Uー22日本代表で主将を務める遠藤航 [写真]=Getty Images
文=青山知雄
果たしてヴァイッドの狙いはどこにあるのか。
8月上旬に中国・武漢で行われる東アジアカップ2015。この日本代表は国内組と同大会参加の3カ国でプレーする選手で編成されることになり、先行して予備登録選手50名が発表されている。ここから最終的に23選手が選抜されて大会に臨む。
9月からロシア・ワールドカップのアジア2次予選が佳境を迎えることを考えると、今後に向けて新戦力を発掘しておくことが必要不可欠となる。2013年に韓国で行われた前回大会も国内組で臨み、そこで代表デビューを果たした柿谷曜一朗(現バーゼル/スイス)や山口蛍(セレッソ大阪)、齋藤学(横浜F・マリノス)が翌年にブラジル行きの切符を手にした。指揮官のスタイルを国内組に植え付けるという目的はもちろん、国内組の実力を見極め、新戦力の台頭に期待することも、この大会の大きな注目ポイントと言える。
特にリオデジャネイロ・オリンピック出場を目指すU-22日本代表から9選手がノミネートされている点は見逃せない。ハリルホジッチ監督は「日本代表チームに約束されたポジションはない」と断言しているだけに、今大会での活躍が今後につながることは間違いないだろう。
今回の東アジアカップは新戦力の発掘と大会制覇という二つの結果を求められる大会。果たして指揮官はいかなる意図を持ってメンバーを選ぶのだろうか。
3月の就任以降、ハリルホジッチ監督は自身の日本代表メンバー発表において、常に4−2−3−1の各ポジションに2選手(GKは3選手)を配した資料を手に会見に臨んでいた。この傾向は6月のワールドカップ予選まで変わっていないことから、ここではまず予備登録に入った50選手を指揮官がベースとしてきた同フォーメーションに代表候補選手を振り分けて考えていくことにした。
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【GK=3選手】
東口順昭(ガンバ大阪) 西川周作(浦和レッズ) 六反勇治(ベガルタ仙台) 林彰洋(サガン鳥栖) 権田修一(FC東京) 櫛引政敏(清水エスパルス)
まずはGKの3選手。これまでは練習時の合理性を理由に4人体制を敷くこともあったが、今回はベンチ入りメンバーが23選手に限られることから3選手選出が妥当だろう。正GK候補の西川は確定。五輪世代の櫛引は清水でポジションを失いつつある点が気がかり。林が負傷離脱しており、過去実績から残り2名は東口、権田の招集が濃厚か。
【センターバック=4選手】
水本裕貴(サンフレッチェ広島) 丹羽大輝(ガンバ大阪) 槙野智章(浦和レッズ) 森重真人(FC東京) 大武峻(名古屋グランパス) 昌子源(鹿島アントラーズ) 岩波拓也(ヴィッセル神戸) 植田直通(鹿島アントラーズ)
槙野と森重は当確。招集実績から考えると水本と丹羽が一歩リードだが、若手抜てきの可能性を考えると決まりとは言い切れない。水本は3月の代表戦でアンカー、丹羽は5月の候補合宿で右サイドバックでプレーしているユーティリティ性はプラスと見るものの、水本は6月のメンバーから外れ、丹羽はセンターバックとして招集されている。昌子も鹿島で左サイドバックを経験しており、有事の守備固めには対応可能。五輪世代の岩波&植田はJリーグでの出場率が低いものの、将来性を判断して逆転選出があるかもしれない。
【右サイドバック=2選手】
塩谷司(サンフレッチェ広島) 武岡優斗(川崎フロンターレ) 米倉恒貴(ガンバ大阪) 松原健(アルビレックス新潟) 川口尚紀(アルビレックス新潟)
