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元代表組と恩師が絶賛…岡崎慎司とレスターに見る“ジャパンウェイ”の可能性とは

2016.05.17

初挑戦のプレミアでリーグ戦36試合に出場し、5得点を記録。献身的なプレーでリーグ制覇に貢献した [写真]=Leicester City FC via Getty Images

 レスターのリーグ初制覇という偉業達成が世界中に驚きを与えた2015-16イングランド・プレミアリーグが15日、ついに最終節を迎えた。殊勲のレスターは敵地・スタンフォードブリッジでチェルシーと対戦。MFセスク・ファブレガスのPKでビハインドを背負ったが、中盤の大黒柱であるMFダニー・ドリンクウォーターの豪快ミドル弾が飛び出して1-1のドロー。勝ち点を81に伸ばし、2位アーセナルに10ポイント差をつける“完全優勝”を成し遂げた。

 この日、FW岡崎慎司は18試合ぶりにベンチスタート。後半開始からMFアンディ・キングと交代出場したが、惜しくも無得点で終わった。これで今季は5ゴールで終了。本人が「得点数は他の選手に比べると少ない」と語ったように、不完全燃焼感を多少なりとも覚えていることだろう。それでも、シーズン通じて献身的にボールを追い、攻守両面でチームに貢献する姿は、周囲から高く評価された。

 レスターと岡崎のスタイルは、かつて日本代表でコンビを組んだ選手や清水エスパルス時代の恩師も絶賛する。日本代表で数多くのゴールをお膳立てした中村憲剛川崎フロンターレ)は「レスタージェイミー・ヴァーディーを筆頭に優れたタレントのいるいいチームだったし、全員が一年間で著しい成長を遂げた。そういう中で、オカ(岡崎)は自分の居場所をうまく作った。もともとオカは自分の居場所を見つけるのがうまい選手。代表でもクラブでも毎回、違った役割を求められるのに、監督の要求を真摯に受け止めて、自分の仕事をやり切れるところが本当にすごい。ああいう選手だったら絶対に使いたくなる。ホントにいい選手になったなと思いますね」と世界に名を残した後輩に最大級の敬意を表した。

 岡崎を清水エスパルスのルーキー時代に指導し、ブレイクのきっかけを作った長谷川健太監督(現ガンバ大阪)も「やっぱり現代サッカーでは、ああいうハードワークが強く求められてるということでしょうね。オカは日本人の“ジャパンウェイ”を地で行っている男。献身性があって機敏だし、強いハートを持っていて、諦めないという日本人の良さを凝縮したようなプレーヤーですからね」と、その存在価値を改めて強調する。

 イングランドのブックメーカーでは、レスターの優勝は宇宙人に遭遇することよりも倍率が高かったという。まさに実現不可能と見られたことを現実にできたのは、岡崎のようなハードワークをチーム全員が実践し、最後まで一体感を持って戦い続けたからに他ならない。岡崎自身も「全員が本能的に自分の力を出して共鳴した時、本当に強いチームになれる」と語っていたが、日本代表もそういう強固な集団になることができれば、2018年のロシアワールドカップで世界を驚かすことも可能なはずだ。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は就任当初から「ジャパンウェイの重要性」を再三、強調している。それを日本代表が確立するためには、岡崎が今季レスターで示したような球際の激しさ、驚異的なスプリント回数と攻守両面に関わる献身性、強靭なメンタリティを全員が強く意識し、ピッチ上で表現していくことが必要不可欠。岡崎はこうした成功体験を持つ数少ない選手として、代表チームにもたらすものは非常に大きい。

 かつてヨーロッパでプレーした中村俊輔横浜F・マリノス)は、クラブでの経験値の重要性を代弁しつつ、快挙を達成した後輩にこうエールを送る。

「岡崎がプレミア優勝に向かっていく1シーズンをずっとチーム内で感じることができたのは、めちゃくちゃデカい。自分の場合は全く逆の状況だったけど、イタリア・レッジーナでの3年間(2002~2005年)に『2部に落ちなければ最高』という戦い方を経験したのがプラスになっている。シーズンを通じて負けないサッカーに取り組むことは日本ではやったことがなかった。3連敗でもしたら、監督はいろいろなことをし始める。ミーティングだって点を取られたシーンをみんなに見せて、戦犯を決めて、そいつだけ怒鳴られる。その方が次に進みやすい。当時セリエAは世界一だったし、そういうマネージメントを目の当たりにしたことは勉強になった。岡崎にも今年の経験を代表に落としてほしいね」

