“ご意見番”セルジオ越後氏がリオ五輪を展望!「結果を出さないと苦しい時代が続くという覚悟を持て」

サッカー解説者のセルジオ越後氏 [写真]=鷹羽康博

 リオデジャネイロ・オリンピックがいよいよ開幕。男子サッカーではオリンピック6大会連続の出場となる日本が4日(日本時間5日10時)のナイジェリア戦で初戦を迎える。日本は1968年のメキシコ五輪以来となるメダル獲得を目指すほか、開催国となるブラジルは悲願の金メダル獲得へネイマールをはじめ、意欲を燃やす大会となる。

『サッカーキング』ではサッカー解説者で日系ブラジル人であるセルジオ越後氏に話を聞き、大会を展望してもらった。

―――リオ五輪で日本代表はどれくらい戦えるとお考えですか?

セルジオ越後 チャンスはあると思うよ。ほとんどの国が五輪を目標にしていないみたいだからね。FIFA管轄の大会じゃないから、選手の代表入りも曖昧なところがあって、ベストメンバーを組めない。日本ももちろんそのうちの一つだよね。前回のロンドン五輪ではベスト4まで行けたけど、環境的に今回は移動も含めて厳しい。とにかく第1戦が全て。負けたら終わりのトーナメント戦のつもりで戦わなければいけない。

―――その初戦の相手、ナイジェリアはいかがでしょうか。

セルジオ越後 ナイジェリアの選手たちがどういった戦い方をするかといった知識はほとんどない中、手倉森監督の戦い方は、守備から入って耐えてカウンターを仕掛ける点を取らせないというサッカーだから、それがハマるか、ハマらないかはふたを開けてみないとわからないよね。

[写真]=鷹羽康博

―――日本代表の顔ぶれについてはいかがでしょう。

セルジオ越後 今の日本サッカー界でも、ちょっとおとなしいチーム。メディアはアジア予選を勝って騒いだから、それくらい期待されていなかったチームではあるということだね。オーバーエイジについてはA代表のレギュラー選手を選べなかった。Jリーグのチームも主力を欠きたくない中、よく出してくれたんじゃないかな。一方でA代表のレギュラークラスがいないということは選択肢が限られていたという裏返しでもあるね。

 23歳以下で話題になれる選手は、アーセナルに移籍したという看板で浅野(拓磨)。ただA代表では活躍してない選手だ。日本は組織的に守る姿勢はできている。ちゃんと引いて、ひた向きに守って、両サイドの選手も激しく相手を追いかけて。そこに交代も含めて、選手選択がうまくいけばという感じの戦いになるだろうから、決して横綱相撲が取れるサッカーにはならないだろうね。

―――手倉森監督についてはいかがですか?

セルジオ越後 6回大会連続で五輪に出場する国だというのに、監督がこんなに取り上げられたということは、最初は期待されていなかったから。予選を勝ち抜くことは初めてじゃない。関塚監督(ロンドン五輪代表監督)も勝っている。なんで手倉森監督だけが、「手品」という言われ方をしたのか。それはやはり、このチームが期待されていないからだよね。要するに、選手でスーパーな存在がいないということの裏返しだよ。

―――本番では先ほどもおっしゃっていたように初戦が大切ですね。

セルジオ越後 W杯もそうだし、五輪もそう。最低でも引き分けだね。日本に限らず、どの国でも1戦目に勝利したら、予選突破へ大きく有利となるのは間違いない。決勝トーナメントはブラジルが入っているグループとの対戦となるから、厳しいかもしれない。ロンドン五輪はコンディションが整っていなかったスペインとラマダン中のエジプト、あとはホンジュラスだったから、結果的に予選を1位で突破してもおかしくはない状況にはあった。今回はちょっと見えない。スウェーデンもどういうチームかわからないし、コロンビアも国外で実績のある選手はテオフィロ・グティエレスくらい。やはり1戦目の結果次第でどこの国も状況が変わると思うね。

―――ちなみにブラジル代表の予想は?

セルジオ越後 決勝には行くよ! まず、23歳以下の選手レベルを見れば、かなり揃えているよね。ブラジルにとって五輪はまだ取ったことのないタイトルで、さらにサッカー競技がリオ五輪を盛り上げるというエンジンになる。開会式の前に始まって、サッカーが勝つことによってニュースも盛り上がる。ブラジルではサッカーやバレーボール以外の他の種目はそんなにニュースにならない。だから期待も大きいよ。攻撃陣にかなりいいメンバーを揃えているしね。

[写真]=鷹羽康博

―――その中でもネイマールにかかる期待は大きいと思います。

セルジオ越後 今のA代表に欠かせない選手だけど、そういう選手がどの国にもいないということも見逃せないね。ホーム開催はやはりアドバンテージだよ。あと期待のFWガブリエウ・ジェズスはまだ19歳。ヨーロッパのビッグクラブが狙う逸材だ(※マンチェスター・C行きが3日に決定)。ただ、短期間の大会では何が起きるかわからないから、気を引き締めないといけない。

―――日本とブラジル以外で、注目されている国はありますか?

セルジオ越後 特別にはないね。五輪はどの国にとっても特別な大会ではなくなっているよね。ヨーロッパはリーグ戦が開幕するし、プレシーズンツアーでお金を稼ぐためにいろいろな国を飛び回っている。本当は五輪に出てほしいような選手たちがね。たとえるならWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)みたいなもの。それくらい五輪への価値観、プライオリティが落ちたんだ。

―――ブラジル国民は五輪に対してどういう感覚で臨まれるのでしょうか?

セルジオ越後 盛り上げる雰囲気には結局なる。W杯も五輪もお祭り化しなかったら、PRとかでスポンサーメリットにならないからね。そこには拡大したビジネスがあって、一度拡大したら、それをどう保つかということを無理しないといけない。純粋にやる五輪を獲得するのに、とんでもない裏のオークションが起きている。今の放映権料は異常だけど、それは止められない。ブラジルでは開催自体ものすごく反対されていた。すごく景気が悪くて、政府も五輪に関係なく揺れている。景気も悪いし犯罪も多い中で、いろいろな団体が「やめろやめろ」と言っている。そういうところの圧力がある中で開催するんだ。ただ、五輪ではローカルであるリオという街が本会場となるから、リオ以外でも開催されるサッカーに関しては平和と言えるね。

―――改めて、リオ五輪日本代表にメッセージを。

セルジオ越後 初戦で勝てなかったら難しくなる。あとは日本サッカー界において、「W杯に出場した」「五輪に出場した」ということが、変なマンネリ化、変な慰めになっている。もういい加減、出場しただけで満足感を得てしまうような空気を作ってしまうようではいけない。僕はいつも言うけど、メキシコ五輪以来メダルを取っていないという記事は誰も書かない。そこに壁があるわけなんだから。あと、今のA代表に対して下の世代からの押し上げが少なくなっている印象があって、ここである程度の結果を出さなければ、苦しい時代に入ってしまうのではないかという懸念がある。そういう覚悟も持ってほしいね。4年に1回の盛り上がりだけど、期待しましょう。

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