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【コラム】長谷部離脱の“救世主”候補、今野泰幸が2年ぶりの日本代表にもたらす価値

2017.03.22

2年ぶりの代表復帰で長谷部の代役に期待がかかる今野泰幸。練習では笑顔を見せた [写真]=元川悦子

 2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選の今後の行方を大きく左右する23日のアウェイ・UAE戦(アル・アイン)がいよいよ2日後に迫った。キャプテンの長谷部誠(フランクフルト)が離脱し、総勢24人となった日本代表は21日夕方、同国強豪アル・アインのホームスタジアムで現地入り後、初の非公開練習を行った。この時期のUAEにしては珍しく、時折、雨が降る涼しい気候の中、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はUAE対策を1時間半にわたって入念に刷り込んだ。

 今回の大一番のポイントはやはり長谷部の代役をどうするか。指揮官が予選を通じてレギュラー起用している山口蛍(セレッソ大阪)のパートナーに誰を選択するかが大いに注目されるところだ。ここまで2日間別メニューを強いられていた高萩洋次郎(FC東京)も全体練習に合流したが、昨年9月のホームゲームでの敗戦、敵地での難しさを考えると、やはり守備重視で入らなければならない。となると、やはり国際Aマッチ87試合出場を誇る34歳のベテラン・今野泰幸ガンバ大阪)を抜擢する可能性が極めて高そうだ。

 今野がハリルジャパンに参戦するのは、同監督体制初陣だった2015年3月のチュニジア(大分)・ウズベキスタン(東京)2連戦以来。同年5月の代表候補合宿(千葉)にも呼ばれたが、それを最後にチームから離れる形になっていた。本人は「懐かしさという感じはない。もう初代表みたいな感じ。もう呼ばれることはないと思った」と神妙な面持ちでコメントしていた。

 それでもハリルホジッチ監督の考え方についてはポジティブに捉えている様子だった。代表に呼ばれていた2年前、彼は「ザッケローニさんを経験して世界で勝てなくて、アギーレさんでもアジアで勝てなくて『どうすればいいんだ』ってホントに路頭に迷う状況だった。そこにハリルさんが来て『こうだ』っていう道を示してくれた感じがしたし、それしか光がないかなっていうくらいに思った」と発言。タテに速いサッカーを目指すボスニア人指揮官の方向性に賛同していた。その後、代表から遠ざかりながらもチームの動向は注視し続けていたというから、日の丸への思いは薄れていなかったに違いない。

 実際、今野のボール奪取力、前への推進力は、ハリルホジッチ監督の目指すものと合致する。だからこそ、ボスニア人指揮官は日本代表の命運を分けるこの重大局面に彼を再招集したのだろう。2年間のブランクゆえに「今の自分が代表の力になれるか分からない」と彼が半信半疑でいるようだが、イザというところでは凄まじい爆発力を発揮するのがこの男。それは紛れもない事実である。

 UAEという国が今野にとってゲンのいい場所であることも追い風だ。彼は2003年ワールドユース(現U-20ワールドカップ)でキャプテンとしてチームを8強へと導き、翌2004年のアテネ五輪アジア最終予選でもこの地で大いに奮闘した。とりわけ後者は、U-23日本代表全体が集団下痢に見舞われる中、彼は「何ともない」とケロっとした様子で戦っていた。そのタフさには誰もが驚かされたものだ。そういった過去があるから、大舞台でいきなり先発で送り出されたとしても、何事もなかったように戦えるはず。長谷部という大黒柱が離脱した今、そういうタフな人間はチームに必要不可欠なのだ。

 今回の今野に託されるのは、相手キーマンのオマル・アブドゥラフマン(10番)を確実につぶすこと。それが第一だ。「彼はものすごく技術が高いですし、アイディアも豊富。それを警戒して一発で行かないように。あとはファウルをしないようにってことが大事」とベテランボランチは具体的な守備のイメージを思い描いている。山口と今野の並びがどうなるかは不透明なところもあるが、相手エースに仕事をさせることだけは絶対に許されない。

 最終予選初戦で吉田麻也(サウサンプトン)が不可解なファウルを取られてアハメド・ハリル(11番)に直接FKを決められたことも念頭に置き、不要なファウルを与えることもご法度だ。2014年ブラジル・ワールドカップのコロンビア戦(クイアバ)で一発のタックルからPKを与えた苦い経験のある今野なら、ワンプレーの重みは誰よりもよく分かっているに違いない。

 守備の仕事に加え、今季のG大阪で早くも3ゴールを奪っている得点力を前面に出してくれれば申し分ない。「高い位置でボールを奪うことができればチャンスに繋げられると思うし、攻撃も守備も両方絡められると思うので、積極的にやりたい」と本人も攻めの姿勢を色濃く表現していくつもりだ。アギーレ前監督も今野をインサイドハーフで使っていたが、それだけの卓越したした攻撃センスとゴールへの推進力、勇敢さを彼は持ち合わせている。セットプレー時の決定力も非常に高い。そんな長所を全て出し切ってくれれば、日本代表の救世主になることも十分可能だろう。

 長い時を経て、円熟味を増した日本屈指のボランチが躍動すれば、日本は勝ち点3を持って帰ることができるはずだ。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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