現在の戦い方に警鐘を鳴らす槙野 [写真]=兼子愼一郎
文=元川悦子
2連覇を賭けて挑んだ2015年東アジアカップ(武漢)の重要な初戦・北朝鮮戦でまさかの逆転負けを食らい、タイトル死守にいきなり黄色信号が点った日本代表。悔しい敗戦から一夜明けた3日、彼らは朝9時半から武漢スポーツセンター隣のサブグランドで回復トレーニングを行った。
負け試合の翌日とあって、練習15分前に到着したヴァイッド・ハリルホジッチ監督と選手たちは険しい表情だった。午前中ながら陽の当たるピッチ上の気温が40度をはるかに超える猛暑の最中ということで、彼らは室内での話し合いを少し長めに行い、恒例の青空ミーティングは2分程度にとどめて練習を開始した。
前日スタメンだった森重真人(FC東京)や槙野智章、武藤雄樹(ともに浦和レッズ)らがウォーキングや軽いランニングなどでダウンに努める傍らで、途中出場した柴崎岳(鹿島アントラーズ)や浅野拓磨(サンフレッチェ広島)を含めた12人はランニング、ボール回し、5対5といった実践的なメニューを1時間超にわたって精力的に消化した。5対5+GKのゲーム中には丹羽大輝(ガンバ大阪)が右足を負傷するアクシデントが発生。周囲をヒヤリとさせたが、大事に至らなず、すぐにプレーを続行させた。ここからの連戦は総力戦になるため、バックアップメンバーの存在も非常に重要。「自分がやるのはゴールに向かってどんどんアグレッシブにプレーするだけ」と倉田秋(G大阪)らも意気込みを新たにしていた。
選手たちは5日の韓国戦に向けていち早く気持ちを切り替えつつあるが、北朝鮮戦で犯したミスから目をそらすわけにはいかない。前半こそ主導権を握れていたが、後半は防戦一方となり、自分たちのペースで戦えなかった。特に攻撃がタテ一辺倒になって自滅したのは大きな反省点。ハリルホジッチ監督がタテに速いスタイルを志向しているのは事実だが、相手次第で臨機応変に戦い方を変えられなければ、同じ轍を踏む可能性も大いにある。そこには槙野も警鐘を鳴らしていた。
「もう少しゲーム全体として落ち着かせる時間帯だとか、遊びのパスというか、相手を走らせるパスっていうのも必要だったかなと。この気温やピッチ条件だと、90分間タテに速いサッカーをするのはあまりにも不可能なので、ゆっくりする時間帯とタメを作る時間っていうのはやはり必要だと思いますね。ただ、何度も言いますけど、今はチャレンジの時期。タテに速いサッカーから後ろと横に下げてるようではよくはない。監督のやりたいことは意図として出せてはいましたけど、少しミスは多かったかなと思います」と彼も指揮官の狙いを踏まえつつ、状況に応じてボールを落ち着かせる時間帯のメリハリをつけていくことの大切さを語っていた。
確かに北朝鮮戦の後半にそれができていれば、残り15分という時間帯にあそこまでチーム全体がズルズルと引かされ、蹴り込まれ続けることはなかったはずだ。槙野自身が長身FWパク・ヒョンイルに1対1で競り負け、逆転弾を浴びるという最悪のシナリオも避けられたかもしれない。
「結局、彼のところで1本でやられてしまったっていうのも事実ですし、もう少し個のところの強さっていうのを出していかないといけないと思います。ただ、自分の横の選手、センターバック、サイドバックの選手とで2人で挟むだとか、ボランチの選手で挟むといった、1人に対して2人で挟むってことは必要だったかな」と本人も反省点を口にしたが、最終ラインで跳ね返し続けなければいけない状況をまずは最小限に抑えるような戦い方にシフトチェンジすることが第一歩ではないか。
韓国にも196cmのFWキム・シンウク(蔚山現代)、中国にも185cmの長身FWガオ・リン(広州広大)がいて、北朝鮮と同じような放り込みスタイルを採ってくる可能性も否定できない。それを回避するためにも、日本の方が主導権を握る時間帯を増やすことをまず考えるべきだ。
前回大会経験者のベテランDF槙野には、今こそハリルホジッチ監督と選手たちのパイプ役として献身的に働く必要がある。ここでチームが一枚岩になれる否かは、彼の行動力、統率力にかかる部分が大と言っていいだろう。
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By 元川悦子