日本代表を率いるアギーレ監督 [写真]=Getty Images
まさしく、似て非なるものだった。ブラジル・ワールドカップのメンバーがホンジュラス戦では10選手、オーストラリア戦でも9選手が先発出場したが、ピッチで見せたサッカーはアルベルト・ザッケローニ氏が率いた前体制とは異なっていた。
顕著な点を挙げれば、サイドチェンジの多さになる。ザック体制では一方のサイドで攻め切り、両サイドバックが同時の攻め上がりを少なくすることで、相手にボールを奪われた際のカウンターを防ぐ明確な狙いがあった。一方、ハビエル・アギーレ監督は中盤の底にアンカーを置くことで、失点のリスクをコントロールしている。そして、攻撃の局面ではアンカーが最終ラインまで下がることで、両サイドバックを高い位置に押し上げる。
他にも例を挙げるならば、縦への意識付けだろう。前体制は中盤の構成力に力点を置いていたが、アギーレ体制の重心は、もう少し後ろにかかっている。ビルドアップでは、センターバックとアンカーが大きく関与して、最終ラインから積極的な縦パスも多い。とは言え、プレッシャーのかかる場面では無理に繋ぐこともなく、前線にロングボールを蹴り出すことも少なくない。
岡崎慎司は今回の合宿中、「自分が1トップをやるときは、『絶対にこういうプレーをする』とは思っていない。試合の流れを見て、どういうプレーの判断をするかということ」と話している。前代表は、センターFWも前線に張り出すことなど細かに動きを決められていたが、現体制では比較的自由に動くこともできそうだ。
もちろん、方法論が異なるだけで、優劣がつくものではない。そして、ザック色が薄まれば、そのままアギーレ色が色濃くなるほど、ことは単純ではなさそうだ。
ブラジル・ワールドカップ以来の復帰となり、ホンジュラス戦でフル出場した内田篤人は試合後、「ザックさんのメンバーが戻ってきたけど、やっている戦術はだいぶ違うかな」と語るとともに、「特に細かい指示はないので、ある程度自分たちで考えてやっていいのかなと思う」と口にする。香川真司がホンジュラス戦で度々前線に送った低い弾道のロングボールも、前体制では見られなかったシーンだが、本人によると監督の指示ではなく自身の判断だったという。
序盤から相手のプレッシャーを受ける形になったオーストラリア代表戦では、35分頃に4-3-3から4-2-3-1にフォーメーションを変更。中盤の形を就任以降に起用していたアンカーを置く逆三角形からダブルボランチに変えたことで、結果的に試合の流れを引き寄せた。指揮官の臨機応変さももちろん際立ったが、選手の対応力の高さも特筆に値する。フォーメーションの変更とともに、サッカーの内容も回帰しては元も子もないが、選手の自由度は変わらないようだ。指揮官の交代により全てがリセットされてしまうのではなく、フォーメーションの継承という面など、しっかりと上積みされている部分もあるだろう。
現時点では、オートマチックにプレーを遂行させるための制限が解かれて、選手個々の裁量が大きくなっていると言えそうだ。オーストラリア戦の前日会見で、「相手ボールの時の形という練習を、かなり行っている」と明かした指揮官は、今後に攻撃面でもアギーレ色というべき決まり事を植え付けていくのだろうか。それとも、「自由」を与えることこそが、最大のアギーレ色ということになるのか。
「12月29日にアジアカップに向けた合宿が始まり、そこからタイトルを守るディフェンディングチャンピオンとしての仕事が待っている」
就任から3カ月ということもあり、チームの輪郭はまだおぼろげ。基本布陣は、就任以降に継続採用していたアンカーシステムか、ダブルボランチかの2択も浮上しそうだが、「あまり重要なポイントではない」と指揮官は言う。最大のライバルと目されるホスト国との前哨戦を制したものの、アジアカップは約1カ月半後に迫っている。連覇に向けたチーム作りは、最適解を目指して待ったなしの状況が続く。
文=小谷紘友(サッカーキング編集部)
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