最終予選前半戦を終えた日本代表 [写真]=Getty Images
2016年最後となる11月15日のサウジアラビア戦で、日本は2-1の勝利をつかんだ。埼玉スタジアムで手にしたこの勝利により、2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選の通算成績は3勝1分1敗となった。同じく3勝1分1敗のサウジアラビアと勝点10で並び、日本は得失点差で2位につけている。
最終予選は6カ国がホーム&アウェーで合計10試合を消化し、上位2カ国がW杯本大会へストレートインできる。3位となった国は、別グループの3位国とプレーオフを戦い、さらに北中米カリブ海地区との大陸間プレーオフに挑む。
プレーオフへまわることになると、予選が長期化する必然として本大会への強化期間が削られてしまう。2位以内を確保したい大きな理由である。
全日程の半分となる5試合を終えて、日本のグループBは4カ国の争いとなっている。勝点10で並ぶサウジアラビアと日本、勝点9のオーストラリアとUAE(アラブ首長国連邦)だ。勝点3のイラク、勝点1のタイは、すでに脱落したと考えていいだろう。
サウジアラビアを退けたことで、日本代表を取り巻く空気から固さが取り除かれたと感じる。だが、最終予選の行方はまだまだ予断を許さない。
グループ内の順位は勝点で争われるが、同勝点で並ぶと得失点差、総得点が問われる。それでも優劣がつかなければ、当該国同士の勝点、得失点差、総得点、アウェーゴール……の順番で順位が決まっていく。
そのうえで、前半戦をもう一度振り返ってみる。
サウジアラビア戦の白星は価値あるものだったが、後半終了間際の失点が悔やまれる。2-0で勝利していれば、得失点差で上回ることができた。得失点差ではプラス3で並ぶオーストラリアに、わずかでも差をつけることもできた。ストレートイン圏内に浮上したとはいえ、アドバンテージを得ているわけではないことを、改めて理解しておかなければならない。
サウジアラビアのベルト・ファン・マルバイク監督は、「このグループは最後までもつれるのではないかと思う」と話す。同感だ。4カ国の力は拮抗している。最終的な決着が勝点ではなく、得失点差や総得点にもつれる可能性も少なくない、と思う。
9月の最終予選開幕から2カ月を経て、日本はふたつの意味で変わった。
ひとつ目は、スタメンの変化である。
UAEとの開幕戦と、11月のサウジアラビア戦の先発を比べると、5人が入れ替わっている。左サイドバックが酒井高徳(ハンブルガーSV)から長友佑都(インテル)になり、ダブルボランチの一角が大島僚太(川崎フロンターレ)から山口蛍(セレッソ大阪)になった。2列目右サイドは本田圭佑(ミラン)から久保裕也(ヤング・ボーイズ)となり、トップ下は香川真司(ドルトムント)から清武弘嗣(セビージャ)である。UAE戦で清武が担った2列目左サイドは原口元気(ヘルタ・ベルリン)で、1トップは岡崎慎司(レスター)ではなく大迫勇也(ケルン)となった。
酒井高の出場は、長友のケガによるものだった。太田宏介がフィテッセでポジションを失っていることも、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督には誤算となっていただろう。
それまで国際Aマッチに出場したことのない大島の抜擢は、柏木陽介(浦和レッズ)のメンバー外と無関係でなかった。ただ、酒井高も大島も、所属クラブで試合に出ていた。大島の起用は結果的に敗戦の遠因となってしまうものの、コンディションへの不安はなかった。
本田、香川、岡崎は、トップフォームでなかった。本田はUAE戦で先制のヘッドを叩き出したが、続くタイ戦では決定機を逃した。香川と岡崎も、ゴールから見放されていった。
彼ら3人だけではない。UAE戦に途中出場した宇佐美貴史が、新天地アウクスブルクで試合から遠ざかっていく。タイ戦で交代のカードとなった武藤嘉紀(マインツ)は、ケガで長期離脱を強いられた。
その一方で、原口がヘルタでの好調をそのまま代表へ持ち込んだ。タイ戦から最終予選4試合連続弾の彼は、前半戦のMVPと言っていい。
リオデジャネイロ・オリンピックで2得点を記録した浅野拓磨(シュトゥットガルト)も、タイ戦で貴重な追加点をゲットした。横浜F・マリノスの攻撃を牽引する齋藤学も、起用しないのがもったいないほどのパフォーマンスを維持してきた。
そして、大迫である。不遇をかこった昨シーズンから一転して、2015-16シーズンは開幕からケルンでポジションをつかんだ。11月の招集は遅かったぐらいである。
ハリルホジッチ監督が抱える「難しさ」は、チームが過渡期を迎えていることだろう。キャプテンの長谷部誠(フランクフルト)は32歳となり、本田や岡崎は30歳だ。現時点での彼らが頼りになる存在だとしても、2018年のロシアW杯を考えると世代交代の4文字が頭をよぎるに違いない。
そうは言っても、代表は結果がすべてである。短い準備期間で勝利をつかむのであれば、メンバーの大幅な入れ替えはリスクが伴う。そうした理由から、10月までは継続性重視のスタンスを崩さなかったと考えられる。
いずれにせよ、サウジ戦では正しい競争が持ち込まれ、勝利をつかむことができた。経験と実績のある選手でも、クラブで試合に出なければスタメンに選ばれないというメッセージは、最終予選後半戦にもつながっていくものだ。
ふたつ目の変化は、攻撃の基本方針だ。
ハリルホジッチ監督はこれまで、タテに速いサッカーを推し進めてきた。中長距離のパスを攻撃のきっかけとしてきたが、サウジアラビア戦ではショートパス主体の攻撃が展開された。相手ディフェンスラインの背後を狙ったタテパスは激減した。
攻撃が一本調子になると、相手に読まれやすい。自分たちが得意とするスタイルだけでなく、ケース・バイ・ケースの使い分けが理想だ。その第一歩として、サウジアラビア戦を位置づけたい。
来年3月以降の後半戦に向けて、キーワードにあげたいのは「競争の激化」だ。本田も、香川も、岡崎も、このままポジションを譲るつもりはないだろう。遠藤航(浦和)、植田直通(鹿島アントラーズ)、大島、久保、南野拓実(ザルツブルク)らリオ五輪世代のさらなる台頭も望まれる。スタメンはもちろん23人のメンバー入りをめぐる競争の激化こそが、ロシアW杯への推進力となっていく。
文=戸塚啓
By 戸塚啓