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残り2試合で即席チームに求められる“守・破・離”の“破”

2015.08.03

山口(左)は攻守において最後までピッチを走り回った [写真]=兼子愼一郎

文=青山知雄

「監督の求めるサッカー、自分たちがやりたいサッカーだけじゃ勝てない。この大会の厳しさが昨日の試合で分かった」

 衝撃の敗戦から一夜明け、中盤のダイナモとして試合終了まで走り回って奮闘した山口蛍セレッソ大阪)が、率直な気持ちをこう漏らした。

 監督が目指すサッカーをしているだけでは勝てない――。山口がポツリとつぶやいたこの一言には、思った以上の重みがあるように感じる。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がタイトル獲得と新戦力発掘を目標に設定したEAFF東アジアカップ2015日本代表は対戦相手の中で最も力が劣ると見られる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表との初戦で1-2と逆転負けを喫した。

 指揮官は7月23日のメンバー発表会見時から過密日程やトレーニング環境の悪さに言及。「一週間ほど時間があれば。候補選手50人のうち11人がけがをしてしまった。現地でトレーニングができない、グラウンドが悪いという言い訳はしたくない。試合前に言い訳はしますが、試合後には言いません」としていたものの、初戦で敗れると恨み節のように「3日前に到着して、1回しかトレーニングができなかった。今回はフィジカル的な問題と、その(日程的な)問題が決定的な違いを生んでしまったと思う。責任のある方々は今日の試合で何が起こったのかを見てほしい。疑問を投げかけたい。真実を見なければならない。これが日本のフットボールの現状だ」と繰り返した。

 もちろん日程面やコンディション調整、準備不足だった部分は否めない。そういった部分に改善すべき点があるのも承知の上だ。しかし、それは事前に分かっていたこと。諸事情を踏まえた上で、指揮官として何をすべきか、そして選手やチームに何を求めていくかを見たい大会でもある。

 6月16日に行われたロシア・ワールドカップ アジア2次予選のシンガポール戦後、「ハリルホジッチが陥った二つの“罠”…チーム作りの段階はまだ“守・破・離”の“守”」というコラムを書いた。指揮官の求めるものに応えようとするあまり、選手たちがピッチ内で臨機応変に対応できていないこと。そしてハリルホジッチ監督自身がアジアで戦う難しさを知らなかったことをシンガポール戦で苦戦した理由に挙げた原稿だ。

 霜田正浩技術委員長は北朝鮮に敗れた翌日の練習後、「これまでアジアとの戦いで日本がずっと経験してきたものなので、同じ過ちを繰り返さないようにすることが重要だと思います。ただ、口で言うのは簡単ですけど、それでもやられてしまった。監督が早い段階でそういう経験をしてくれたのはプラス。理由はいろいろありますけど、それはちゃんと分かっています」と話している。だが、結論から言うと、北朝鮮代表との初戦も全くと言っていいほどシンガポール戦と似通った状況に陥り、ハリルホジッチ監督も初めての黒星を喫してしまったわけだ。

 海外組を含めたフルメンバーで戦ったシンガポール戦は圧倒的に攻めながら引いて守る相手を崩せずに決定力を欠いてのドロー、国内組で臨んだ北朝鮮戦はフィジカルを生かしたパワープレーに押し込まれての敗戦と、試合展開もメンバーも違うが、ピッチ内で起こっていたことには共通点があった。

 今回の北朝鮮戦は指揮官が話すとおり準備期間が短く、代表経験の少ない選手が中心だったため、戦術理解に時間が足りないのは必然のこと。ミーティングや試合前日のトレーニングで「縦へ速く」という従来のコンセプトを伝え、選手たちにはフィジカルとメンタルで負けないことを強調したのは理解できる。実際、キックオフからの数分間は積極的に前からプレスを仕掛け、わずか開始3分で武藤雄樹浦和レッズ)が先制する幸先の良い展開となった。だが、その後のチャンスを生かせずにいると、縦へ攻め疲れたことで体力が落ちたところを北朝鮮にパワープレーで押し込まれ、残り15分を切ったところから立て続けに2ゴールを許してしまった。

