カンボジア戦の日本代表先発メンバー [写真]=Getty Images
エクスキューズはある。
11月17日に行われたカンボジア代表とのロシア・ワールドカップのアジア2次予選は、人工芝のピッチで行われた。ボールも使い慣れないものだった。日本とも欧州とも違う暑さにも直面した。座っているだけで肌が汗ばむのだ。シンガポールと比べても、蒸し暑さはしぶとかった。
それにしても、2-0という結果は物足りない。格下相手の苦戦は起こり得ることでも、歯がゆさを覚えずにいられない。後半開始直後に得たPKが決まっていれば、試合の行方は違ったものになっていただろう。だが、この試合でゲームキャプテンを務めた岡崎慎司のキックは、相手GKに阻まれてしまう。お祭り騒ぎだったスタジアムの空気は、この瞬間に戦闘モードの色彩を強めた。地元観衆のテンションを高め、カンボジアを勇気づけてしまったのである。
このまま0-0の時間帯が続いたら、試合の難易度はさらに上がっていただろう。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も慌てたに違いない。ここで活路を開いたのは、後半から出場した柏木陽介だった。51分、右サイドからの直接FKは絶妙なコースを襲い、相手のオウンゴールを誘ったのだった。
背番号「7」を着けたレフティは、その後もダブルボランチの一角から中距離のパスを前線に配給していく。守備ブロックの背後を破れずにいた日本は、柏木の登場で攻撃のリズムをつかみ、62分に途中出場した本田圭佑の存在が相手にストレスを与えていく。柏木というパスの出し手を得て、長友佑都の攻撃参加も活発となり、サイドからのクロスで相手ゴールへ迫っていけるようになった。その結果が2-0の勝利である。
もっとも、この試合を2015年の活動を締めくくる一戦と位置づけると、物足りなさがこぼれ落ちてくる。今年3月から采配を振るハリルホジッチ監督は、タテに速いサッカーを志向している。柏木がもたらし攻撃パターンは、指揮官の戦術に輪郭を与えた。カンボジアの攻略法としては、理にかなっていたと言っていい。
だが、よりレベルの高い相手に、同じことが通用するだろうか。
1本のパスを攻撃のきっかけとする現在のサッカーでは、日本人が得意とするパスワークが第2、第3の選択肢へ追いやられている。日本人が強みとする俊敏さを生かす場面は少ない。選手同士の距離感や連動性より、1対1での力強さが問われる。慣れない武器を持たされて戦っているようなものだ。
ハリルホジッチ監督は先のシンガポール戦に続いて、カンボジア戦でもメンバーを入れ替えた。テストの意味合いを含む試合だったことは、指揮官も認めている。だが、カンボジア相手の拙攻は、テストが理由ではない。チームとしての成熟度の表れと理解するべきである。個々の選手が個性を解放できないサッカーに、躍動感が欠如するのは必然である。意外性や即興性が生まれるはずもない。両サイドからのクロスが1本しか得点に結びつかなかったのは、相手のマークを揺さぶれなかったからだった。
視点を対世界に移してみれば、タテに速いサッカーは必要なものだ。1対1での強さも、さらに身に付けていかなければならない。チーム作りの初期段階として、足りないものを肉付けするのは悪くない。だが、自分たちの武器を捨ててしまうのはもったいない。タテに速いサッカーとパスサッカーのバランスを見出すのが、2016年以降の課題となる。
文=戸塚啓
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By 戸塚啓