アジアカップはグループリーグ3試合を終え、ついに準々決勝をベスト8が出そろった。3連勝でD組を突破した日本をはじめ、開催国オーストラリアに韓国、イラン、イラク、中国、ウズベキスタン、UAEという顔ぶれだ。
“眠れる虎“中国がようやく目覚めを予感させる奮闘を見せ、3連勝でB組1位となった他に、目立ったのは中東勢の苦戦だ。大会に参加した16カ国中の10カ国を占めたが、残ったのは3カ国だけ。しかも、相手に全く歯が立たずに惨敗を喫するチームが多かった。
最も期待を裏切ったのはC組で3戦全敗となったカタール。昨年暮れのガルフカップ(中東のガルフ地域の国が争う2年に1度の大会)優勝国であり、2022年のワールドカップ主催を予定している国の体たらくは見るも無惨だった。もっともカタールは4カ国全て中東というC組で戦っており、中東の趨勢を語るには説得力を欠く。同じくC組で敗退したバーレーンもしかりだ。
A組はオマーンとクウェートがオーストラリア、韓国と同居したが、下馬評としては韓国とオーストラリアの一騎打ちと見られていたこともある。ただ、オーストラリアからセットプレーで先制点を奪いながら、その後一気に逆転され、4-1で敗れたクウェート、同じく4失点で敗れたオマーンに共通して感じたのは機動力の不足だ。
個人能力ではるかに劣っていたわけではないが、攻守の切り替わりやワイドに速くボールを動かすパスワークに対して、ディフェンスが後手を踏み、最後はファウルかゴール前に張り付くしかなかった。しかも、そこから揺さぶられてバランスを崩す場面が目立つ。アジア随一の実力者と認められるオマーンのGKアリ・アル・ハブシの反応を持ってしても、完全なフリーでシュートを打たれてしまったらどうしようもない。
クウェートは堅守速攻を武器とするチームだが、オーストラリアや韓国に対してカウンターのスピードで相手を上回れず、結局は個人技でごり押しするしかなかった。しかも、そこでボールを奪われると逆に中盤のスペースを突かれてしまう。そういう意味で、対人能力の以前にチームのダイナミズムやインテンシティーという部分で大きく劣っていたと言わざるをえない。
そして中東の苦戦を象徴したのがB組に入ったサウジアラビアだ。北朝鮮にこそ4-1で大勝したが、中国に0-1、ウズベキスタンに1-3で負けて、前回に続くグループリーグ敗退となった。中盤にアジアでもトップクラスのテクニシャンを揃えるが、何しろオフ・ザ・ボールの動きが少なく、ボールを持った選手以外は歩いて戦況を見守っている選手の方が多かった。
守備では屈強なセンターバックと4-3-3のアンカーを担うMFサウード・ハリリの頑張りが目立ったが、前線とサイドMFの守備がルーズで、簡単にワイドの深い位置までボールを運ばれてしまった。またボールを奪ってから全体の切り替えが遅く、相手にすぐ対応されたのはオマーンと共通する。
日本のD組ではアジアカップの予選にあたるチャレンジカップを勝ち上がったパレスチナは中東勢でも最も力が落ちると見られており、奮闘したものの、下馬評通りの結果になった恰好だが、ヨルダンは日本に対して局面で苦しめる場面はあったものの、プレーのスピードに付いていけなかった。
中東勢は全体として攻守の切り替え、連動性、アウトとインの使い分けといった機動力の部分で大きく見劣りしたが、ポルトガル人のカルロス・ケイロス監督が率いるイランは中東勢としては別格の組織力とアジアトップのタレント力を融合し、UAEもボールを動かしながら人も動くスタイルがこの大会では良い方向に出ている。イラクは日本に敗れたものの、若い選手の推進力や運動量を発揮できていた。ただ、日本以外の対戦相手に恵まれた部分もあるだろう。
アジアカップの直前にガルフカップ(ガルフ地域ではないイランとヨルダンは参加しない)という中東の意地とプライドをかけた大会があること、母国から遠く離れたオーストラリアでの開催ということも大なり小なり影響しているはず。ここまでの結果をもって全てを断言はできないが、チームとしての機動力が無く、昔ほど割り切ったカウンター戦術も取らない中東勢は勢力が落ちていることを感じさせる大会となっている。
文=河治良幸