東アジア2015、日本代表は2試合を終えて1分1敗で勝利なし [写真]=ChinaFotoPress via Getty Images
文=川本梅花
日本代表は韓国代表と試合をして、1-1で引き分けた。東アジアカップ2015の残す試合は、8月9日の中国戦だけとなった。2試合戦って未勝利の日本。なんとか勝利を手に入れて帰国してもらいたいのだが、初戦の北朝鮮戦から比べれば韓国戦はチームとして少しだけ形になっていたけれど、現状は厳しいものと映る。
そこで、中国戦を前にして北朝鮮戦と韓国戦を比較しながら日本の戦い方を整理してみたい。そうすれば、どこに視点を置いて中国戦を見ればいいのかわかってくるし、今後の課題もうかがえるに違いないだろう。
■積極的なプレーを見せた選手
サッカーでの戦いという歴史が積み重なって、日本と韓国の中で「日韓戦」という伝統が作られていった。日本にとっても韓国にとっても、東アジアでの他国との一戦とは違う感覚を宿しながら、両国がともに切磋琢磨してきた重さが感じられるもの、それが「日韓戦」である。
8月5日に行われた東アジアカップでの日韓戦は、正直に言えば、日本よりも韓国の方がサッカーの質に関して上回っていた。韓国は、理にかなった戦い方をしていたし、どのように戦うのかというチームの方向性がしっかりわかった。簡単に言えば、韓国は「モダンなサッカー」をやっていたと述べることができる。
では、日本はどんなサッカーだったのか。
まず、日本のシステムを見ていこう。テレビで紹介されたシステムは[4-2-3-1]なのだが、[4-3-3]あるいは[4-1-4-1]と呼べる形だった。ただし、数字で置き換えられるように明確なものではなく、藤田直之がアンカー役だったり、山口蛍と2人でセンターハーフを務めたりと、曖昧なポジションになっていた。しかし、ゲームが進むに連れて藤田が1人でアンカー役としてセンターバックの森重真人と槙野智章の前にポジショニングするようになる。藤田がアンカー役になってから日本はバランスを保ってそれぞれのポジションを意識したプレーが見られるようになった。攻守に渡って「戦える選手」という印象を監督に見せられたはずだ。
先発メンバーも北朝鮮戦から変っていて、倉田秋や興梠慎三などがスタメンに名前を連ねる。倉田は積極的にボールに絡んでいき、フリースペースを見つけてはそこに顔をだしていた。2試合連続スタメンとなった右サイドの永井謙佑のスピードを、ハリルホジッチ監督は気に入っているようだが、チャレンジをしない消極的なプレーが目立った。同様に、2試合続けての出場となった遠藤航は、守備面において危険な場面できっちりと相手を押さえ込み、チームのバランスと試合展開を読んでプレーしていた。遠藤は、ゲーム後半になってオーバーラップする姿を見せる。韓国の攻撃を抑えるために、あえて攻撃参加しなかったのであって、ゲームの流れが読めるクレバーさをもっていて、まさに無尽蔵のスタミナの持ち主だと思えた。
中国戦での選手起用のポイントは以下のことになろう。丹羽大輝などまだ試合にでていない選手が使われるのかどうか。韓国戦でいいプレーを見せた倉田や藤田が続けて起用されるのか。3試合連続で、永井と遠藤が起用させるのか。もしも試合に使われていない新しい選手がスタメンに出たなら、彼はきちんと自分のポジションを考えてプレーしているのかを見れば、その選手のサッカー理解度がよくわかる。
■フォワードがボールを追いかける限界点
北朝鮮戦との大きな違いは、前線の選手がどこまでボールを追いかけるのかにあった。チームの守備の基準はフォワードが作るものだ。フォワードがボールをどこまで追いかけるのかによって、チーム全体の守備に影響を及ぼす。北朝鮮戦では、日本のフォワードがゴールキーパーまでボールを追いかけるシーンがあった。フォワードの動きに連動して中盤の選手はフォワードについていき、同時に最終ラインの選手もラインを押し上げなければならない。そうしなければ、選手間の距離が広がってしまう。もしも、フォワードとディフェンダーの距離が必要以上に広がってしまったら、中盤で相手が自由にボールをもてる距離感を提供してしまうことになる。
北朝鮮戦での日本は、悪循環にハマった状態になった。フォワードはどんどん前にプレスに行って、中盤はフォワードについていけなくて、なおかつ北朝鮮は味方のフォワード目がけてロングボールを入れてくるから、日本のディフェンダーはラインを簡単には上げられない。日本のフォワードとセンターバックの距離は相当に広がっていた。
