リオ五輪日本代表の室屋成。ブラジルの地でFC東京の城福監督が解任されたことを知った [写真]=野口岳彦
今や手倉森ジャパン不動の右サイドバックとなった室屋成(FC東京)。だが、2月に念願のプロ契約を結んだばかりの彼にとって、この半年間は「プロとは何か」を学ぶ期間でもあった。
プロ契約を結んだ直後の2月に判明した左足ジョーンズ骨折。全治約3カ月と診断され、リハビリ中には心が折れそうになったが、クラブの大先輩にあたる石川直宏が左ひざの大ケガから復帰を目指して黙々とリハビリをこなす姿に勇気づけられ、プロとしてあるべき姿勢を学んだ。
7月9日に明治安田生命J1リーグデビューを果たし、フル出場を飾った際には、2万人を超える観衆の前でプレーする喜びと、プロとしての責任を改めて知った。
「最終予選の時は大学生だったので、ちょっと良いプレーをしただけでほめられたけれど、オリンピックにはプロとして来ているので、それが当たり前のプレーになると思う。みんなと同じ基準で自分のプレーを見せなければいけないと思っています」
リオデジャネイロ・オリンピックのためにブラジル入りした後にも、プロの世界の厳しさを痛感する出来事があった。自身を獲得し、J1デビューさせてくれたFC東京の城福浩監督が解任されてしまったのだ。その事実は起床後、クラブの強化担当者から届いたメッセージを見て初めて知ったという。
「びっくりしました。ケガが治ってすぐに使ってくれたし、デビュー戦の前も『自由にどんどん仕掛けろ、自分の特徴を出してくれ』と言ってくれた。信頼してくれていたのが感じられたし、もっと一緒にやりたかったので悲しいというか……」
少し表情を曇らせた室屋は「でも」と言って言葉を続けた。
「これがプロの世界、厳しい世界だなって感じました。チームが勝てないままオリンピックに来たのでサポーターの方々にも申し訳ない気持ちもあります。だからこそオリンピックで活躍して、帰国したらJリーグでも活躍して、いい流れに持っていきたい」
それにしても、骨折をして、指揮官が解任され、そしてオリンピックに臨もうとしている。わずか半年に過ぎないプロ生活はまさに“激動”だ。
「本当にすごい一年目ですよね。でも、これからはいいことが待っていると思います。実際にブラジルまで来て、結果を残して日本に帰りたいっていう気持ちが日に日に強まっています」
“いいこと”とは手倉森ジャパンのメダル獲得に他ならない。明治大の学生として無我夢中にプレーした最終予選の頃の室屋とは違う。困難を乗り越えて身についた精神力、急速に芽生えつつあるプロとしての矜持が、タフな右サイドバックをさらにたくましくする。
文=飯尾篤史