減少の問題があるわけです。そういった社会課題に対して女子サッカーがやれることを広げていくことが大切です。その過程で支持を得ることが大切になってくるし、できると思っています。
―――もう1つの戦略面については?
深井 ファン・サポーターの支持を拡げたいとするなかで、私たちはどこに役立って、どういう応援をしていただけるのかを考えなければいけません。例えば、今は男性がメインで応援してくださっているのですが、女子サッカーを語り合える場があまりないと感じられる方もいます。そういう要素を一つひとつ取り除いて、皆さんに喜んでもらえるようなコミュニティづくりをしたいと思っています。そのためにもリーグにもスローガンに対する具体的な動きを取っていただきたいですね。例えば、リーグは1試合平均5000人の収容を目指すと言っていますが、「リーグ全体で○○万人目指します!」というような、リーグとクラブが力を合わせてやっていくという全体像を示したプロジェクトを展開してもいいと思います。リーグが大きな発信をしていく中で、クラブとしては先ほどお話ししたような活動をやっていけば、成功に近づいていくと思っています。
―――実際に集客するためのアプローチとして考えていることはありますか?
深井 相模原市にはラグビー、アメリカンフットボール、男女のサッカーと4つのスポーツ団体があって、スポーツの力で市のシビックプライドを高めていこうと取り組んでいます。私はここを売りにしたいと思っているんです。競技で分けるのではなく、ホームチームを応援しようという流れを作りたい。
―――地域貢献にもつながりますね。
深井 そうです。みなさんに「ノジマステラの試合会場は日本で一番楽しい」と言ってもらえるようなスタジアム設営をし、チームは街の親善大使でありたいと思っています。女性の発信力も生かしていきたいですし、スタジアムに足を運んでもらえるような流れを作っていきたい。とにかく新しいことをどんどんやっていきたいですね。
―――行政との連係も重要になります。
深井 相模原市ではスタジアム計画が持ち上がっています。計画はまだまだ途上で、市民のみなさんの熱量の高まりとともに進めたいという段階です。でもそれは、相模原市にスポーツを楽しむ場所を作っていけるポテンシャルがあるということです。スポーツ課の方々もホームタウンチームを盛り上げていきたいという熱量があるので、もっと大きな協力を得られるように引き続き取り組んでいきたいと思っています。
―――ノジマステラの存在がシビックプライドを高める後押しになると。
深井 はい。私たちがいることで、女性が「住みやすい街」、「活躍している街」、「輝ける街」というイメージを作っていければいいですね。
―――9月のリーグ開幕に向けてのチーム作り。さらにその先の5年後、10年後のビジョンをお聞かせいただけますか。
深井 根底は“エンジョイ”だと思います。プロスポーツチームとして努力や研鑽を積んで、その上でエンジョイを発揮してほしいです。私たちは最後まで戦い抜く姿勢を大切にしていますが、それは気持ちや技術、人間関係を積み重ねた上での姿です。私はその先にあるエンジョイを、ずっと体現していってほしいと思っています。サポーターのみなさんにはそのプロセスも含めて応援していただければ嬉しいです。私たちを見てくださる方、応援してくださる方、そしてこの競技をやりたいと思ってくれる次世代の選手がいてこその成功だと思っています。5年後、10年後にそうあれるように、一歩ずつ努力を重ねていきたい。将来、必ず成功するんだという強い意思を持ち、その視点を忘れずに日々やっていきたいと思います。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長