 中村俊を始めとして、今季ドイツ・ブンデスリーガで2部降格の憂き目に遭ったMF清武弘嗣、DF酒井宏樹、MF山口蛍のハノーファー三人衆、あるいはスコットランド・プレミアリーグで1部残留を果たせなかったGK川島永嗣(ダンディー・ユナイテッド)のように、欧州主要リーグでプレーする日本人選手が下位争いに巻き込まれるケースは少なくない。過去にタイトルを取ったのは、2008-09シーズンにヴォルフスブルクでブンデスリーガを制覇したMF長谷部誠(現フランクフルト)、2010-11、2011-12シーズンにブンデスリーガを連覇し、2012-13シーズンにマンチェスター・Uでプレミアリーグ優勝を経験したMF香川真司(現ドルトムント)くらい。彼らは当時若手の立場で、チームの主力選手に引っ張ってもらう形でのタイトル獲得だった。

 だが、今回の岡崎は29~30歳という円熟期に達しており、欧州3クラブ目で成し遂げた大きな成功。彼自身もそれぞれのクラブで経験してきたマネジメントや監督の采配、チームメートとの関係構築を、レスターにおける一挙手一投足に役立てたことだろう。それだけ引き出しが多い分、日本代表に還元できる部分は増える。岡崎への期待は大きくなる一方だ。

岡崎慎司

今季リーグ戦で24得点を挙げたヴァーディとの2トップは相手に脅威を与えた [写真]=Getty Images

 とはいえ、日本代表がレスターの域に達するためには、取り組まなければならない課題がいくつかある。その筆頭がチーム内のコンビネーションだ。

 岡崎とヴァーディーの2トップを見ても、ヴァーディーが前に向かう高度な推進力を押し出す一方で、岡崎が彼の周りを衛星的に動いてサポートする関係性が出来上がっていた。相手にとっては脅威に他ならない絶妙の連携がチーム内の各所に生まれなければ、世界を驚かすような連動したサッカーはできない。名コンビの存在やチーム全体の連携向上に関しては、中村俊も自身の経験を元に口を開いてくれた。

レスターには岡崎みたいなタイプがいなかったこともプラスだったのかな。岡崎とヴァーディーの関係は森島(寛晃=セレッソ大阪チーム統括部)さんと西澤(明訓)さんみたいに“あうんの呼吸”でやれる間柄だった。そういう関係がないと、お互いに結果を出せない」

 森島&西澤と言えば、2000年前後を中心に活躍した代表史上に残る名コンビ。ともにC大阪でプレーしていたことも好連携の理由だが、あれだけの研ぎ澄まされたコンビネーションは日本代表でもなかなか構築できない。代表の活動が断続的に行われるデメリットもあるとはいえ、今の主力である岡崎、FW本田圭佑(ミラン)、香川、長谷部、DF長友佑都(インテル)といった面々は2008年から足掛け9年も日の丸を背負い、お互いの特徴を知り尽くしている選手たち。少なくとも岡崎、本田、香川の大黒柱トリオは常に敵を凌駕できるような強固な連携を見せてもらいたいところではある。

岡崎慎司

ロシアW杯出場を懸けたアジア最終予選は9月から開始。岡崎ら大黒柱トリオに期待がかかる [写真]=Getty Images

 ハリルホジッチ監督就任後、特に強調されている「デュエル(一対一の局面における勝負)」、「ボールを奪われてから6秒で奪い返す守備」、「前方向へのパス」、「ゴールに直結する攻撃」といったコンセプトの浸透もまだまだ不十分。日本サッカー協会の霜田正浩ナショナルチームダイレクターが今月12日に行ったロシアワールドカップアジア2次予選の総括によれば、デュエルの勝率は今年3月のシリア戦が56.4%と8試合のうち最高で、6秒以内でボールを奪取した回数も2015年6月のシンガポール戦の16回からシリア戦では19回と数字が上がっているという。前方向のパスに関してもシンガポール戦の47.2%からシリア戦の58.1%と目覚ましい向上を見せており、前進が感じられるのは確か。これには霜田氏も手応えを感じている。

「来日当初、ハリルホジッチ監督は『日本のサッカーにはデュエルが全くない』という感想を口にしていました。それから一年が経ってデュエルが多くなり、意識は変わったという印象を受けています。ただ、同じことを最終予選でやれるとは限らない。それでも監督は『岡崎のようにチームのために犠牲心を持って戦える選手が日本代表にいるのはストロングポイント』だと繰り返し強調しています。その意識を突き詰めていくことが重要だと考えます」

 代表監督の目指す方向性を岡崎のみならず、日本代表の全選手が120%の力を出して実践し、その上でそれぞれの個性や長所を研ぎ澄ませていく――。そういった集団になることで、日本代表はレスターの大躍進を再現することは可能なはずだ。それこそがまさしく“ジャパンウェイ”。日本代表が世界で結果を出すことが決して夢物語でないことを、今季のレスター岡崎慎司が証明している。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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