日本代表を率いるハリルホジッチ監督(左) [写真]=鷹羽康博
文=青山知雄
“罠”は己の中にあり――。
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がシンガポール代表戦の前日会見で用いた「監督としては罠が仕掛けられていると思っている」というフレーズ。指揮官は格下相手の初戦で選手の油断が命取りになることを示唆していたが、“罠”は二つ仕掛けられていた。
ロシア・ワールドカップに向けた第一歩となるシンガポールとのアジア2次予選。16日に行われた試合を前にハリルホジッチ監督は「ワールドカップは1カ月では準備できない。この試合から我々のワールドップが始まる」と位置づけていたが、結果はFIFAランキング154位の相手に想定外のスコアレスドロー。試合終了を告げるホイッスルが鳴っても指揮官は腕組みをしたまま動けず、呆然とした表情を浮かべた。1998年に日本が初めてワールドカップの舞台に立って以降、アジア予選の初戦で初めて白星を挙げられない事態となってしまった。
ハリルホジッチ監督は試合後の記者会見で「長いサッカー人生の中で、これだけ支配し続けて決定機を作りながら、このような(点が取れない)試合を見たのは初めて」と落胆のコメントを残しているが、この結果にはいくつかの理由が見え隠れする。
まず大前提として確認しておきたいのは、選手たちが何度も決定機を作りながら決めきれなかったという事実だ。本田圭佑(ミラン/イタリア)は「相手が良かったが、そこで言い訳をするつもりはない。これが自分たちの実力。(ゴールを)決めなければいけないし、しっかり勝たなければならない」と語り、岡崎慎司(マインツ/ドイツ)は「自分がもっとチームを支えられる重要な役割を担わなければいけない。決める時に決めないと、こういう展開になってしまう」と自責の念を口にしている。
どんな展開になろうとも、どれだけ相手に守りを固められようとも、ホームで行われるアジア予選で求められるのは勝ち点3のみ。周囲からは「これがワールドカップ予選の難しさだ」という声が上がり、確かに相手GKのパフォーマンスは素晴らしかったものの、目指すものが得られなかったことに関しては大いに反省すべき点が残る。
では、具体的になぜシンガポール戦で結果を出せなかったのだろうか。
それは指揮官のチーム作りが、まだ“守・破・離”の“守”の段階にあるからと見る。これが一つ目の“罠”だった。
監督就任から3カ月。ハリルホジッチ監督はまず自らのコンセプトを植え付けようとしてきた。球際に強く、縦に速いサッカーを掲げ、3月の国際親善試合ではチュニジアとウズベキスタンに連勝。選手たちは指揮官の厳格で細かな指導、さらには心拍数や体脂肪率を計測するなど科学的な視点を取り入れたトレーニングを受け、さらに気持ちの込められた熱弁に触れて感化されていった。練習中でも監督の吹く笛に合わせて小走りで集まって小さな輪になり、彼の話に耳を傾ける。就任から間もないだけに、まずは代表チームに招集され、試合で使ってもらうことが先決となる。選手たちも指揮官のやり方や好み、顔色を窺っているように感じた。何とかして監督の要求に応えよう――そういった空気が流れていたのは確かだ。
イラク、シンガポールと対戦する6月シリーズのスタートを前に「対戦相手に応じて狙いや戦い方を変える」と語っていたハリルホジッチ監督は、シンガポール戦に向けたトレーニングでサイドに起点を作るワンタッチプレーを重点的に取り組ませていた。ボールを出した選手は足を止めずにポジションを変え、中央とサイドへの攻撃を使い分けて3人目の動きで相手を崩す。細かいエリアでもダイレクトで細かくつなぐパス交換を練習しており、ハリル流のコンセプトに沿った攻撃を徹底的に意識させることで、ロシアへの第一歩を踏み出そうとしていた。
シンガポール戦の前半は相手がそれほど引いて守る形を選択しなかったこともあって何度かこの形でチャンスを作ったが、GKの好守に阻まれてゴールネットを揺らすことができない。また、長友佑都(インテル/イタリア)に代わって左サイドバックに入った太田宏介(FC東京)と左ウイング宇佐美貴史(ガンバ大阪)とのコンビネーションが深まらずに攻めが単発になり、厚みのある攻撃やダイレクトプレーを生かした前への迫力を出すことができなかった。攻撃陣に動きが少ないことを受け、ハリルホジッチ監督はピッチサイドから身振り手振りをまじえて「ダイアゴナル(斜め方向)へ動け! パスを出せ!」とオーバーアクションで求めていたが、ピッチ内では動くスペースもパスを出すスペースもないと苦しんでいた。
後半に入って時間が進んでも試合が動かないことに焦りが出たのか、各駅停車の横パスばかりで怖さを出せないチームを見た指揮官は、前線に枚数を増やすべく練習でもテストしていない選手起用やフォーメーションを選択する。香川真司(ドルトムント/ドイツ)を大迫勇也(ケルン/ドイツ)に代えて4−4−2に変更し、本来はサイドを主戦場とする原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)はイラク戦で起用したトップ下でなく、「バランスを崩さず、期を見て攻めるように」という指示を与えて柴崎岳(鹿島アントラーズ)に代えてボランチに投入。だが、これでチームは機能不全に陥ってしまった。
