ベスト16で姿を消すこととなったU-20日本代表 [写真]=佐藤博之
「予選を観た感じだと本大会はまるで期待できないと思っていた。でも素晴らしい戦いぶりだったね」
FIFA U-20ワールドカップ韓国2017のラウンド16にて閉幕を迎えたU-20日本代表について、とあるサッカー関係者から寄せられたメッセージだ。こうした印象を持っていた人は多かったのかもしれない。「レベルの落ちるアジア予選でこのくらいのパフォーマンスだったのだから、世界大会では酷いことになる」。そういう予想の立て方をするなら、妥当な見立てだろう。ただ、サッカーとは、そしてスポーツとはそう単純なものでもない。
1995年、日本が初めてアジア予選を突破してU-20の世界大会に出場したときから、その傾向はあったのではないか。「負けられない」というプレッシャーの中で戦ったアジア予選に対し、世界舞台で若い選手たちはチャレンジャーのマインドをもって躍動する。萎縮していた予選というステージから、解き放たれた世界舞台という流れである。中村俊輔、柳沢敦らを擁して8強入りした1997年大会、小野伸二、遠藤保仁らを擁して準優勝した1999年大会もそうだろう。どちらも予選の内容は振るわず、厳しい批判も受けている。半面、99年大会の準優勝を受けて臨んだ2001年大会は、世界大会まで「負けられない」という空気になってしまって苦杯をなめ、突破の可能性が消えたグループステージ第3戦だけ圧倒的なパフォーマンスを見せていたのは示唆に富む光景だった。
直近の出場である10年前の2007年大会も、アジア予選の内容から悲観的な予想をする向きも少なくなかったが、フタを開けてみれば伸び伸びとしたサッカーを披露しての躍進を遂げている。求められるサッカーの質の違いやアジア予選独特の環境面の悪さが足を引っ張る部分もあるが、何よりも選手たちの精神面が守りに入る側なのか、「当たって砕けろ」と思えるチャレンジャー側なのかの違いが、ピッチ上のパフォーマンスに現われることになる。
MF堂安律(ガンバ大阪)もそうした空気感の違いに敏感で、「予選のときとは(雰囲気が)違う」と重ね重ね言及していた。内山篤監督もまた、「ああいう硬直した感じにはならないよ」と言っていたし、大会に入ってからも「怖がらないでいい」ということを重ねて強調。指揮官は意図して「アジア予選とは違う空気」、チャレンジャーの空気を漂わせることに努めていた節もある。ラウンド16においても、序盤の劣勢に際してピッチ脇から盛んに出した声は「自信を持て」「大丈夫」ということだったそうだから、やはり挑戦する空気を指揮官が重んじていたのは間違いない。「腰が引けたら確実にやられるから、それを取り除いてあげたい」というのは重ねて強調していたことでもある。
内山監督は「勝者のメンタリティーと冷静な頭」という言葉でその境地を説明していたが、勝てるチームというのは気持ちが守りに入る弱気のチームではなく、なおかつ無謀な突撃を繰り返すような状態でもない状態にあるということだろう。血気盛んな若い選手たちにとって言うほど簡単なことではなく、どうしても「俺が」という視野狭窄の突撃マインドに陥りがちな選手たちを、何度も諫めてきた2年半でもあり、その成果も感じられる試合内容だった。
恐れることなく戦えば、日本のU-20年代はそれなりに戦える。同時に指揮官が言っていたのは、「ビビって負けたのでは、課題も何も見えなくなってしまう」ということだった。今大会はその愚を犯すことなく、伝統国に対しても果敢に挑んでいったからこそ、日本の地力が決して低くないことを確認できたし、同時に選手個々がトップレベルとの差をあらためて認識する場としても機能することとなった。
たとえばFW岩崎悠人(京都サンガF.C.)がウルグアイと戦いながら強烈に感じたのは「まずベースのパススピードが違う」ということだったと言い、MF原輝綺(アルビレックス新潟)やDF板倉滉(川崎フロンターレ)が強調したのは「まず足が速い」「ボランチの選手が速い」という単純な足の速さの差である。特に日本では遅くていいと観られがちなポジションに、シンプルな速さでこちらを置き去りにできる選手がいる怖さを思い知らされていたのは印象的だった。
速い選手が速いパスを日常的に使う中での精度があり、だからこそ遅いパスも効いてくる。そしてそのスピード感に対抗するために戦術的な練度も磨かれていくし、肉体的な強度も求められる。そういう好循環の中で育ってきたような個の強さが、この大会の列強にはそれぞれある。そうした「差」を選手たちはもちろん、視察に訪れた多くの指導者たちが日本代表選手という物差しとの比較を通じて体感できたことは、日本サッカーにとって小さからぬ財産となっていくことだろう。
願わくは、こうした機会が10年に1度ではなく、2年に1度であってくれればと思う。U-20ワールドカップという場に連続して出場し、その成果を国内の育成に反映していくこと。そのサイクルをしっかり続けていく価値を再確認できたことこそ、この大会で得た最大の収穫だったかもしれない。
文=川端暁彦
By 川端暁彦