代表合宿でトレーニングを行う宇佐美(右から2番目) [写真]=兼子愼一郎
文=元川悦子
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督就任後、3試合目となるイラク代表戦が翌11日に迫った。前日の10日は練習開始前の17時から指揮官が記者会見にのぞみ、自らが断行したメディア規制について「選手と過ごす時間がない。今日の練習後もホテルに帰ってミーティングをする予定がある。これはボイコットではない」とまずは釈明した。そのうえで、「2015年は1つも負けない。美しい年にしたい」と強調。イラク戦でも3月のチュニジア代表(大分)・ウズベキスタン代表(東京)2連戦に続く白星を飾り、全試合勝利に向けて幸先のいい一歩を踏み出す決意を新たにした。
1月のアジアカップで4位に入ったイラクとの対戦を控えて緊張感が高まる中、17時半から始まったトレーニングは1時間15分と普段よりは短いものとなった。恒例の青空ミーティングの後、ランニング、短い距離のダッシュ、スピードをアップしながらのパス&ゴーと進み、メインのハーフコートでの11対11に移った。
この練習で主力組と見られたのが、GK川島永嗣(スタンダール・リエージュ)、DF(右から)酒井宏樹(ハノーファー)、吉田麻也(サウサンプトン)、槙野智章(浦和レッズ)、長友佑都(インテル)、ボランチ・柴崎岳(鹿島アントラーズ)、長谷部誠(フランクフルト)、右FW本田圭佑(ミラン)、左FW宇佐美貴史(ガンバ大阪)、トップ下・香川真司(ドルトムント)、1トップ・岡崎慎司(マインツ)。
宇佐美は「最後まで何が起きるか分からない」と慎重な姿勢を崩さなかったが、スタメンに抜擢されれば代表3戦目で初めてとなる。最後のシュート練習でも高い技術で次々とゴールを決めていただけに、彼の爆発力にボスニア・ヘルツェゴヴィナ人指揮官も大きな期待を寄せている様子だ。
その宇佐美がつけることになった背番号は11。本人は「それしか空いてなかったんですよ。決まってなければ39とか33とかつけたいと思ってたんですけど、それもできないってことで、余ってる中では『じゃあ11かな』と。ガンバでもつけたこともありますし。でも特別なイメージはないですね。10番とか9番とか意味のある背番号は存在するし、(本田)圭佑君の4番とかはすごく意味のあることだけど、それ以外の番号はただ背中につけるだけで特に意味はないと思います」と本人は至って淡々とした口ぶりだった。
とはいえ、日本代表の11番というのは、かつてカズ(三浦知良=横浜FC)が背負ったエースナンバーの1つに他ならない。そのカズが1998年フランスワールドカップ直前合宿地のニヨンで岡田武史監督(現FC今治代表)に「外れるのはカズ、三浦カズ」という名ゼリフとともに落選の憂き目に遭って以来、多くのFWが順番につけることになった。
そのフランス本大会では小野伸二(コンサドーレ札幌)、2002年日韓大会では鈴木隆行(ジェフユナイテッド千葉)、2006年ドイツ大会では巻誠一郎(ロアッソ熊本)、2010年南アフリカ大会では玉田圭司(セレッソ大阪)、2014年ブラジル大会では柿谷曜一朗(バーゼル)と、確かにそれぞれインパクトのあるFWではあったが、カズのような絶対的かつ圧倒的な存在感を示した選手がいたとは言い切れなかった。
10代の頃から怪物といわれ、19歳でバイエルンへ移籍した経験を持つ宇佐美には、カズを超えるだけのポテンシャルがあるのは間違いない。今後の日本代表での活躍次第では、本田の4番よりも価値のある番号になることも十分考えられるのだ。
「国内組とミニ合宿をした際には、目標を何人かの選手に与えました。プログラムも渡しました。選手もそれに応えてくれて、報告もしてくれた。宇佐美はそれをしっかり理解してくれた。私は満足していますし、このような選手が必要です。能力がありつつ、努力をした。能力だけでは満足ではない」と鬼軍曹も宇佐美のここ3カ月間の変貌ぶりを前向きに受け止めていた。就任直後は彼のことを酷評する発言が目立った指揮官にそこまで言わしめるほど、最近の宇佐美は確かに前進している。その事実を代表レベルで実証するためにも、彼には頭抜けた決定力が求められる。それがゴール欠乏症に悩んでいた日本代表にとっての一番の光明になるはずだ。
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By 元川悦子