[写真]=兼子 愼一郎
3月5日のキリンチャレンジカップ・ニュージーランド戦は、立ち上がりのゴールラッシュで日本が4-2で勝利を収めた。この試合では改めて日本の両エース、本田圭佑と香川真司にフォーカス。所属するビッグクラブで苦しむ両者のプレーぶり、そして彼ら自身の現状について、そしてW杯メンバー「23人」について解説者の玉乃淳氏に話を聞いた。
――試合開始早々からのラッシュでゲーム自体は終わってしまった印象ですが、個人としての本田、香川の出来をどう観ましたか?
「何も変わってはいないですよ。決して“キレキレ”ではなかったと思いますけれど、雰囲気もプレーも別に変わっていない。相手が強くなればなるほど立ち向かえる選手だと思うので、こういう試合でスペシャルに輝くタイプではないですよ」
――彼らが所属チームでの立場が危うくなっていることについてはどう観ていますか?
「香川はマンチェスター・ユナイテッドで、ルーニーたちとポジションを争っている。本田圭佑はミランでカカたちとポジションを争っている。そういう立場の選手たちです。彼らはどちらも今の監督が取ってきた選手じゃない。試合に出られない、出ても活躍できない。そこでどうなるかと言えば、とてつもないプレッシャーをかけられる。『香川』、『本田』じゃなくて『国として大したことない』みたいなことを言われながらやっているはずです。ユース年代ですらそうでしたから。監督やオーナーの“お気に入り”じゃなくなったと分かると、この“アジア人野郎”みたいに名前すら呼んでくれなくなりましたからね。僕の場合もそうだった。ましてや、あのビッグクラブですから。選手やサポーターに限らず、スタッフですらそういう目で観てくるようになる。最初はすごく優しかった人でも、本当に手のひらを返してくるんです。本当に人間不信にもなりますよ。僕のレベルですらそうだったから、彼らの強いられている戦いはどれほどのものか」
――欧州を代表するビッグクラブですからね
「日本では、欧州のビッグクラブでポジションを争うということの本当の厳しさが理解されていないようにも思います。長友佑都がインテルでうまくいったから、余計にそうなっているのかもしれない。でも、そんな簡単なものなわけがない。彼らは何億人から選ばれた選手の中で争っている。そこは努力すればいいという問題じゃない。才能があればいいという問題でもない。普通の選手だったら1週間で心が折れちゃうような中で、戦っているんです。『試合に出てないから心配』とか、そういうことじゃない。今日の彼らを観ていても、その心が決して折れていないことはよく分かったと思います。まあ、僕だったら1日で逃げ出しちゃいますよ(笑)」
――心配はしていない?
「逆に頼もしい。そういう環境でも折れない選手が日本代表のユニフォームを着て、ピッチに立っているんのだから。時には偏見と戦い、常にプレッシャーを受けながらやっているのを簡単に比べられない。レギュラーになれなければ価値がないという人もいるけれど、あのビッグクラブで精神的なタフさ、シビアな部分を体感することで彼らが得ている経験がどれほどのものか。そんな苦労、したくても誰もできない。『ドルトムントやCSKAモスクワに残っていれば良かった』なんて言う人もいるけれど、僕に言わせれば『何を言っているんだ』という話。もちろん、来季以降に違った選択をするというのは一つの考え方です。でも行ってみたからこそぶつかる壁がある。彼らがいま向かい合っている巨大なモノと、そこで得られる経験は日本サッカーと日本代表にとっての財産ですよ。ここまで来たら、最後はこの二人を信じるしかない。僕は信じます」
――23人の選考という意味でも重要な意味を持つ試合でしたが、そちらはどうですか。
「むしろ、この試合にすら出ていないような“23人目”をザッケローニ監督は考えているんじゃないか。そういう気もしています。チームは生き物なので、この最後の段階での刺激、今までの積み上げじゃない化学変化があったほうがうまくいく。それはスタメンで出る選手とは限らない。スペイン代表の栄光が、控えGKであるレイナあってこそのものだったと言われるのは、別に不思議なことじゃない。サッカーでは、ベンチメンバーにそういうポジティブな影響力を持つ選手を最後に加えるというのは一つの選択です。その意味で“23人目”に注目したいですね。日本代表選手たちの掲げるW杯優勝なんて奇跡みたいな目標ですし、そこに至るためのラストピースは、この選考にあるんじゃないでしょうか。国民の9割がひっくり返るような選考があってもいいし、あるべきだとも思っています」
構成=川端暁彦
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