約7年にわたってアメリカでプレーしている川澄 [写真]=Getty Images
全世界で人気のサッカーゲーム『FIFA 23』に3月からアメリカのナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)が、選手含めて実名で実装されることになった。
2014年にシアトル・レインFCに移籍してアメリカでのプレーをスタートさせたMF川澄奈穂美は日本でのプレーを挟みながら、現在はNWSLに所属するNJ/NY ゴッサムFC(旧:スカイ・ブルーFC)でプレーしている。今回のゲーム登場に際し、アメリカでの生活やリーグ環境、自身の変化などについて聞いた。
インタビュー=小松春生
―――途中、日本でプレーする期間もありましたが、アメリカでのプレーは足掛け7年ほどになりました。
川澄 2020年は新型コロナウイルスの影響でカップ戦だけの開催でしたが、レギュラーシーズンとしては8シーズン目ということで。2016年は途中からの加入だったので、通算で言うとそれぐらい経ちましたね。プロ選手としての意識はアメリカナイズされているな、と自分でも感じます。
―――アメリカで長くプレーされてきた中、プロスポーツの捉え方、プロフェッショナリズムはどう感じていますか?
川澄 アメリカに初めて来たのが2014年で、当時から今も変わらず感じることは、アスリートがすごくリスペクトされている国だということです。アメリカ人は知らない人と話すことが好きで、遠征中に話しかけられたりもしますが、プロのアスリートだと伝えただけで、「すごいね」「頑張ってね」と言ってもらえます。リスペクトされていることと同時に、そう見てもらえることで、アスリート自身がアスリートであることに誇りを持てるんです。コロナ禍でスタジアムに行けないなど、制限があった時期もありましたが、「スタジアムに行かなくても」「オンラインで済むね」としてしまうのではなく、もう一度スタジアムに足を運んでいる印象もありますし、スポーツが心から好きなんだと、ここに身を置いてとても感じます。
―――サッカー人気も年々高まっています。
川澄 サッカーに携わっている人たちが、スポーツの持つ可能性をすごく感じていて、それを最大限引き出そうとしています。アスリートはプレーに対して最大限の努力をして伸ばしていきますが、フロントなどのサポート体制もすごくしっかりとしていて、みんなで興行として盛り上げていこうという意識があります。アメリカの女性にとってはスポーツと言えばバスケかサッカーかというぐらいの人気スポーツですし、盛り上げようという意識が強いですね。
―――先ほど「リスペクト」のお話が出ましたが、クラブやリーグの運営側からも感じますか?
川澄 すごく感じています。NWSLは2013年に始まりましたが、それ以前に2度プロリーグがダメになっているんです。当時、いろいろと問題があったんですが、そこからしっかりと学んで。2014年にシアトル・レインに加入した時も、日本より環境がいいと感じました。プロモーションなども積極的にやっていますし、それが年々改善していることが目に見えてわかるんです。ゴッサムFCには2019年から加入しましたが、当初は大学の施設を借りて練習をしてたんです。でもコロナでの1年を経た2021年からは、男子のニューヨーク・レッドブルズが使うスタジアムを自分たちのホームとして使用できるようになりましたし、練習場もレッドブルズのアカデミー施設を使わせてもらい、天然芝で毎日練習できるようにもなりました。去年までなかったプレハブハウスも今年できていて、そこでミーティングや朝食、昼食を取れるようになったり。選手も目に見えてわかる環境の改善があるので、チームとして良くしていく気持ちが伝わります。
―――行動で示されると、選手側もそれに報いないといけないという好循環が生まれますね。
川澄 本当にそう思います。勝負事なので勝ち負けは絶対にありますし、順位でいけば自分たちは昨シーズン最下位です。そうなれば環境が悪くなっても、文句も言えない、仕方がないと思うのが日本人的な考えだと思いますが、こちらではその感覚がまったくなく、とにかく良くなっていくし、「プロスポーツ、プロ選手とは」をフロント側が示してくれるので。気持ち、情熱を感じますし、人とお金もすごくかけています。
―――今シーズン、チームとご自身の状況はいかがでしょうか。
川澄 監督が変わり、いろいろと試しながら進んでいます。チームとして積み重ねる部分は、シーズンの中で上げていくものはありますが、スタートラインに立つには、少し自信が持てていない状況であるのが正直なところです。ただ、チームとしてやることも見えていますし、自分自身のコンディションは上がってきています。チームとしてしっかりと積み重ねていきたいですね。
―――コロナでの中断や日本で一時プレーしている期間はありましたが、在籍5年目を迎えるということで、チームに対しての働きかけも示す立場でもある思います。
川澄 長い間、アメリカでプレーしていますが、大した英語力もないですし、味方に発破をかけるほど、声かけをできる選手でもないです。経験のある選手はチームに何人もいるので、そういった選手が日々やってくれています。もちろん、そこに甘えず、できることとして大枠の意識付けの声かけよりも、細かい戦術的な部分やプレー面のアドバイスなど、具体的なコミュニケーションを心掛けています。加えて、自分自身が必要だからやっていることではありますが、練習前のストレッチや練習後のクールダウンなど、選手として長くプレーするために必要なことを姿勢で見せていますし、しっかり行動で示せるようにはしたいです。
―――昨季は1ゴール2アシストでした。具体的な目標はありますか?
川澄 まず試合に出ることが大事です。その中で、いつも具体的な数字の目標は作らないのですが、やはり昨シーズンよりは、という思いはあります。
―――女子サッカーの地位向上という点で、『FIFA 23』では男子と女子が同じゲーム内で使い分けできます。今作ではエンバペとサム・カーが並んで表紙にもなっていますが、意義のあることだと思います。
川澄 すごくありがたいですね。近年、ヨーロッパを中心に女子サッカーの人気が上がっていることは広く認識されていることだと思います。一緒になって盛り上げていこうという姿勢として、こうして出していただけることはありがたいです。今年はFIFA女子ワールドカップもありますし、開催国であるオーストラリアのサム・カー選手を顔に持ってくることもさすがだなと思います。そういったところにしっかり乗っかって、女子サッカーがどんどん盛り上がっていってくれたら嬉しいです。
―――ちなみに川澄選手はあまりゲームをやられているイメージはないですが…。
川澄 めちゃくちゃ機械音痴で(笑)。ゲームも下手で…。ゲーム機を買ってもらえない家庭だったんです。子どものころはゲーム機がある家庭は限られていて、ゲームがやりたいなら誰かの家に行ってという時代でしたけど、自分は買ってもらえなかったことを含めて、ゲームができない子どもが大きく育った感じですね。
―――今回はゲーム内に川澄選手も実装されます。これまでカードゲーム等では登場していましたが、ゲーム内で動くことはなかったと思います。
川澄 素直に嬉しいですね。「ゲームになるんだ!」と思って。動きは操る方次第だと思うので、実際の試合ではできないことをバンバンやって、すごくいい選手にしてほしいです(笑)。
―――川澄選手のレーティングはどの要素も万遍なく備えている形です。そのイメージは嬉しいですか?それとも「この能力が突出していたほうが」と思ったりしますか?
川澄 グラフの面積が少しでも膨らんでくれているならありがたいので、どこかが突出していなくていいですし、参加させていただいているだけでありがたいので。スピードところは、へこませてもいいくらい遅いです。あえて突出させるところがあれば、パスの精度が高くなると嬉しいですね。
By 小松春生
Web『サッカーキング』編集長