大敗したブラジル戦で見えたアギーレ流の攻撃と守備とは [写真]=Getty Images
4年後のW杯へ船を漕ぎ出したアギーレ・ジャパン。ジャマイカ、ブラジルと対戦する10月シリーズでは、新たなJリーガーの新戦力が際立ち始めている。今回の『J論』では博識の党首・大島和人が新しく代表に選出された選手が多く先発したブラジル戦で見えた希望と失望を論ずる。
■攻守に狙いが見えた前半
6人を入れ替えると聞いてはいたけれど、スタメンを実際に目にしたときはさすがに驚いた。このメンバーでブラジルとどう戦うのだろう――。
スタメンのうち、W杯ブラジル大会のメンバーに入っていなかった選手が7名。森重真人、酒井高徳の2人もレギュラーではない。日本は本田圭佑や長友佑都をベンチに残し、代表初スタメンの田口泰士を筆頭に、スタメンの過半がキャップ数一桁という陣容で、サッカー王国ブラジルと対峙することになった。
前半の日本は決して悪くなかった。選手同士の距離感、チャレンジ&カバーなどの連携は40日前のウルグアイ戦に比べて着実に整備されている。守備も決してべた引きでなく、2トップ、インサイドMFがブラジルのDFラインに踏み込んでチェックに行けていた。近からず遠からずの距離感で相手の正面に詰め、ゴールに直結する選択肢を奪う守備が見て取れた。
攻撃も形は作っていた。ブラジルがやや引きこんで守っていたという事情はあるが、前半の日本はDFラインの手前へのくさびをかなり自由に入れていた。森岡亮太、柴崎岳、田口泰士を配置した理由も、彼らの“厳しいコースにミドルパスを付けられる”というスペシャリティに期待しているからなのだろう。ゴールという結果にはもう一手二手が必要だろうけれど、道は見えている。
前半24分の小林悠のボレー、同35分の岡崎慎司のヘッド、そして47分のCKから放たれた田中順也と塩谷司のシュートは十分に可能性のあるフィニッシュだった。“決定機の数”で見れば、前半は五分の展開だった。
■イエローカード「0」
もちろん、すべてが狙い通りに機能していれば0-4で負けていない。ただ日本の課題を語る前に一つだけ“エクスキューズ”を許して欲しい。ネイマールが凄すぎた――。
例えば1点目の抜け出しは、DFの凡ミスに見えるかもしれない。しかしよく見ると事前の駆け引き、予備動作があり、パスが出る瞬間を狙い済ます嗅覚がある。ステップの切れやキックの質は言わずもがなだ。
日本の守備はそんなクラッキに対して、手もほとんど使わず、足で引っ掛けて削ることもなく、1試合のイエローカードが「0」という“フレンドリー”な守備で応じた。ネイマールを気持ちよくプレーさせてあげた結果の4ゴールである。フェアに止める能力がなく、ネイマールとブラジルの強みを消す工夫がなく、さらに汚名を背負う覚悟も無かったのだから、アギーレジャパンはこの結果を受け入れるしかない。決して皮肉でなく、試合が決まった後にもラフなプレーをしなかった“潔さ”は、日本の美点だと思う。
攻撃もまだほとんど手つかずだった。縦パスという“スイッチ”が入ることはいいけれど、前半から縦の“往復運動”が多すぎた。バリエーションのない一本調子のビルドアップだから、相手は対応がしやすい。日本は後ろに下げてパスコースを増やす、短いパスを刻んでテンポを作るというというような前後、長短、緩急の活用がなかった。このようなアタックは相手から見れば的を絞り易く、自分たちは緩む時間が無いので攻め疲れる。スペインやメキシコのようなしたたかなポゼッションとは程遠い、日本の単調なアタックだった。
日本がゼロで凌いでブラジルの焦りを誘う展開になれば、また違う結果があったのかもしれない。アギーレ監督が「2点目が入ったところから崩れてしまいました」と振り返えるように、後半早々の失点も痛かった。点差がメンタル的な焦りや、前に行かなければいけないという戦術的な無理を招いたことは事実だろう。ただあの息切れには、攻め急ぎによる体力的な消耗が招いた“必然”もあるように思う。加えて守備組織が付け焼刃で堅牢さがない。歯車の一つズレると機能しなくなる状態に止まっている。後半は“3失点でよく済んだ”という内容だった。
■正攻法で限界を知る過程
スコアや後半の崩れ方はどう考えてもネガティブだし、何も得るモノがない試合という評価もあるかもしれない。しかし前半の守備は十分に評価できるものだった。攻撃も“行けるところまで行く”ということで、今はまだ構わない。正面突破を経験することで何が無駄か、何が過剰かというところをそれぞれが知り、“ブレーキのかけ方”と“カーブの曲がり方”をチームで共有していけばいい。
国際経験の浅い選手が過半を占める、結成されて4戦目のチームが、あのブラジルを相手に堂々と戦った。ネイマール以外の選手には、90分間得点を許さなかった。失望と希望の両面が見て取れた、シンガポールの夜だった。
文●大島和人
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