W杯の日本代表メンバーに選出された内田篤人 [写真]=VI-Images via Getty Images
10日の13-14シーズン・ブンデスリーガ最終節のシャルケ対ニュルンベルク戦。ザックジャパン長期離脱3人組の中で最も深刻な状態にあると言われていた長谷部誠が昨年12月以来のリーグ戦先発フル出場を果たす傍らで、内田篤人は無念のベンチ外。今季中の復帰を果たせなかった。
悪夢が起きたのは2月9日のハノーファー戦だった。前半から2─0と完全にゲームを支配した後半終了間際、内田は元アタッカーの血が騒いだのか、自らドリブルで持ち上がって攻めに出ようとした矢先、相手につっかけられて転倒。右太ももを痛めたのだ。いったんはピッチに戻ったものの、歩くことさえままならない。誰の目から見ても明らかな重傷で、6月のブラジルワールドカップへの影響が懸念された。
だが、ザッケローニ監督は12日の日本代表メンバー23人発表会見で、内田の名前を8番目に呼んだ。2大会連続の選出を清水東高校サッカー部同期メンバーのLINEのメッセージで知ったという彼は、都内で公開記者会見にのぞみ、完全復活一歩手前まで来たこの3カ月間をしみじみと振り返った。
「ケガをした瞬間は単なる肉離れだと思ったんです。最初の診察では『肉離れ』と言われたけど、シャルケのドクターに見てもらったら『腱がない』って言われた。それでまた別の病院に行ったら、偉い先生が3人くらい出てきて『すぐにオペ(手術)をする』って話になった。それで『ちょっと日本に帰らせてくれ』って言ったけど、正直『ワールドカップに間に合うのかな』と思いました。大雪が降った2月14日に帰国して、鹿島(アントラーズの)ドクターに『手術はなし』って診断された。そこから少しずつ『間に合わせたい』という気持ちになりました」
「JISS(国立スポーツ科学センター)でリハビリしてた時には他の競技の人と一緒になったけど、みんな汗をかきながら必死にやってた。そういう姿を見て自分も真剣にやらないといけないと思いました。3月末にドイツに戻った後もドクターやトレーナーが来て治療をしてくれたんで、間に合うと思ってました。ザック監督も現地まで来てくれて話もしました。そういう人たちの協力があって、今はスプリントや階段でのダッシュ、2対2とかの対人もガツガツできるようになった。スライディングもガンガンやってるんで、チームにポンと入ってもやれると思う。リーグ戦があと1〜2週あったら、復帰して試合というのも間に合ったかもしれない。8〜9割くらいの状態まで戻っていると思います」
本人は1カ月後の本番には間に合う自信と手ごたえを口にした。
そこまでして内田がブラジルの地に赴きたかったのは、出場なしに終わった4年前の悔しさがあるからに他ならない。2008年に当時の岡田武史監督率いる日本代表入りして以来、最終予選をコンスタントに戦ってきた彼が本番目前でベンチに下げられた。指揮官は「内田では守備力に不安がある」と考え、今野泰幸(G大阪)や駒野友一(磐田)を右サイドに据えたが、本人にしてみればこの扱いは受け入れがたいものだった。直後に移籍したシャルケで屈強な男たちとマッチアップを繰り返し、守備力を徹底的に磨き、ネイマール(バルセロナ)のような世界トップクラスのアタッカーと対峙しても動じなくなったのは、この悔しさがバネになったからだ。
「当時は対戦国の名前や選手名は知っていても、それ以上のことを知らずにやっていた。大会中も出れなくて苦しかったけど、そのまま終わらせるんじゃなくて、自分のために何かを変えないといけないってのは分かってた。あの経験を無駄にしてはいけないと思ってやってきました。この4年でチャンピオンズリーグとか、欧州リーグとか、シャルケにもいろんな代表選手がいるから、今はだいたいのレベルが分かる。いろんな大会に出たし、自信もある。そういう中で、やっぱり重要なのは勝つことだと思います」と、内田はスケールアップした自分自身を世界の大舞台で今一度、示すつもりでいる。
気になるのは、いつ完全復帰できるかだ。本人によれば「最初から行くのか、おさえていくのかはトレーナーの人とかドクターに話をしてから決めないと。再発が怖いので。本大会まで3試合(キプロス、コスタリカ、ザンビア)ありますけど、どこで90分出るというのはちょっと分かりません」ということだが、おそらくアメリカへ移動してからフル稼働できればOKと考えているのではないだろうか。
南アの時も、壮行試合の韓国戦では負傷離脱し、最後のテストマッチだったコートジボワール戦で3本目に出た松井大輔がそこから一気にコンディションを上げてきて、大会を通して高い走力を維持したケースがあった。その松井も「初戦に照準を合わせて焦らずやればいい」とかつての戦友にアドバイスを送っていた。大きく構えて、じっくり調整する。そうすれば、内田らしさは必ず取り戻せるはず。ここからの巻き返しに大きな期待を寄せたい。
文/元川悦子
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