左から六反勇治(仙台)、丹羽大輝(G大阪)、杉本健勇(川崎) [写真]=Getty Images
文●大島和人
今回は5月7日に発表されたハリルホジッチ監督率いる新生日本代表の“国内組合宿”のメンバー発表について、博識の党首・大島和人が全体観を語る。事前の予想どおりにフレッシュな選手が多数名を連ねた今回の選考から見えてきたものとは?
■上位クラブ中心に満遍なく選出
ハリルホジッチ監督が3月13日に来日してから間もなく2カ月。来日直後の前回と違い、自ら視察を重ねた結果としてどういうメンバーを選ぶか――。そんな疑問に応える日本代表候補の28名となった。
今回発表されたのは5月12、13日の短期合宿に参加するメンバーだ。6月の国際親善試合、W杯2次予選に向けた選手選考、強化が差し当たっての目的となろう。ただ海外組は選出されておらず、14日にリーグ戦(※19日のACLラウンド16・水原三星戦に備えて、柏はリーグ戦を2日早めた)を戦う柏と湘南の選手も含まれていない。
現在2位と好調のFC東京と、同じく4位ながら昨季の三冠王者であるガンバ大阪からそれぞれ最多の5名が招集されている。次いで3位・広島、6位・川崎F、11位・鹿島から3名ずつ、さらに1位・浦和、7位・名古屋から2名と、上位クラブ、有力クラブを中心に28名が選出されている。そういう意味で特別な偏りは感じられない。
■遠藤、谷口は納得の選出
ただ、GK六反勇治(仙台)、FW杉本健勇(川崎F)、DF丹羽大輝(G大阪)の選出はサプライズだった。六反は熊本国府高校からプロ入りして10年目ながら、プロ生活の大半をサブとして送ってきたゴールキーパーである。今季も第1節、第2節とリザーブにとどまっており、定着は第3節になってからだった。
杉本は早くから才能を評価され、U-17W杯やロンドン五輪で“世界”を経験してきた選手である。大型ながらボールの収まりが良く、日本では“希少種”に相当するアタッカーだ。しかし今季の出場は5試合、先発は1試合のみで、強力なアタッカーがそろう川崎Fとはいえ、レギュラーの選手ではない。
丹羽は昨年、今年のプレーを見ていれば選出自体は妥当かもしれない。彼はクレバーでコーチングが素晴らしく、技術的にも高いものを持っている。しかし彼も六反と同様に苦労人で、ユースから昇格したG大阪では出場機会を得られず、徳島、大宮、福岡と渡り歩いてきた29歳。大半の監督は年齢的な理由で対象外にするだろう。
ほかにはDF岩波拓也(神戸)、MF遠藤康(鹿島)、谷口彰悟(川崎)、FW浅野拓磨(広島)が初招集のメンバーだ。MF米本拓司(FC東京)もハリルホジッチ体制では初の選出となる。逆に同じポジションの青山敏弘(広島)が今回は選外となった。
岩波、浅野はいずれも二十歳のリオデジャネイロ五輪世代。岩波は体格とキックの質に恵まれ、植田直通(鹿島)と共に、U-17代表のころから未来のA代表と半ば確信されていたCBだ。今季は10試合中9試合で先発出場を果たしている。浅野は今季8試合中6試合が途中出場ながら、短い時間のプレーで結果を出している。小柄だがたくましく、一瞬の“爆発力”を出せるアタッカーだ。二人はもちろん完成された選手ではないが、監督は“素材”として期待しているのだろう。
谷口彰悟は大津高校、筑波大学を経て、プロ2シーズン目を迎える大型テクニシャン。中学まではドリブラーだったそうで、高校時代はボランチの位置から図抜けたパスセンスを見せていた。とにかく周りがよく見えていて、無駄なタッチもなく、小さい振りで強烈かつ正確なミドルパスを出せる。川崎FではCBで起用されているが、今回はMF登録なので、おそらくボランチで試されるのだろう。
遠藤康はドリブル、左利きのキックというスペシャリティを持つアタッカー。中高と宮城の塩釜SCでプレーし、U-18東北代表では同学年の香川真司(当時・FCみやぎバルセロナ)とコンビを組んだこともある。彼は実績もあるし、他の選手にない強みもある。香川や本田圭佑、乾貴士といったメンバーに食い込めるかどうかはまた別の話だが、招集は自然なことだろう。
■選手目線で“希望”の見える選考基準
アギーレ監督もそうだったが、ハリルホジッチ監督もどうやら実績、年齢といった定性的データより、自分の「目」を信じて人を選ぶ指揮官だ。加えて今回の選出メンバーを見ると長所、可能性を尊重する姿勢が見て取れる。また彼は選手の年齢が高くても、伸びしろがないと切り捨てることもない。統計や効率より、ロマンを重んじるタイプなのかもしれない。
しかし前回の31名、今回の28名という招集を見ても分かる通り、ハリルホジッチ監督はかなりの“呼びたがり”だ。ピッチに立つのは同じ11人でも、面白いと思った選手は自ら手元に置いて確かめないと気が済まないのだろう。今回の短期合宿がいい例だが、自分の作業を増やすことをいとわず、むしろ手間をかけて素材の段階から自分で仕込みたがるタイプだ。
今季はリザーブ中心に起用されている杉本や浅野が呼ばれたことでも分かるように、極端に言えばハリルホジッチ体制下では“一瞬”でも光るものを見せれば代表に呼ばれる可能性がある。選手目線で見ればそういう“希望”を感じる28人の代表選出だった。
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