引いて守る相手に対して前線の選手を増やしたことでさらにスペースがなくなり、サイドから攻めてもゴール前を固める相手を崩しきることができない。ミドルシュートで自陣に閉じこもる相手を引き出したり、ワンタッチでリズムを変えるプレーを見せることもなく、行き場を失った選手はトレーニングを積んできたような流動的にポジションを入れ替えるシーンも見られなくなる。何度か複数の選手が絡んで縦への推進力は見せたものの、フィニッシュの精度を欠いて得点には至らない。結局、このまま主審のホイッスルが鳴り響いてスコアレスドロー。想定外の結果にスタジアムは大ブーイングに包まれた。
指揮官が求めるスタイルに選手個々の判断を加えられないまま敗れた日本。冒頭にも書いたように決定機が少なかったわけではなく、相手GKの攻守に阻まれたのは確かだ。本来ならば監督のコンセプトにピッチでプレーする選手が色を加えることで臨機応変に戦うことが必要となるが、まだ就任3カ月というハリルホジッチ監督の指導を受けた選手は要求を真正面で受け止めて応えることが第一になってしまい、約束ごとを破るには至らなかったように感じる。ただ、監督が展開に応じたオプションを準備する時間がなかったのも理解できるし、「チーム作りにはもう少し時間が必要」としていた理由はここにあるのだろう。
急きょボランチに入った原口は「サイドへパスを出した時に、そのままサイドへ回って、もう一回外で受けたりしても良かったかなとは今は思う。監督からはバランスを取るように言われていたけど、そこを崩してチャレンジしても良かったかもしれない」と、“守・破・離”の“破”について触れていた。
もちろんハリルホジッチ監督もそういったプレーを認めないわけではない。二人のセンターバックには相手FWをマークするように求め、槙野智章(浦和レッズ)も攻撃的DFとしてプレーする所属クラブとは違ってオーバーラップを自重するよう心掛けていたが、効果的な縦パスが入らないのを見て、槙野がギャップを突く形で自ら持ち上がって前線に鋭い縦パスを入れると、ピッチサイドから親指を立てて積極性を称えていた。
総合的に見ていくと、強制送還や懲罰交代も辞さない姿勢を見せるほど厳格なチーム作りを進めるハリルホジッチ監督が、立ち上げを進める日本代表から知らぬ間に自由を奪っていたようにも思う。チーム全体としてはチャンスを作りながら不完全燃焼に終わった感は強く、選手たちも「もっとできた」と感じていることだろう。岡崎は「監督は『落ち込むことはない』と言っていたけど、自分たちはこういう試合を何度もしてきているので、本当に悔しいというか、『またか』って思いは正直ある」と話していた。チーム作りにおいてはまだ“守”を確認している段階だが、試合ではもう少し“破”の部分を見たかった。
指揮官が掛かったもう一つの“罠”。それは事前に見聞きしていながら、日本代表がアジアで戦う本当の難しさを肌で知らなかったことがあったように思う。また、こういった展開で日本人選手が不思議とゴール前で冷静さを欠いてしまうことが苦戦の一因であることにも気付いたはずだ。ただ、こういった展開で終盤に失点を喫して敗れるケースがよく見受けられるだけに監督も「負けるかもしれないという恐怖はあった」としたが、前線からのプレスを含めて守備面で無失点に抑えたことには一定の評価を与えるべきだろう。
これまで日本がハマってきた特殊な“罠”に直面したハリルホジッチ監督は、歴代の日本代表監督が苦労してきたアジアでの戦いについて「フットボールの中にマジックはない。トレーニングあるのみだ」と語った一方で、「分析するにはいい試合だった」とも口にしている。ここまでは自らのコンセプトワークを中心に取り組んできたが、ここからはアジアで勝ち抜くサッカーの確立、さらには世界で戦えるスタイルを目指すことが求められる。
アジア2次予選の次戦は9月。そこまでには8月の東アジアカップ(中国・武漢)があり、さらなる選手選考を進めることができる。シンガポール相手に逃した勝ち点2を糧に、果たして分析家の指揮官がアジアで勝ち抜くために何を考えるのか。日本は今、FIFAランキングで52位という立場。すべてを受け入れて前に進んでいくしかない。試合終了直後、監督はピッチ上に選手たちを集めて円陣を組み、「顔を上げよう。君たちは勝つためにすべてを出し切った。だから次こそは勝とう」と勇気づけた。
シンガポール相手に想定外の勝ち点1を得るにとどまったが、まだ我々のワールドカップは始まったばかり。何も終わってはいない。
本田は「この結果はもちろんショックですけど」と本音を漏らしながらも、「これを乗り越えていかないとワールドカップは戦えない。切り替えて次に向かって準備したい。まだ予選は始まったばかりなので、(チームの方向性は)予選を通じて判断してもらえれば」と前を向いた。
指揮官の考えを選手たちが完全に理解して“守・破・離”の“離”まで到達した時、日本代表は必ずや次なるステップに進んでいるはず。決して立ち止まっている時間はない。選手たちに自信を取り戻させる作業もまだまだ必要だ。アジアの“罠”を体感したハリルホジッチ監督が、日本代表にさらなる力を与えるべく分析と選手選考を進める。
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