右サイドバックはこれまで招集実績の少ない選手ばかり。今回のメンバー争いでは最激戦区となりそうだ。広島で3バックのストッパーとしてプレーする塩谷は5月の候補合宿で右サイドバックとして選出されており、中央とサイドの双方をこなす選手として選出が有力視されたが、2nd第2節まで復帰できておらず状態が不安視される。超攻撃的なスタイルを持つ米倉は縦へのスピードとクロスが魅力。川崎で3バックと4バックの双方をこなす武岡は縦への鋭い突破を見せている注目株の一人。ともに新潟でプレーする五輪世代の松原と川口だが、松原も負傷離脱中のため川口優位か。コンディションが戻れば塩谷の選出が濃厚だが、ここは誰が選ばれてもおかしくないポジションとなる。
【左サイドバック=2選手】
太田宏介(FC東京) 藤春廣輝(ガンバ大阪) 車屋紳太郎(川崎フロンターレ) 山中亮輔(柏レイソル)
当確は太田。彼の左足は今回の代表チームで攻撃の中心として期待される。車屋は3月の時点から第2グループに挙げられており、早い段階から指揮官が注目していた。川崎ではセンターバックとしてもプレーしており、身長178センチと高さはやや物足りないものの、万能性が評価される可能性はある。ここに代表デビューを果たしたスピード系の藤春、五輪世代のクロッサー山中がどう絡むかだが、現状では複数招集で指揮官のサッカーを知る藤春が優位か。
【ボランチ=4選手】
今野泰幸(ガンバ大阪) 柴崎晃誠(サンフレッチェ広島) 大谷秀和(柏レイソル) 青山敏弘(サンフレッチェ広島) 山口蛍(セレッソ大阪) 米本拓司(FC東京) 森岡亮太(ヴィッセル神戸) 谷口彰悟(川崎フロンターレ) 藤田直之(サガン鳥栖) 柏木陽介(浦和レッズ) 遠藤航(湘南ベルマーレ) 喜田拓也(横浜F・マリノス)
最も頭を悩ませたのがボランチの人選。順当なら青山と山口は決まりだが、ハリルホジッチ監督は青山が本調子でないこと指摘して6月のメンバーから外している。ここからのプレーを指揮官がどう判断するか。広島では佐藤寿人とのホットラインを築いて一瞬で決定機を生み出していることから状態は良化していると考えていいだろう。注目した選手は柏木と遠藤航。もともと攻撃的な選手だった柏木だが、今シーズンは浦和で主にボランチとしてプレー。そこで見せている中盤での素早い寄せと奪ってから一瞬で好機を生み出す左足キック、さらに前線への飛び出しはハリルホジッチ監督が掲げるサッカーに適合するプレースタイルだ。また、五輪世代のキャプテン遠藤航は1日のU-22コスタリカ戦で別格の落ち着きを見せるなど今後の可能性を感じさせた。湘南では3バックの一角に入っておりセンターバックでもプレーできるが、予備登録がMFになっていることから指揮官はボランチとしての起用を考えていると読む。5月の候補合宿はリーグ戦の日程変更で柏と湘南の選手のみ招集見送りになっていたため、彼の場合は未招集という実績はハンデにならない。コスタリカ戦で見せた視野の広さと抜群のバランス感覚には“長谷部誠の後継者”になりうる存在と思わせるものがあっただけに、万能型でもある遠藤航の抜てきを期待した。ボランチとトップ下をこなす森岡は視野が広いゲームメーカーで、パスセンスも高い。彼のユーティリティ性も評価されそうだ。第2グループに入っていた米本はケガ明けのために本調子でないことが懸念材料。喜田は五輪世代の成長株だが、代表入りにはもう少し時間がかかるか。センターバックでもプレーできる谷口と今野も万能性を買われる可能性があるだろう。藤田も右のプレースキッカーとして期待でき、FWに豊田を招集する場合は鳥栖でのホットラインを持ち込めるメリットを打ち出せる。インサイドバーフとして攻撃面で新境地を開拓している大谷と柴崎晃のベテラン勢も呼んでおきたいところだが、将来を見据えて若手を中心に編成する可能性が高そうだ。
【攻撃的MF/トップ下=2選手】
高萩洋次郎(FCソウル/韓国) 遠藤康(鹿島アントラーズ) 柴崎岳(鹿島アントラーズ) 大森晃太郎(ガンバ大阪)
