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【WEリーグインタビュー】佐々木則夫が大宮から始める女子プロサッカーの創造と構築

2021.04.28

新体制発表会での佐々木則夫総監督(前列左2)や大野忍コーチ(前列左端)、選手たち(後列)

 日本初の女子プロサッカーリーグ『WEリーグ』(Women Empowerment League)が2021年9月に開幕を迎える。

 11クラブが初年度から参加するが、2クラブがなでしこリーグに参加していない、新興勢力となった。その一つがFC十文字VENTUSを母体として設立された大宮アルディージャVENTUS

 船出のかじ取り役を担う総監督には、なでしこジャパンを率いて世界一になった経験を持ち、大宮アルディージャに長く携わっている佐々木則夫が就任することになった。

 新チームをどのように作り、課題に取り組み、開幕を迎えるのか。考えを聞いた。

インタビュー=小松春生

鮫島(中央)や阪口(右2)などが加入

―――大宮アルディージャVENTUSはFC十文字VENTUSを母体としていますが、女子チームに新規参入という形となります。参入に至った経緯をお聞かせください。

佐々木則夫(以下、佐々木) 毎年、敬老の日に『のりさんガールズ&レディースサッカーフェスティバル』というクリニックを実施しているんですが(2020年は中止)、浦和レッズと大宮アルディージャのユニフォームを着て参加している少女がいたんです。そこで大宮のユニフォームを着た少女の「レッズのユニフォームを着ている子は、将来、選手として着られるけど、私は大宮アルディージャのユニフォームは着られない」という言葉が、強く印象に残りました。その時、プロリーグの話はまだありませんでしたが、大宮にもチームを作りたいと思ったんです。

 2011年になでしこジャパンがワールドカップで優勝し、なでしこリーグもブームとなりましたが、年々下火になる現実がありました。僕が関わっている大宮には女子チームがありませんでしたから、日本初の女子プロリーグが設立されるこのタイミングで何とかチームを作れないかと。その中で、こちらも僕が携わっていたFC十文字VENTUSにも賛同いただくなど、タイミングが重なりました。

―――チーム新設にあたり、大宮アルディージャからの協力体制はいかがでしたか?

佐々木 思いの外、クラブ内の皆さんに賛同いただき、前向きな感覚を持っていただきました。コロナ禍に直面しているタイミングでの参入について議論もありましたが、僕の周りはすごくポジティブでしたし、前向きに考えていただけたことに驚きもありました。だからこそ、スピーディに話が進んだと思います。

 僕は大学を出て40年ほど経ちます。10年間はなでしこジャパンに“出稼ぎ”へ行きましたが、それ以外の30年は大宮に関わり、アマチュアクラブからプロクラブになる時も、地域への普及を考えてサッカースクールを立ち上げたときにも携わりました。女子チームの立ち上げにも関わることになり、クラブの節目に携われ、継続した実績になっていることに運命を感じますね。

―――チーム名はFC十文字VENTUSの『VENTUS』を引き継ぎました。ラテン語で『風』を意味し、「WEリーグに風を吹かせる」ことも掲げられましたが、どういったクラブにしてきたいのでしょうか?

佐々木 大宮アルディージャでは今年2月にフットボール本部ができ、男女のトップ、アカデミーが同じ部署になりました。そこで目指すサッカーを構築していく中、女子の分野を新たに構築して育てていきたいと考えています。産声をあげたばかりですが、アカデミーは男子で成果を上げていますし、それは女子のアカデミーについても通じることがあると思います。

 トップチームは、フットボール本部全体で掲げる攻守にアクションをする、スペクタクルなサッカーを展開したいと考えています。具現化できる経験のある選手、中堅、若手が集まりました。スピード感やパワー感は違いますが、しっかりと男女で共通のベクトルを意識してやっていくということです。

練習に参加する大野忍コーチ(左)

―――監督、コーチの陣容はいかがでしょう。

佐々木 大野忍コーチが選手として様々な経験をしていることが大きいですね。攻守にアクションをするサッカーをする上で、彼女自身の経験もあります。レベルの高い指導者になってほしいですし、大宮をステップアップの場としてほしいですね。指導者としてトップレベルまで上がってほしい思いもあるので、コーチになってもらいました。

 他にもU-18で監督をして、トップチームの指導に戻るなどの道筋もあります。ライセンス取得も並行してやってもらいますが、現場で学ぶことが大きいと思うので、大野コーチのみならず、可能性のある女性指導者候補をどんどん採用して、学んでもらい、一本立ちできるような人材にしていきたいです。

―――クラブスタッフの女性登用はいかがでしょうか。役職員の50%以上を女性にする条件などもあります。

佐々木 FC十文字VENTUSに在籍していた女性スタッフも積極的に関わっていただき、運営で頑張っていただいている部分も多くなっています。トレーナーやマネージャーに女性が入っています。1年目より2年目、2年目より3年目…とチームを支える力になる女性が増えていくことは間違いないと思います。

―――そういった登用のサイクルを対外的に発信していくことで、新たな人材が集まる、いい循環も生まれます。

佐々木 そうですね。選手たちにも「我々はプロのクラブチームなので、様々な発信力がなければダメだ」ということを話しています。産声をあげたばかりのチームですし、皆さんに知っていただくことが大事です。我々も様々な企画をやっていきますが、選手たちはどんどん前へ出てほしいですし、そうすることでご協賛いただく会社さんに対する価値も上がっていきます。コロナ禍においてスタジアムに人を集められず、協賛価値が薄くなっている現状ですが、視点を広げれば、できることは様々あると思います。プロとして、お金をもらってサッカーができる環境を自分たちでも作らないといけないと感じてくれているベテラン選手もいます。そういった選手が中心となり、積極的に取り組んでほしいですし、もちろん我々もやらないといけません。

練習中、笑顔も見える鮫島や有吉

―――「今日からプロだ」と急に意識を変えるのは難しい側面もあります。プロリーグ化について、現状での期待と課題はどういったところに感じますか?

