ボスニア戦で日本代表デビューを果たした小林祐希。“異分子”の代表定着に期待がかかる [写真]=三浦彩乃
世界で結果を出すためには、従来の“没個性”では戦えない――。日本代表FW本田圭佑(ミラン)が7日に行われたボスニア・ヘルツェゴヴィナ戦後、この試合で日本代表デビューを飾った小林祐希(ジュビロ磐田)が残した“爪あと”を評価し、改めて彼の代表デビューを歓迎した。
初の日本代表入りを果たし、ボスニア戦の74分に宇佐美貴史(ガンバ大阪)との途中出場で国際Aマッチデビューを飾った小林祐は、投入直後から積極的に声を出して存在感をアピール。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督から左サイドに入るよう指示されていたが、「間で受けてワンクッション入れてからのほうが相手を引き出せる」という自分の判断で中央や逆サイドまで動き回ってボールサイドへ顔を出した。かねてからピッチで自身の存在価値を表現したいという意向を持っていたこともあり、縦パスでのフリックや強引なまでのミドルシュートという意欲的なプレーを披露しようと試みた印象だ。ただ、個人レベルで結果にこだわりすぎたこともあって、周囲はやや困惑気味。うまく周囲と連携してチャンスを作れないシーンも目立った。
所属の磐田ではトップ下を任されていることもあり、初めての、そして短期間の代表合宿では指揮官が左サイドに求めるものを理解し切れていなかったのも事実だろう。確かに一見すると“空回り”に見えるシーンもあったが、それでも本田は小林祐のプレーと“個性”に可能性を見る。
「気持ちは伝わりましたよね。気持ちが伝わる選手が最近は少ないから。そういう意味では、“爪あと”を残そうとした祐希の気持ちは僕には伝わりましたね。見ている人の何人かにも分かったと思いますけど。これから祐希みたいな選手が何人も何十人も出てくるようにならないと、日本サッカー界が本当の意味で世界のスタンダードにはなり得ない。僕が出てきた時もそんな議論になったと思うんですけど、まだそんな議論をしているのかというのが正直なところ。日本の教育――これはサッカーの指導だけでなく、スポーツ界全体でもっと大きな範囲で物事を考えた人間育成プログラムを付け加えていかないと、こういう選手は生まれてこないでしょうね。一人が生まれるだけで毎回こういう議論が出てきてしまう。ブラジル、アフリカ、フランス……イタリアもそうですけど、そういう選手はいっぱい出てきますから。(日本は)大げさなんですよ。日本人に生まれて、日本に育って、どうしても(周りに)協調するようになる。それがちょっと偏りすぎてるなと。だから祐希みたいなヤツが、こう言われたりするんでしょう。それでも祐希は面白い存在だし、楽しみにしてます。もっとやっていいんじゃないかと思いますけどね、もっとガツガツしても」
思えば合宿初日、小林祐は指揮官の下を訪れて「日本のために自分ができることはすべてやります。さらに成長したいし、日本のためになりたいから高い要求をしてください。それに応えられるように頑張ります」とアピールしていた。そして報道陣に対しては「この25人の中で(実力は)一番下だけど、自分の能力を大舞台で出せるのは主張できる選手や自信がある選手だったり、ギラついている選手。(自分は)小さな頃からそういう性格なので、そういう部分を出していければ」と話していた。
また、合宿期間中のトレーニングではレギュラー組には入れず、「どうしたら使ってもらえるのか」と聞いて回り、「紅白戦で結果を出すしかない」という答えを導き出してアグレッシブなプレーを続けていたという。そういう意味では指揮官に向けてのアピールに成功し、自ら勝ち取った出場機会だったと言えるのかもしれない。
初めての代表戦で結果を残すことはできなかった。だが、本田が言うとおり、本人も目指していた“爪あと”は残した。大事なのはここからだ。試合後の表彰式、結果を出せずにしばらく佇んでいた小林祐は、そっと本田に近づいて声を掛けた。このやり取りについて彼は「それはおいおいプレーで見せていければ」と多くは語ろうとしなかった。その答えはまず磐田でのプレーで見せることになる。
「強烈な爪あとを残したい、下の世代から突き上げたい」と意気込んで臨んだ初の日本代表で「存在感」という“爪あと”は確実に残した。果たして彼は初めての代表でどんな理想と現実を見たのだろうか。
メンバーが徐々に固定され、戦術やスタイルが確立されつつあった日本代表にとって、自分の個性を前面に押し出してくる小林祐はまさに“異分子”と言うべき存在。だが、そういったキャラクターがチーム内にいなかったのも事実である。本田を始めとするチームメートは小林祐の持ち味を理解した上で、その投入を歓迎した。
日本代表選手には9月からの2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選、そしてその先へ向けて飛躍的な進化が求められている。これは小林祐にとっても同じだ。日本代表としての初キャップを記録したボスニア戦を、彼はこう話していた。
「代表で生き残っていくイメージは15分間で相当できた。この経験を次に生かせるようにしたいし、もっと高いレベルでやらなければいけない。それは高いレベルを求めていくというか、自分自身に自分で厳しい目を向けて、もっとできるという気持ちでプレーしないと。自分もチームに帰ってさらにレベルアップしなければ」
一瞬で攻撃のスイッチを入れられる稀有なタイプのプレーヤーだ。本田は彼の未来を「楽しみ」とした一方で、かつての自らのように有言実行を求めているはず。今のままではまだまだ世界と戦うことはできない。自分を押し出して刺激的な言葉を残す小林祐には、とにかく磐田で大きく成長することが求められる。そしてその先には日本代表への再招集が待っているはずだ。
自信たっぷりの口調で初めての“15分間”について話してくれた小林祐の立ち居振る舞いを見ていると、確かに若き日の本田のイメージが重なる。この“異分子投入”は、果たして日本代表チームにいかなる化学反応をもたらすことになるのだろうか。
文=青山知雄
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