大黒柱として活躍された柴崎岳だが、シンガポール戦後に左足第5中足骨の違和感を訴え、折れる手前の判断が難しい状態にあったという。ようやく全体練習に合流したという報道があったが、様子を見ながらのトレーニングになることが予想される。本調子でなければ彼の将来を考えても無理を強いて招集しないほうがベターかもしれない。今回の候補リストで注目したのが、ファンタジスタ系ゲームメーカーの高萩。ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ(オーストラリア)から韓国のFCソウルへ移籍したばかりでチーム練習が重要な状況ではあるが、韓国もリーグ戦が中断期間に入るだけにチャンスを得る可能性は十分にある。G大阪で出場機会を増やしつつある大森も将来性と複数の攻撃的ポジションをこなすセンスが評価されれば逆転選出もありそうだ。5月の国内組合宿に参加していた遠藤康はハリルスタイルが初見でない点がプラス。貴重な左利きである点も評価できる。ここにボランチ枠で取り上げた森岡も加わっての争いとなりそうだ。
【ウイング/サイドアタッカー=4選手】
倉田秋(ガンバ大阪) 永井謙佑(名古屋グランパス) 宇佐美貴史(ガンバ大阪) 小林悠(川崎フロンターレ) 武藤雄樹(浦和レッズ) 浅野拓磨(サンフレッチェ広島)
海外組を含めてもレギュラークラスの宇佐美は今回の中心的メンバーになりそうだ。代表常連の永井もJリーグで好調を維持しており、順当に招集されそう。ケガによる招集辞退などハリルジャパンに縁遠かった小林は、裏を狙う動き出しやスピード、正確なシュート技術、両サイドをこなす万能性も評価もされて選出濃厚か。「じゃないほう」の武藤は浦和で2シャドーを任されており、浅野は広島で1トップ起用が中心。倉田はゲームメークもできるアタッカーだが、いずれも本職の選手ではない。昨今の勢いを買えば武藤、五輪世代から選ぶなら浅野だが、ポジション適性から武藤が初選出されるのではないかと考えた。
【センターフォワード=2選手】
大久保嘉人(川崎フロンターレ) 豊田陽平(サガン鳥栖) 川又堅碁(名古屋グランパス) 興梠慎三(浦和レッズ) 杉本健勇(川崎フロンターレ)
ここも激戦区。6月のシンガポール戦でアジアとの戦い方を知ったハリルホジッチ監督がセンターフォワードに何を求めるかで人選が変わってくるだろう。招集実績では川又がポジション争いをリード。ただし、純粋に高さを求めるなら豊田の迫力も捨てがたい。興梠は3月シリーズを負傷のために途中離脱したが、浦和で完全復調しておりポイントは高いはず。身長こそ低いが、ポストプレー時の技術は抜群で、ポゼッションに加わる1トップとしての適正は最も高いと見る。ウイングとしてプレーできる点も見逃せない。高い決定力を持つ大久保もサイドからチャンスを作れる万能型として招集されるかもしれない。高さとスピードを兼ね備えた杉本は将来性を考えれば名を連ねてもおかしくない。こちらも激しい争いとなりそうだ。
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東アジアカップの代表メンバー23人は、ハリルホジッチ監督が複数ポジションをこなす選手たちをどう見るかで、スペシャリストの選出人数が変わってくることになりそうだ。もちろん海外組を含めた日本代表チームの未来を視野に入れ、フルメンバーでの選手層を厚くするためのテストという意味合いもあるだろう。指揮官の思惑、狙いをしっかりと分析し、大会制覇と新戦力発掘という難しいダブルミッションをクリアできるのかに注目していきたい。
(データは2015年7月16日現在)
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