佐々木 男子チームと同様の環境を構築するには至っていない現実があります。徐々にレベルを上げていかないといけませんし、WEリーグは今年から始まりますが、理想的なスタートが切れる状況ではありません。選手・スタッフへの賃金もそうですし、環境もそうです。それをしっかりと構築していかなければ、「WEリーグはなでしこリーグに毛が生えたくらいのもの」と言われてしまいます。我々自身が構築しないといけないことは日進月歩だと思います。

―――プロリーグになるからと言って、選手クオリティが急に上がるわけではないですし、指導者も多くの選択肢はありません。ピッチ内で急激な変化が起きることが難しい中、なでしこリーグとWEリーグが違うということを示すには何が必要でしょうか。

佐々木 WEリーグの理念でもありますが、選手はプロとしてサッカーをするだけでなく、地域に関わりながら発信力を持って取り組むこと、プロとしてスポンサーがいることを考えて露出を図らなければいけないということを意識しないといけません。開幕時、スタジアムに観客が足を運べる状況になっているか不透明ですし、そうすれば協賛価値も落ちてしまう。そういった意味でもっと発信力を高めなければいけません。

 メディアやSNS、YouTubeなども使い、練習を見てもらったり、トレーニング以外のレクリエーションであったり、どんどんクラブの姿を出していき、見てもらう。まだまだ、やれることはたくさんあると考えていますし、「それがプロなんだ」ということを選手にも知ってもらいたいですね。なでしこリーグはいい試合もありましたが、興行性が強いわけではなかった。今はコロナ禍なので、スタジアムに足を運ぶよりも、映像を見ていただくことが多いと思います。その中で何をするかということでしょうね。

―――確かにコロナ禍ではありますが、集客へのアプローチも課題の一つだと思います。これまでは男子チームのコアサポーターや4、50代の男性が中心でした。その層はもちろん大事にしつつ、新たに女性にスタジアムに足を運んでもらう、将来のWEリーガーになる少女に見に来てもらうという点はいかがでしょうか。

佐々木 そこが地域絡みのPRがつながる部分だと思います。例えば、試合開催日が土日ですと、どうしても子どもたちの大会と重なるなどが想定されます。しかし、開催時間などで解決できるのであれば、積極的に取り組みたいと考えています。後半からでも見に来てもらえるやり方や、試合後に選手と交流の機会を設けるなどがありますね。コロナ禍での難しさはありますが、キックオフに遅れても何かに関われるやり方などは考えたいところです。

4月中旬、佐々木総監督らが新座市長を表敬訪問

―――その地域密着についてはいかがでしょうか。母体となっているFC十文字VENTUSは埼玉県新座市や東京都清瀬市がメインエリアで、大宮とは異なっています。

佐々木 2月から本格始動し、開幕は9月。三菱重工浦和レッズレディースさんやちふれASエルフェン埼玉さんのように、埼玉県で長年戦ってこられたクラブと我々は違うので、積極的にアプローチ、アクションをしていくことを選手たち含め、やっていかないといけません。埼玉県に3クラブあるので、存在感を示すことが大事になりますね。

―――9月の開幕に向けてのチーム作りはいかがでしょう。

佐々木 まずはベースをしっかり作る。コンディショニングは焦らず、もう一度しっかりと足場固めをして、徐々にチーム戦術的な要素に移っていきたいと思います。そして、試行するのが4月から始まるプレシーズンマッチ。それをまた整理して、準備していきます。ただ、プレシーズンマッチ後、9月の開幕までの期間をどうするかが、現在の懸念ですね。コロナ禍においてどうなるかは不透明ですが、ヨーロッパのトップクラブが集まる大会から声をかけてもらっています。状況が許せば、参加したいですね。参加可否は決まっていませんが、そういった経験を重ねられれば、いい準備につながると思っています。

―――佐々木さんの人脈に期待している方も多くいらっしゃると思います。

佐々木 男子チームのアカデミーが海外の大会に参加したこともありますし、いろいろな情報を集めています。女子チームを作ることになったことで、案内をもらうこともあります。仮に今年がダメでも、来年以降も考えてトライしたいですね。

―――最後に期待されているファンの方へメッセージをお願いします。

佐々木 チーム創立1年目だからと甘えず、経験のある選手、実力ある選手に来てもらいました。攻守にアクションする、しっかりとしたフットボールに女性ならではの要素を加味して、チームを構築していきたいと思います。また、選手自身にも様々な経験や知識、社会性のある教養を示してもらいつつ、地域の皆さんと共有しながら、お互いに成長していきたいですね。エンパワーメントをしっかりと意識して、大宮アルディージャVENTUSは活動していきたいと思っています。

2月上旬、チーム顔合わせの日に撮影した集合写真

By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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