栗田祐作さん(下)が日本代表サポーターへと導かれたのは2014年のワールドカップを現地で観戦した際の経験が発端だった
時に試合のムードをがらりと変えてしまうこともある。ゴール裏で声を限りに歌い、感情を爆発させた応援で選手たちに力を与えるのが、サポーターという存在だ。ピッチで戦う選手たちを支えようと心を決めるのは、果たしてどんな時なのだろうか。場合によっては、敗戦後、敵国サポーターの言動が気持ちを後押しするきっかけになることもある――。
◆ブラジルワールドカップで目の当たりにした、コロンビアサポーターの温かさ
栗田祐作さん(19)は現在大学2年生。彼が日本代表サポーターへと導かれたのは、2014年のワールドカップを現地で観戦した際の、ある経験が発端だった。
「ブラジルワールドカップを現地で観戦していたんですが、日本代表の3戦目、コロンビア戦が自分にとっては衝撃的で……。もちろん試合の結果がショックだったこともあるんですけど、コロンビアのサポーターの振る舞いにすごく感銘を受けたんです」
試合結果は1-4。日本代表選手、そしてサポーターにとっても屈辱的なものだった。試合後、がっくりと肩を落とした栗田さんに声を掛けてきたのが、コロンビアのサポーターだったという。
「皆さんとても友好的で、『結果は1-4だけど、内容的には1-2くらいだったよ』とか、『内容に大差はないよ、もしかしたら日本が勝っていたかもしれないよ』といった励ましの言葉をたくさんもらいました。正直、ビックリしましたね」
コロンビアがワールドカップに出場したのは、1998年のフランス大会ぶりだった。5大会連続でワールドカップに出場している日本代表に対するリスペクトを、栗田さんは身をもって感じたという。
「日本に比べて、コロンビアのほうがサッカーの成熟度はまだまだ上だと思うんですけど、それはサポーターにも言えることなのかもしれないな、と。日本にもそういうサポーターをもっと増やしていきたいと思ったのが、僕がサポーターを始めたきっかけのひとつでした」
そんな栗田さんは昨年9月から、大学のサッカーサークル内で日本代表部門に所属し、本格的なサポーター活動に携わっている。6月のキリンチャレンジカップ・イラク戦からは、部門長としてコールも任されるようになった。
「初めて最前列で応援のコールをさせてもらった日、試合の合間にパッと客席を振り返ったんです。その時に見た、仲間たちの充実した表情が忘れられないんですよ。この顔をもっと見たい、と強く感じました。そのためには自分が応援でスタジアムを盛り上げて、もっとみんなに熱くなってほしいし、楽しんでもらいたいと思ったんです。サポーターって、意外と表立ってフォーカスされがちな部分もあると思うんですけど、実は一番の裏方なんですよ。選手や観客を、裏でしっかりとサポートできる存在でいられたらいいですよね」
◆選手にとって「仲間」のような存在であり続けたい
ゴール裏で声を荒らげるサポーターというと、いかつい男性を想像する人も多いかもしれない。だが、日本代表のサポーター歴4年の関口紗矢香さん(21)は、そんなイメージとは正反対の、おっとりとしていて笑顔が愛くるしい女性だ。しかし、サポーター活動には男子顔負けの情熱を注いでいる。
「この3年間くらい、日本代表の試合は国内外すべて応援に行っています。10カ国以上は行っているんじゃないかな? ツアーじゃなくて個人で航空券を手配して、一人でどこにでも飛んじゃいます(笑)。特に国外の試合ってサポーターの数もすごく少ないので、応援の一体感は別格。現地のサポーターが日の丸を用意してくれたりもするし、自分のやりたい応援も実現できるので、やりがいがあるんですよね」
いわば日本代表の試合はフル出場、本気度が違う。「ミーハーな感覚で応援しているわけじゃないんですね」と振ると、「う~ん」と少し考え込んで、応援の幅広さを認める懐の深さを見せてくれた。
「私自身はもともと“日本代表”っていうチーム全体が好きで応援しているんですけど、たとえば女子サポーターの中には、特定の選手の追っかけがメインで、代表を応援しているという人もたくさんいると思います。ただ、それは女性に限らないですよね。そういう人たちに対して、変に壁を作ったりすることはないです。いろんな見方があっていいと思いますし、応援する場所や方法が違うだけだと思っています」
そんな関口さん自身にも、あるできごとをきっかけに、気になる選手が現れた。はにかみながら話してくれたエピソードは、サポーター冥利に尽きる出来事だった。
「ある代表戦の試合で、自分達が中心になって横断幕を出していたんです。その試合後のテレビ番組で、吉田麻也選手が『あの幕を見て気持ちが上がった』とコメントしてくれたんですよ。それを聞いたときに、『ああ、見ていてくれる選手がいたんだな、報われたなあ』ってすごく感動して……。それ以来、やっぱり吉田選手は特別応援するようになっちゃいましたね(笑)」
選手の心を揺さぶったこの体験以降、関口さんの中で“選手とともに戦っていく”という決意が確固たるものとなったのだという。
「選手が『サポーターのために』や『サポーターがいるから』って言ってくれるからこそ、それに応えたいし、私たちサポーターは選手にとって「仲間」でありたいと思うんです。仲間だからこそ一生懸命応援します。ただ、時には応援や横断幕を通して叱咤激励もします。一緒になって試合を戦ったいきたいと思っています」
インタビュー・文・写真=波多野友子
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