 正直、試合運びの拙さを露呈したのは否めない。槙野智章(浦和)は北朝鮮戦の翌日、「今はチャレンジの時期。せっかく縦に速いサッカーに切り替えてるところなので、また元に戻すことは必要ない」と話しつつ、「もう少しボールを動かすことも必要だった。監督は『縦へ、縦へ』と言うけれど、ピッチ上ではもう少し幅を利かせたプレーやボールを動かすこと、時間を作ることが必要だったし、僕たちが後ろから指示を出すことも必要だったのかなと。この気温やピッチ条件で、縦に速いサッカーを90分間やるのはあまりに不可能なので、ゆっくりする時間帯とタメを作る時間は必要かなと思います」と振り返ったように、結果的にピッチには試合の流れをコントロールできる選手がいなかった。

 取材ノートを見返すと、前半35分の時点で「攻撃にメリハリがない。落ち着かせる選手が欲しい。もう少しゆっくりつないでもいいのでは」というメモが残っている。北朝鮮が前からプレスに来るチームだったとはいえ、あれだけ単調に裏のスペースを狙い続ければ疲弊するのは明白だ。監督が求めるサッカーを理解しつつ、実際にピッチで戦う選手たちが判断すべきだった部分はある。

 ただし、ハリルホジッチ監督の引き出しの少なさも気になる。大会前に「このグループにとって非常に重要な大会。いろいろなトライをして、できればカップを持って帰りたい」と話していた。タイトル獲得とトライの両立を聞かれた際には「まず大事なのは結果」と話していたが、本音は「トライ」の部分が大きいのだろうか。今はコンセプトを植え付けるために、あえて縦への素早い攻撃に固執しているのか、それともやはりアジアの戦い方を理解していないのか。指揮官自身は「マジックはない。あるのは積み重ねだけだ」としており、オプションはこれから作っていくのかもしれないが、ここまでのところは試合展開を読んだ臨機応変さが見られない。目先の結果よりも積み上げを狙っているのかもしれないが、ハリルホジッチ監督が考えている「結果」の意味合いを図りかねているのも正直なところ。北朝鮮戦後に「ボールを奪った時に前に行くべきなのか、キープすべきなのかを迷ってボールを失ってしまった」と話したが、選手たちに戦い方を徹底させることができなかったことも気がかりな点だ。

 集合から間もないチームに円熟味のある試合運びを求めるのは難しい。だが、選手としては、そういう部分で結果を残すことも日本代表に生き残っていくための近道になる。勝利するために監督の要求を“守”りつつ、ピッチ内の判断で指揮官の言いつけを“破”ることも必要になる。初招集組は監督の求めるものを理解するだけで精いっぱいかもしれないが、ピッチで戦うのは自分たち。臨機応変な対応を含め、残り2試合でいかなるプレーを見せられるかが今大会の結果、そして日本代表としての自分の未来を左右することになる。

 あらゆる難しい状況を踏まえた上で最後にもう一つ、興味深い意見を紹介しておきたい。

 ボランチとしてフル出場し、最後までハードにボールを追い回していた山口に「前半からハイテンポのサッカーをしたことが後半のスタミナ切れにつながった?」と聞いた。

「チームとしてはそういう部分はあるかもしれないですけど、監督も『フィジカルが足りていない選手がいる』って言っていたように、単にスタミナなかっただけなのかもしれないですけどね。そこまで飛ばしていた印象は個人的にはあんまり持っていないんで」

 山口自身も戦い方が単調だった部分は認めながら、その一方で選手個々のフィジカル不足を暗に指摘している。J2のC大阪所属で出発前夜の29日に試合がなかったとはいえ、彼は過酷な条件下でスタミナ切れを起こさず、試合終了までピッチ狭しと走り回っていた。過密日程やグラウンドの問題があったにせよ、動けていた選手もいたことを考えると、選手個々の鍛え方が不足している部分もあったのかもしれない。スタミナが切れればメンタルも弱まる。同じく北朝鮮戦にフル出場した谷口彰悟川崎フロンターレ)も「現代フットボールをすごく分かっている監督だし、それを目指すにはまだまだ足りないってすごく言われます。フィジカル的にもそう。でも、監督がそこを目指しているなら選手としてトライしたい」と話している。激しい試合を最後まで戦い抜くための精神力と集中力。それを保ち続けるには、山口のような無尽蔵のスタミナが求められるとも言える。

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