20日のヨルダン戦(メルボルン)に勝利して1次リーグ1位通過を決めた日本代表。2015年アジアカップ(オーストラリア)連覇に向けて着実に前進しているが、23日の準々決勝・UAE戦(シドニー)は相手より休養日が1日少なく、しかも移動を伴う過酷なスケジュール。日本にとってはかなり不利な状況だ。
ヨルダン戦で顔面を負傷した森重真人(FC東京)は、22日夜に試合会場のスタジアム・オーストラリアで20時半から行われた公式練習に合流しており、「今日もしっかり練習できた」と出場への意欲を示したが、チーム全体の疲労がどこまで回復できるか分からない。公式練習前に会見に臨んだハビエル・アギーレ監督は「昨日と今日のトレーニングを軽くしているので、回復すると思っている。明日までに100パーセント回復して、プレー強度が出て、スピーディーな展開になるようにしたい」と自信を見せた。その言葉通りの巧みなマネージメントを期待したいものだ。
対戦相手のUAEは1次リーグで合計8得点を叩き出しており、アハマド・ハリル(11番)のように複数ゴールを叩き出している選手もいる。日本としてはここまで1次リーグ3試合で見せたような堅守を貫くことが肝要だ。そこで期待されるのが、守備リーダーの吉田麻也(サウサンプトン)だ。
吉田と言えば、4年前の2011年アジアカップ(カタール)の準々決勝・カタール戦で退場劇を食らった苦い過去がある。あの時は香川真司(ドルトムント)の目覚ましいパフォーマンスにチーム全体が助けられ、2度のビハインドを跳ね返して3-2の逆転勝利を奪うことができたが、今回、同じような不安定感を露呈するわけにはいかない。当時はオランダの小クラブ・VVVフェンロの一員で、アジア全体でも知名度は高くなかったが、今はイングランド・プレミアリーグのクラブに所属し、2012年シドニー五輪4位、2014年ブラジルワールドカップも経験し、当時とは全く存在感が違う。
「今の自分たちは奪われ方が賢くなって大人のサッカーになった。多くの選手がワールドカップや前回大会を経ているので、奪われた後の切り替えの速さが非常によくなっている。後ろとしても限定しやすいし、チームとして守れている。ワールドカップであったような横パスを中盤で奪われる回数も少なくなっている。いいプレー、やってはいけないプレーをみんなが理解していると思います」と心身ともにスケールアップした吉田は、アギーレ体制発足後の守備面の成長に大きな手ごたえをつかんでいるようだ。
UAE戦はセンターバックのコンビを組む森重が万全の状態とは言えない。相手にスピードとテクニックのある選手も少なくないため、昨年11月のオーストラリア戦(大阪)の前半のようにアンカー・長谷部誠(フランクフルト)の両脇のスペースを使われ、ゴール前が絶体絶命の状況にさらされることもあり得る。そこで吉田が森重を含めた守備陣全体をいかにサポートできるか。それがチームの命運を大きく左右すると言っていいだろう。
「やはり一発勝負で小さなミスも命取りになるし、グループリーグは小さなミスを犯してもそこを突くクオリティが相手になかったと思うけど、これからの相手はそういうところを突いてくる。今までは失点ゼロできているけど、もう一度、そういう意識を持つことが大事」と長谷部も強調していた。その認識は吉田も全く同じ。「10番(オマール・アルドゥルラフマン)が持った時に裏に走ってくる若い選手がいるので、サイドバックとの連携が大事になる。前線の選手にスペースを与えない、無駄なファウルを与えないといった当たり前のことを当たり前にこなしていかないといけない」と吉田は自分がやるべきことを頭に叩き込んでいた。
この4年間で身に着けた落ち着きを吉田がこの大一番でも発揮してくれれば、日本が大崩れすることは考えにくい。ここは存分に積み上げてきたものを出し切ってほしいものだ。
文=元川悦子