リール時代はCL予選で中田英寿を擁するパルマを破るジャイアントキリングを果たした [写真]=Getty Images
日本サッカー協会は、ハビエル・アギーレ監督の後任として、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ出身でヴァヒド・ハリルホジッチ氏を推薦することを発表した。
同郷の先輩であるイビチャ・オシム氏との親交の深さや、昨年のワールドカップでアルジェリアを率い、ベスト16に導いた功績を中心に語られることの多い同氏だが、現役時代を含めたそのキャリアの大半をフランスで過ごしている。1995年に帰化申請してフランス国籍を取得した。
現役時代は強烈なシュートを武器に、ナントで2度のリーグ得点王に輝いた実績を持つストライカーだった。引退後の90年、生まれ故郷に近いFKヴェレジュ・モスタルで指導者としてのキャリアをスタートさせたが、2年後には、戦火にまみれた母国を後にして再びフランスへ。2部のボーヴェ・オワーズの監督に就任した。
翌シーズン、モロッコの人気クラブであるラジャ・カサブランカに引き抜かれたハリルホジッチ氏は、リーグタイトルとCAFチャンピオンズリーグの2冠を達成。98年のワールドカップに参加したGKムスタファ・チャドリやDFジャマル・セラミを中心とした手堅いチームをつくり上げた。
再びフランスに戻った彼が、指導者として最初に名声を世に轟かせたのは、リールを率いた1998年~2002年のことだった。98年当時、2部に属していたリールの監督に就任したハリルホジッチ氏は、就任1年目でクラブを2部リーグ優勝に導くと、翌99-00シーズンには1部昇格1年目で一気に3位に食い込ませて、サッカー界に衝撃を与えた。
2001年8月のUEFAチャンピオンズリーグ3次予選では、アウェイでセリエAの強豪パルマを下し、本大会への出場権を獲得。当時のパルマには、後にバロンドールを獲得するDFファビオ・カンナバーロ、アルゼンチン代表MFマティアス・アルメイダに加え、トップ下では中田英寿がプレー。前線にはユーロ2000得点王のFWサヴォ・ミロシェヴィッチらを擁し、カメルーン代表FWパトリック・エムボマが控えに回るタレント集団だった。
一方、モロッコ代表FWサラディン・バシールら一部の国際的プレーヤーを除くほとんどが無名の選手たちで構成されていたリールは、パス供給源である中田やサブリ・ラムシ(前コートジボワール代表監督)らを徹底的にマークして封じ、組織的なプレスでボールを奪うと素早く逆サイドに展開、前線にいる長身FWダギ・バカリに合わせるという、シンプルなカウンターサッカーを身上とした。
チャンピオンズリーグ本戦に出場したリールは惜しくもグループリーグ3位となり決勝トーナメント進出は果たせなかったものの、ホームでマンチェスター・ユナイテッドと1-1で引き分けるなど好勝負を演じた。この試合でゴールを決めたMFブルーノ・シェイルがリヴァプールへ、DFパスカル・シガンがアーセナルというプレミアの強豪に引き抜かれた。そしてハリルホジッチ氏自身も、選手の流出に対する穴埋め補強をしなかったフロントの消極性に嫌気が指して退団する。
翌シーズン開幕後、最下位に沈んでいたレンヌの監督に就任。レンヌでの指揮はわずか1シーズンで幕を終えたが、クラブを残留に導いた功績に加え、現・チェルシーのチェコ代表GKペトル・チェフや、後にリーグ得点王となるコンゴ代表FWシャバニ・ノンダら若手有望株を育て上げ、大きな評価を獲得した。
2003年、ハリルホジッチ氏は自身が現役生活の幕を下ろしたパリ・サンジェルマンの監督に就任。バルセロナへ移籍したFWロナウジーニョ中心とする個人技主体のサッカーから新加入のポルトガル代表FWペドロ・パウレタを軸とした組織的サッカーに切り替え、初年度でリヨンに次ぐ2位という好成績を残した。04年にはレジオン・ドヌール勲章(フランスの最高勲章)を授与されている。
日本代表監督を務めたフランスの指導者といえば、フィリップ・トルシエ氏が思い浮かぶが、ハリルホジッチ氏もトルシエ氏に負けないくらいの激情家だ。フランスでは確かな実績を残してきたものの、06年のサウジアラビアのアル・イテハド、14年のトルコのトラブゾンスポルなど、フロントとの対立の末、数カ月で退団するクラブもある。
一方、頑徹に3-5-2を貫き通したトルシエ氏とは異なり、戦術面では対戦相手や戦況によって様々なフォーメーションやメンバーを使い分ける戦略家であり、スター選手を優遇せず、全員守備、全員攻撃をモットーとする。その点はまさにイビチャ・オシム氏の見せた柔軟性にも通じるものがある。
情熱と知性を兼ね備えた稀代の名将が、日本を新たなステージへと導いてくれることに期待したい。
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