11月30日にトレーニングを行った久保建英(中央)らU-19日本代表の選手たち [写真]=川端暁彦
11月30日、U-19日本代表はアルゼンチンへと旅立つ直前のトレーニングを千葉県内で実施した。30時間のフライトを控えるだけに、しっかり体を動かしながらボールに触っての調整メニュー。練習自体は取り立てて珍しいメニューでもなかったが、集まった報道陣は数十名に達し、主要テレビ局も一つを除いて軒並み自社カメラを出して練習の様子を撮影した。東京オリンピック世代がアジアを制したことで一気に注目度も上がったという話では、もちろんない。15歳にして、U-19カテゴリーへ大幅飛び級となったFW久保建英(FC東京U-18)が耳目を集めているということである。
まずは基本的な情報を整理しておこう。2001年生まれの久保は「U-15」のカテゴリーに位置する選手である。今回の「U-19」代表チームは1997年に生まれた選手たちを中心とし、4年後には「U-23」、すなわち東京五輪の上限エイジとなる世代だ。このとき久保は「U-19」。こうして五輪に至った段階で下の世代の選手が入ってくるのは珍しい話ではない。過去には中田英寿(96年アトランタ五輪)、平山相太(04年アテネ五輪)、香川真司(08年北京五輪)といった選手たちが年齢の枠を飛び越えてメンバー入りしてきた。ただ、「U-19」の時点でとなると、さすがに前例がない。森本貴幸が16歳で「U-19」代表に入ったときを超えるカテゴリーの跳躍となる。
ただ、逆に考えれば、という話でもある。U-19代表の内山篤監督が言うように、「(年齢が)上がれば上がるほど(年齢間の)差は小さくなるもの」なのも確かだ。15歳と19歳の差と、19歳と23歳の差は同じ4歳差でもまるで違う。将来的に差が縮まっていくことを見越すなら、早めに経験させておく意味があるのではないか。そうした発想から、内山監督は以前から下の世代の選手たちを上の代表へと引き込んでいく構想は持っていた。実際、AFC U-19選手権にもGK若原智哉(京都サンガF.C.U-18)とFW中村駿太(柏レイソルU-18)を飛び級で招集。年齢間の垣根を破ることには以前から意欲的である。
今回の久保選出はAFC U-19選手権に出場していたFW岸本武流(セレッソ大阪U-18)が負傷、岩崎悠人(京都橘高校)がコンディション不良でそれぞれ事前に辞退するという中で前線が駒不足に陥っていたという背景もある。また、次にU-19代表が招集されるのは3月のため、「呼ぶならこのタイミングしかなかった」(内山監督)という日程的な都合もあった。3月に予定されているのはチームで試合に出られていない選手たちを中心としたショートキャンプと、ベストメンバーをそろえての海外遠征の2本。テストの場ではないので、やはり「試すとしたら、ここしかない」のである。
久保について内山監督は「やれると思ったから呼んだ」と語りつつ、同時に「マイナスの部分から考えていたらこの発想はない」とも言う。戦力として言えば、たとえば守備の要素を考えると、現時点でU-19年代を戦うにはかなり厳しい。ただ、「オンに関していいモノがあるのは分かっているし、オフも周りを観ながら(ボールを)受けるところはやれている」(内山監督)選手なのも確か。将来も見据えながら、まずやらせてみようという発想だ。
この施策、久保本人が上の世代へ混じることへ消極的な場合、あるいは飛び級したことに浮かれているようでは愚策になりかねないのだが、その心配はなさそうだ。「日本のトップレベルの選手たちの中に、しかも年上の相手に混ざってやるのは、結構自分にとってもチャンス。成長できるきっかけだと思っている」と前向きに語りつつ、同時に「今は(U-19年代と)同じレベルに立てていないので、努力していきたい」とも率直に言う。その上で「やる前からやれるかやれないかを話すのは結構難しい。やってみないと分からないですけど、どんどんチャレンジしていきたい」と言い切った。その意気や良し、である。
現時点で来年5月のU-20ワールドカップに久保が戦力として間に合うかは、率直に言って未知数。ただ、より先も見据えながら年齢間の垣根を破っていく試み自体に意義はあるし、久保個人にとどまらない波及効果は期待できる。U-16代表の他選手にも、突き上げを感じるU-19世代の選手にも強烈な刺激となることは間違いないし、来年のU-20ワールドカップにはU-16世代の別の選手が名を連ねていたなんてストーリーも十分にありそうだ。
文=川端暁彦
By 川端暁彦