代表戦8戦不発の香川真司 [写真]=Getty Images
直前の試合でヨルダンがパレスチナを5-1で圧倒して勝ち点3を手に入れ、2015年アジアカップ(オーストラリア)1次リーグ突破の行方が混沌としてきたD組。日本としては16日の第2戦・イラク戦(ブリスベン)で確実に2連勝し、ヨルダンとイラクにプレッシャーを掛けたかった。
そんな日本の最初に決定機は11分、本田圭佑(ミラン)が右サイドでドリブルでタメを作った瞬間、鋭い抜け出しで前線に上がった香川真司(ドルトムント)がフリーで右足を振りぬいた場面だった。4日のオークランドシティとの練習試合でも、エースナンバー10が最初の得点機を外してチームが苦しくなった。彼としては同じ轍を踏みたくなかったに違いない。けれども、この日もシュートは枠の外。またしても嫌な予感が漂った。
「あの動きは練習の中から要求してお互い言い合ってた。ああいうのをもっともっと増やして、ボールをスピードに乗った状況で受けられるようにできれば、自分のチャンスも増えるんじゃないかと思います」と香川自身もイメージ通りのプレーだったようだが、どうしてもフィニッシュの精度を欠いてしまう。
それでも気を取り直して、精力的にゴールへと向かい続けた。前半22分には、遠藤保仁(ガンバ大阪)→乾貴士(フランクフルト)と縦パスが通り、その折り返しに絶妙のタイミングで飛び込む最高の形が生まれたが、シュートはまたしてもGK正面。こぼれ球を本田が拾ってPKにつなげてくれたものの、「あそこは決めきらないといけない。結果的にゴールは入りましたけど、絶対に決めなきゃいけないので、すごく悔しい」と本人も反省しきりだった。さらに清武弘嗣(ハノーファー)と今野泰幸(G大阪)が入った後半にも、岡崎慎司(マインツ)からラストパスを受けてGKと1対1になった28分の決定機が巡ってきたが、再び弾かれてしまう。結局、これで国際Aマッチ8戦不発。長友佑都(インテル)の「明日は決めますよ、彼は」という予言にも応えることができなかった。
ドルトムントでシーズン13ゴールを挙げていた2012年当時の彼だったら、いずれのチャンスも確実に決めていたシーンばかり。だが、今の香川はゴール前での冷静さやフィニッシュの感覚がやや鈍っていると言わざるを得ない。マンチェスター・Uでの2シーズンで合計6点しか取れず、古巣復帰した今シーズン、ドルトムントでも1点と結果を残していないことで、絶対的な自信を持ってプレーできない自分がどこかにいるのだろう。繊細な香川は誰よりもメンタルに左右される選手。そのナイーブさを克服してこそ、真のエースナンバー10になれる。そこは今の彼に課せられた非常に大きな課題と言っていい。
とはいえ、アギーレ体制発足後に出場した過去4試合に比べると、インサイドハーフとしての前進はハッキリと見られた。前述した3度の得点機を筆頭に、中盤からゴール前へ飛び出すタイミングや鋭さには磨きがかかってきた。ブリスベンの高温多湿の気象条件の中でも豊富な運動量で相手を凌駕し、攻守両面でアグレッシブに顔を出していたし、ゲームメークの面でもパスやドリブルで多彩な変化をつけていた。「真司が間で受けてくれたりするので、そこに当ててワンツーとかは狙いやすかった。動きやすかったしやりやすかった」とセレッソ大阪時代からの盟友・乾も香川とのコンビネーションに手ごたえを口にしたが、自分の周りにいる乾や岡崎、本田、遠藤らといい距離感でリズムを作れるようになったのは間違いなく進歩だ。
ただ、本人は決して満足感を言葉にしなかった。
「これだけスペースがあればチャンスに絡めるのは当然ですし、最後決めきるかっていうのはとても大きな問題だと思うんで、そこで決めきれる選手にならないと自分も成長していかない。やっぱり結果を残さないと上に上がっていけないと思ってるんで、そこは強くこだわっていきたいですし、結果を残さないと意味がないと思ってます。
自分はフィニッシャーというか、シュートを打つ側としてもっと絡んでいけるような動き出しをしたい。シュート数にしても足りないので、もっとタイミングをつかんでいきたいし、最後の3分の1のところでスピードに乗った状態でボールを受けられるのが自分の一番のよさでもあるんで、それを増やすように走りの質や仲間とのコンビネーションを高めていければいいと思います。
僕自身、もっとできる感触はあるし、自分が目指すのはこのポジションでチャンスメークに徹することではないので」と、理想高き男は絶対に妥協を許さなかった。
それが香川のよさでもあるが、前人未到の国際Aマッチ150試合出場を達成した遠藤のように、もっと肩の力を抜いてもいいのかもしれない。もちろん連覇のかかる大舞台ではあるが、アジアレベルでの大会なのだから、香川はもう少し余裕を持ってプレーしていいはず。そうすれば自然とハードルを越えられる。とにかく20日のヨルダン戦(メルボルン)では重圧を取っ払って、チームの勝利に貢献することだけに集中してほしい。
文=元川悦子
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