北朝鮮戦での反省もあってか、韓国戦での日本のフォワードは決まった地点までしか追わなかった。その地点とは、韓国陣内のセンターサークルの先端までである。これが日本のフォワードがボールを追いかけた限界点だった。韓国は、ボールを最終ラインで回して、ビルドアップのスイッチを入れようとする。ピッチをワイドに使うことを意図して、タッチライン沿いに選手を配置する。右サイドから左サイドに斜めにサイドチェンジされたボールはダイナミズムな攻撃を匂わせる。しかし、センタリングの精度の悪さと長身フォワードのキム・シンウが狭いポイントでしかヘディングの威力がないことによって、決定機には繋がらなかった。
日本は韓国が最終ラインでボールを回しても「問題ない」とした。逆に、あえて最終ラインで韓国にボールをもたせたとも言える。韓国のセンターハーフにボールが入って、そこからミッドフィルダーにパスが出されたところで、日本はプレスに行くようにした。
北朝鮮戦ではゴールキーパーまでボールを追いかけた攻撃陣は、韓国戦では一転して敵陣センターサークル先端までしか追いかけない。こうした守備戦術の変更によって、日本のフォワードとディフェンダーの距離間はコンパクトになって、連動性が少しずつ作られるようになっていった。この守備戦術の変化をもたらしたのは、間違いなくハリルホジッチ監督の采配であろう。
また、前半と後半の選手の運動量(ペース配分)に関しても、コンディションと気候を考慮に入れた監督の指示だろう。日本が後半開始早々から激しくプレスに行ったのを見て、前半からなぜ行かないのかと疑問に思った読者がいるかもしれないが、もしも前半から激しく行っていたら後半の動きはなかった。
守備に関しては、ハリルホジッチ監督の明確な指導があった。つまり、監督は、守備戦術に関しては無策ではない。
■攻撃に関しては方向性が見えない
日本の攻撃においては、いったい何をしたいのかが見えない。縦へ速いパスで速攻というイメージで始動したハリルホジッチジャパンだったはずだ。これは、監督が自分のイメージを選手に伝えられないのか、選手が監督の言っていることを理解できないのか、不思議に思えるほど方向性が見えてこない。
攻撃には優先順位というものがある。
[1]相手の裏を狙う。
[2]中央を狙う。
[3]サイドを狙う。
これが攻撃の優先順位なのだが、状況によっては[2]サイドを狙って[1]中央を開けて[3]裏を狙うなど、状況に応じて組み合わせをもって攻撃する。相手のシステムと選手の質を見極めて、どういう優先順位にするかはそのチームの方針によるものだ。どうやって攻撃をして得点を奪おうとしているのか、見ていてイメージがわいてこないのが、現状の日本代表のサッカーだと言える。
たとえば、1トップで川又堅碁を起用しているが、ポストプレーが苦手なようだし、ボールをもってシュートにいってもすぐに左足に置き換えようとするので、相手ディフェンスは簡単にブロックにいける。逆に、川又の豪快さを消してしまっているポジションで起用していると言える。
ここで考えられるのは、監督にとって東アジアカップが選手の質を見極める大会になっているということである。それならば、選手起用や采配に関して、納得しようと思えばまだ理解できる。
中国戦での日本の攻撃面に関して、相手の「裏を狙う」「中央を狙う」「サイドを狙う」の組み合わせの中で、どういう優先順位で攻撃を仕掛けてくるのかを見ることがポイントになる。全体練習をしなくても、方向性を示唆することが重要なので、ミーティングで十分に伝えられる内容だろう。
現実に起っている事柄に対してどうやって対処していくのかに、その人の力量が計られる。しかし、今日明日でこの日本代表が急変して強くなることは考えられない。今のままでは、日本は沈み行く舟のような状態にある。そのためにも、ハリルホジッチ監督には、チームを一から作り直していくことが求められるし、事実、そうしなければどうにも打開策が見だせない。
「解体構築」。「解体」して「構築」するという覚悟が監督にはあるのか。そのためには時間がかかる。そこまで世論は待てるのかどうか。ハリルホジッチ監督が真の意味で冒険者となって、日本のサッカーを発展させることができる人物なのかどうか。そうした側面も中国戦の采配から見えてくるに違いない。
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