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ハリルホジッチが強調するのは“世界標準”…次なる指標は“日本らしさ”か

2015.05.26

国内合宿で選手に指示するハリルホジッチ監督 [写真]=Getty Images

文=戸塚啓

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の日本代表監督就任とともに、ふたつのキーワードが重みを持っている。「タテへの速さ」と「球際の強さ」だ。

 ヨーロッパの主要リーグを観ても、タテへのスピードは現代サッカーの必要条件だ。ポゼッションスタイルを世界に広めたバルセロナでさえ、現在はカウンターを効果的な戦術としている。言わば「タテへのスピード」は、世界のトップレベルで結果を残していくためのベースのひとつだ。

 球際の強さも同様である。ボールを奪いにいく姿勢と奪い取る強さがなければ、マイボールの時間を確保できない。そのぶんだけディフェンスの時間が長くなる。相手の攻撃に対するリアクションが多くなり、心身共に疲弊していく。

 球際の強さが求められるのはそのためで、こちらも現代サッカーには欠かせない要素のひとつだ。これもまた、ベースである。

 日本代表の新監督が示した“標語”ということで、タテへの速さも球際の強さも「日本サッカー界の進むべき新たな道」のような受け止め方をされていると感じる。だが、どちらも日本サッカーだけの強みにはならない。ベースとはすなわち、世界で戦うための前提だからである。

 球際の強さについては、もう少し広い意味で解釈したい。

 一般的に球際と言えば、ルーズボールの奪い合いであったり、ボールを奪い取ったりする力を指している。局面としてはオフザボールだ。DFやボランチの評価基準として用いられ、今野泰幸らが「球際に強い選手」と言われる。

 オンザボールの局面はどうなのか。球際の強さは、ここでも問われるはずだ。

 足元から刈り取るようなチャージを受けても、ボールを失わない。しっかりと保持して味方へつなぐ。それだって、「球際に強い」プレーである。ボールを奪い取るだけでなく、ボールを失わないことも、「球際の強さ」に含まれなければならない。相手選手の股間を抜いたパスやシュートも、球際の攻防を制した場面のひとつだ。

 世界的水準に照らすと、日本人は身体が大きくない。いかにコンタクトプレーを避けるのかも、考えていかなければならない。身体のぶつかり合いでの強さや激しさを高めていくと同時に、コンタクトを許さないプレーをしっかりと評価していくべきだ。それこそが、日本人の、日本サッカーの強みのひとつだからである。

 タテへの速さに視点を戻せば、日本人は中長距離のパスの精度が高くない。30メートル以上のパス1本で局面を打開できる選手は、海外組を含めても数えるほどである。ハリルホジッチ監督の構想内で思い浮かぶのは、青山敏弘、柴崎岳くらいだろうか。ショートパスを軸としたサッカーの追求は、日本人の特徴に合致した解答だったはずだ。

 タテに速いサッカーはもちろん装備すべきだ。ハリルホジッチ監督のもとには、それを実現できる選手がいる。ただ、中長距離のパスの担い手や快速フォワードがいなくなったら成立しない、また違うサッカーを志向するのでは、日本サッカーの強みとして定着しない。

 ハリルホジッチ監督が現時点で掲げるキーワードは、あくまでもベースに過ぎない。世界のトレンドに照らし合わせながら、いかに日本らしさを作り上げていくのか。タテへの速さと球際の強さの追求だけでは、日本人のポテンシャルを最大限に引き出すことはできない。指揮官が次に発信するメッセージを、興味深く待っている。

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