日本代表を率いるハリルホジッチ [写真]=Getty Images
文=戸塚啓
妥当な選考と言えるだろう。3月末の国際試合に臨む、日本代表のメンバーである。
3月19日に発表されたリストの作成にあたって、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督と彼のスタッフは、リーグ戦を1試合、ナビスコ杯を1試合しか見ることができていない。昨夏のブラジル・ワールドカップのメンバーが18人、今年1月のアジア杯のメンバーが20人という構成は、その意味で想定の範囲内だった。妥当な選考と言える一つ目の理由だ。
6月開幕のロシア・ワールドカップ予選へ向けてリスタートをきるメンバーには、2011年6月を最後に代表から遠ざかっていた興梠慎三(浦和レッズ)、12年11月以来の復帰となる宇佐美貴史(ガンバ大阪)、アルベルト・ザッケローニとハビエル・アギーレには選ばれていない永井謙佑(名古屋グランパス)が含まれている。J2のセレッソ大阪からは山口蛍も名を連ねた。また、藤春廣輝(G大阪)が初めてピックアップされた。
その一方で、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身の指揮官は31人もの選手を招集した。2試合のテストマッチでは、異例と言っていい人数である。
気になる選手を手元で見てみたい、という思いがあったのは間違いない。さらに加えて、今回の活動期間を最大限に利用したいとの意図がうかがえる。
チームは3月23日に集合し、同日からトレーニングを行なう。27日のチュニジア戦までに合計4回、31日のウズベキスタン戦までさらに3回のトレーニングを行なうことができる。
自らのコンセプトを落とし込める貴重な時間を、お決まりの23人で過ごすのはもったいない。負傷で戦列を離れている今野泰幸(G大阪)、長友佑都(インテル)、内田篤人(シャルケ)をリストに加えたのも、トレーニングとミーティングに重きを置いていることをうかがわせる。
4、5月は代表の活動がない。次回の集合は6月のW杯予選となる。できるだけ多くの選手にコンセプトを浸透させておきたいと、ハリルホジッチ監督は考えたのだろう。「グループは大きい」というメッセージは、限られた時間を有効活用する手段でもあるのだ。そう考えると、31人の招集もまた妥当な選考である。
バックアップメンバーをあらかじめ公表したのも、「グループは大きい」とのメッセージにとどまらない。新監督の選考基準や好みのタイプを、広く知らしめることにつながる。
選手側にもメリットはある。追加招集を念頭に置きながら、所属クラブでのトレーニングに臨むだろう。代表に呼ばれないまでも、選手に自覚を促すことができる。バックアップメンバーの発表は、今後も継続してもらいたい。
選考に関する論点のひとつには、遠藤保仁(G大阪)の落選も挙げられる。国際Aマッチ最多出場を誇る35歳は、今シーズンもG大阪でキャプテンに指名されている。
3月の2試合が絶対に負けられない公式戦なら、ハリルホジッチ監督は招集したかもしれない。いまこの瞬間の「点」において、遠藤は代表にふさわしい選手のひとりだ。川崎フロンターレの中村憲剛や大久保嘉人、阿部勇樹(浦和レッズ)や佐藤寿人(サンフレッチェ広島)、中澤佑二(横浜F・マリノス)らも、国内のトップレベルを維持している。
だが、ロシアW杯までの「線」でとらえると、彼らベテランに頼るのはリスクを伴う。年齢を考慮した人選になるのは当然で、遠藤が外れるのも妥当と言える。
アギーレ前監督はブラジルW杯のチームをほぼ踏襲したが、ここから先は横一線のスタートを臨みたい。バックアップメンバーを含めた選手は代表定着とポジション奪取を、ハリルホジッチ監督にはフラットな視線での評価を求めたい。
競争のない組織には、成長も進化もない。
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