手倉森監督(左)は準々決勝のイラン戦でどのような采配をとるのか [写真]=Getty Images
誰も予想していなかった采配だった。
リオ五輪アジア最終予選を兼ねたU-23選手権に臨んでいる日本は、グループステージを首位で通過した。実力拮抗のグループをいち早く抜け出した要因は、手倉森誠監督の選手起用だっただろう。
グループステージは中2日で3試合を消化していく。同3戦目から準々決勝も中2日だ。スケジュールは過密だが、チームの連携を深めるにはメンバーを固定したほうがいい。実際に日本と同グループの3チームは、1、2戦をほぼ同じメンバーで戦っている。
しかし手倉森監督は違ったのだ。北朝鮮との第1戦に1対0で勝利すると、タイとの第2戦でスタメンを6人も入れ替えた。第3戦でもそれまで出場のなかったGK杉本大地(徳島ヴォルティス)、DF松原健(アルビレックス新潟)、MF三竿健斗(鹿島アントラーズ)、MF井手口陽介(ガンバ大阪)を先発に指名した。タイ戦からの変更は10人(!)である。3試合連続で先発出場したのは、一人もいなかった。
実は大会前から、指揮官はターンオーバーを想定していた。
「年末の石垣島でのキャンプから、色々な組み合わせは考えていました。23人のうち21人しか発表していなかったけど、最終予選のシミュレーションはしていたんです。五輪に出場するには、6試合戦わなければならない。ノックアウトステージに入ると、延長戦もある。疲労とともに戦っていくなかで、120分やってもオレたちが勝つんだというフィジカルとメンタルに選手を仕上げていくには、グループステージのマネジメントが重要になる」
大胆とも言える選手起用は、緻密な計算に基づいたものでもあった。
「第2戦で対戦したタイは、事前に情報を集めると第1戦とほぼ同じメンバーでくるということだった。彼らはサウジアラビアとの第1戦で、ものすごいパワーを使っていた。ということは、後半になると必ず運動量が落ちてくる。思い切って代えてもいけるな、と」
FW久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)とFW南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)の海外組は、昨年3月の1次予選以来となる合流である。久保は年末の石垣島合宿からチームに加わったが、南野はほぼぶっつけ本番だ。
一方で、彼らの攻撃力は予選突破のために不可欠である。少しでもコンビネーションを熟成させたいところだが、手倉森監督に迷いはないのだ。
「同じメンバーで試合をして連携を深める……という考えかたもあったかもしれない。でも、チームのやり方というのは、みんなが分かっている。そこに不安はなかった」
海外組の二人のケアも、忘れてはいない。第1戦では揃って先発で起用し、第2戦、第3戦でもピッチへ送り出した。
「彼らはこのグループでの活動が少ないから、短い時間でもコンスタントに使っていくことで、ノックアウトステージに生かせる何かがつかめるかな、と」
手倉森監督の思惑どおりに、久保はタイ戦で2ゴールをマークした。南野はサウジ戦でアシストを記録した。サウジ戦にフル出場した南野は、「試合を重ねるごとに良くなってきていると、自分でも感じている」と話している。
果たして、グループステージを首位で通過しつつ、選手の疲労を分散させることができた。サウジ戦後、手倉森監督は張りのある声で話した。
「連戦で過酷な状況も覚悟していますが、疲労困憊でここまできている選手は一人もいない。いい流れが我々にきている」
準々決勝で対戦するイランも、グループステージの3試合でメンバーを入れ替えた。ただ、日本より休養が1日多い彼らのアドバンテージは、手倉森監督の選手起用によって塗り潰されている。
日本に不安がないわけではない。
負傷を抱えるFW鈴木武蔵(新潟)は、準々決勝に間に合うのか。答えは試合当日を待たなければならないだろう。同じくタイ戦で負傷したDF室屋成(明治大学)は、サウジアラビア戦のウォーミングアップでボールを蹴っていた。彼は合流間近だ。
ともあれ、最大の懸念材料だった疲労は、最小限に止めることができている。このチームが長く越えられなかった壁──準々決勝をくぐり抜ける準備は、整っていると言っていい。あとは、ピッチ上ですべてをぶつけるだけである。2014年のチーム立ち上げから培ってきたコンビネーションと一体感と、若年層から世界大会出場を逃してきた悔しさを。
文=戸塚啓
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By 戸塚啓