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【コラム】世代交代を感じさせる久保裕也、5年がかりの代表初得点に見えた成長と自信

2017.03.24

1ゴール1アシストでUAE戦勝利に貢献した久保裕也 [写真]=Anadolu Agency/Getty Images

「結果が全てだと思うし、個人でもチームでも結果を残せばもちろん(日本代表に)呼ばれ続けると思います。自分はこのチームに少しは慣れてきましたけど、まだ何も残していない。とにかく『貢献した』と思えるような結果を残したいですね」

 2018年ロシア・ワールドカップ出場権獲得の行方を大きく左右する23日のアジア最終予選第6戦・UAE戦(アル・アイン)を翌日に控え、23歳の新星・久保裕也(ヘント)は目をぎらつかせていた。昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)で本田圭佑(ミラン)の定位置・2列目右サイドでスタメンに抜擢された男は、1月の移籍期間に赴いた新天地・ヘント(ベルギー1部)で7戦5発とゴールラッシュを見せている。その頭抜けた実績を引っ提げ、今回も満を持して代表に合流。UAE戦では4-3-3の右FWで2戦連続先発出場を果たした。

「特別な感じはあまりなく、スムーズに入れました」と淡々と言う久保は、序盤から鋭い戦術眼で相手を見極めながらプレーした。前線からのアグレッシブな守備に加え、対面に位置するアブドゥルアジズ・サンクール(14番)の背後を狙う動きの両方を求められたことから、凄まじいアップダウンを繰り返さなければならなかった。それでも「僕は何回でも動き直して1本でも来ればそれでいいかなと思う」と献身的姿勢を失うことなく、懸命にピッチを走り続けた。

 こうした地道な努力が前半14分、いち早く結果となって現れる。香川真司(ドルトムント)のタテパスに酒井宏樹(マルセイユ)が反応した瞬間、久保はサンクールの内側のスペースに侵入。角度のないところでボールをフリーで受け、GKハリド・エイサの位置をしっかり見て右足を一閃。恐ろしいほどの冷静さと老獪さを示して、喉から手が出るほどほしかった先制点をモノにした。

 久保にとっては2012年2月に日本代表初招集されてから5年がかりで奪った代表初ゴール。「僕はこれまで目の前の練習や日々の練習に取り組んでいただけ。これだけの時間が必要だったと思う」と言うように、努力に努力を重ねた末に辿り着いた1点だった。

「中に誰もいなかったですし、意外に自分がフリーだったので、冷静になって打てたと思います。初めてチームに貢献できたかなという感じ」と本人は得点シーンについて謙虚な物言いをしてみせたが、それほど簡単なシュートではなかったはず。ベルギーで得点を量産しているからこそ、今はゴールへの道筋が明確に見えるのだろう。起点となるパスを出した香川も「あの先制点が何よりチームに勢いと自信を与えてくれた」と絶賛した通り、この一撃が敵地で日本代表にのしかかる重圧を跳ねのけてくれたのは間違いない。

 その後、ビハインドを背負ったUAEが攻めを加速。日本は司令塔のオマル・アブドゥルラフマン(21番)やFWアリ・アハメド・マブフート(7番)、中途半端な位置を取るイスマイール・アルハマディ(15番)の動きに手を焼き、一度はマブフートに絶体絶命のピンチを作られた。だが、守護神・川島永嗣(メス)のスーパーセーブでしのぎ、事なきを得る。久保も惜しみないハードワークを続け、果敢に相手ゴールへのアタックを続ける。そのアグレッシブさが待望の2点目を呼び込んだ。

 後半開始早々の51分、吉田麻也(サウサンプトン)のロングフィードを大迫勇也(ケルン)が頭で競って落としたボールを受けた背番号14は右サイドでドリブルを入れながら逆サイドに鋭いクロスを蹴った。これに呼応したのが2年ぶりの代表復帰となった今野泰幸(ガンバ大阪)。「久保がスピード、コース、場所、全てにピンポイントで絶妙なところにボールを出してくれた。僕も冷静に胸トラップした後、焦りましたけど、何とか入った」と重要な1点を決めた34歳のベテランは11歳年下のアタッカーに深く感謝した。その久保は「今野さんが見えたんで、感覚で出せた」と語っていたが、それもゴールへの道筋が見通せている証拠。その領域に達するほどの急成長を彼はヘントで遂げたのだ。

 結局、日本は2-0で因縁の相手を撃破。久保の1得点1アシストという結果だけでも絶大なインパクトだったが、自陣から相手ゴール前までスプリントを繰り返し、個の能力で相手DFを打開し、ゴールまで持って行けるオールラウンドの能力はやはり特筆に値する。この日前線に陣取った大迫、原口を含めた3枚全員が個人でフィニッシュまで持ち込める技術、フィジカル、力強さを兼ね備えているからこそ、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がいきなり採用した4-3-3の新布陣もはまったのだ。久保というピースがいなければ、敵地でUAEにリベンジを果たすことはできなかったはず。今や彼は本田圭佑を凌駕し、ハリルジャパンに不可欠な存在になったと言っても過言ではないだろう。

「本田さんだけじゃなく、僕らの世代がもっと(上を)脅かすというか、そういう姿勢でやらないとダメだと思います。本田さんと同じポジションなので余計にそうだと思いますし。これで主力の座を奪ったという思いも全くない。まだ1試合結果を残しただけなんで、続けないといけない。危機感を持ってやりたいですね」と本人のスタンスは今後も変わることはない。スイス・ヤングボーイズ時代、家の壁にドイツ語を貼って猛勉強したように、全てをサッカーに捧げるストイックを持ち合わせた若き点取屋の覚醒が、今後の日本代表の大きな力になるだろう。

文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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