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【コラム】“神経戦”を前に大きな賭けに出たハリル…本田の招集を決断した理由とは?

2017.03.16

ハリルホジッチ監督は大きな賭けに出た [写真]=JFA

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が、大きな賭けに出た。

 3月23日と28日の2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選に臨む日本代表のメンバーに、本田圭佑が選ばれた。

 16日のメンバー発表会見で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「質問や疑問があるかもしれないが」と前置きしたうえで、「試合に出ていなくても、いまの日本代表は本田を必要としている」と話した。「この代表は圭佑を必要としている。彼の存在が我々には必要だ」と強調した。

 23日のUAE(アラブ首長国連邦)戦と、28日のタイ戦のどちらが難しいか。ハリルホジッチ監督は「とくに1試合目が簡単ではない」と説明する。

 UAEは2次予選からアブダビでホームゲームを戦ってきたが、日本戦はアル・アインへ会場を移した。4万人以上のキャパシティを持つスタジアムではなく、2万人ほどのサイズの空間で日本を迎え撃つ。ハリルホジッチ監督はスタジアムの変更にも触れ、「より大きなプレッシャーを感じながらの試合になる」と警戒する。「そこでは経験が重要だ」と語り、本田を招集する理由とした。

 指揮官が「リベンジの機会」と語気を強めるUAE戦は、昨年11月以来の公式戦だ。およそ4カ月ぶりの試合であることに加え、選手全員が顔を揃えるのはおそらく3日前になる。新しい選手を起用したり、これまでと違う戦術にトライしたりするのは物理的に難しい。すでに構築されているオートマティズムを最大限に生かすことが現実的だ。それもまた、本田の招集を後押しした。

 経験の少ない選手のメンタリティへの不安も、ミラン所属の30歳が選ばれた理由である。

 昨年10月に行なわれたアウェイのオーストラリア戦で、ハリルホジッチ監督は選手交代について問われてこう答えている。

「経験がない選手ではプレッシャーに負けてしまうかもしれない不安があった」

 その後も囲み取材などでも、同じ趣旨の発言をしている。「通常なら選ばない状況」だが、「じゃあ、誰を使うのか」と考えたときに、本田を外すことはできなかったのというが指揮官の本音だろう。

 もちろん、スタメンを確約したわけではない。「彼の存在が我々には重要だが、試合に出るのか、出るなら何分出るのかはまた別の問題だ」と、ハリルホジッチ監督は付け加えている。

 国際試合は神経戦だ。どのようなスタメンを組むのかはもちろん、ベンチに控えさせた選手をいつ、どこで、どのように起用するのかという駆け引きが、両チームの監督の間で繰り広げられる。

 本田の実績は、UAEサイドも良く知るところだ。昨年9月のホームゲームで、日本のゴールを決めたのも彼である。たとえベンチスタートとなっても、本田の存在は相手を悩ませることができる。それもまた、ハリルホジッチ監督が招集に踏み切った理由に含まれそうだ。

 いずれにせよ、今回は本田の取り扱いが難しい。

 彼を使って勝利を逃せば、コンディションの悪い選手をなぜ使ったのか、という批判が噴出する。チーム内の空気も、多少なりとも濁るだろう。

 使わないで勝利を逃したら、そもそもなぜ招集したのかとの根本的な疑問が生じる。「クラブでプレーしてない選手は呼ばない」という本来の基準を棚上げしたハリルホジッチ監督の決断は、だから、大きな賭けなのである。

文=戸塚啓

By 戸塚啓

スポーツライター。法政大学法学部法律学科卒。サッカー専門誌記者を経て、フリーランスとして20年以上にわたってスポーツ現場を取材。日本代表の国際Aマッチは、2000年3月からほぼ全試合を現地取材。

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