日本代表として通算3試合目の出場を果たした昌子源 [写真]=Getty Images
「鹿島でのプレーをいつも見てくれている人は、今日の俺がいつもと違うのかどうなのかわかるんでしょうけど。いつも通りにやろうとした結果が、今日のプレー。自分としては鹿島の時とは違ったし、“もっとできた”とも思うけど…」
7日に行われたキリンチャレンジカップ 2017、先発メンバーに名を連ねたDF昌子源。鹿島アントラーズと同じ背番号「3」を纏い、サムライブルーの一員としてフル出場を果たした。日本代表では自身3度目のピッチ。「緊張はしていなかったけど」と言いつつ、「試合の入りは自分でも硬いと思った」と振り返る。「俺のマークミスです」という失点、そして1-1のドローという結果。無失点での勝利を求めていた24歳にとって、クラブで積み上げてきた実績と自信を胸に臨んだ90分は、悔しさの残るものとなった。
「敵が近くに感じたりしたんですよね。Jリーグでは敵が遠いから落ち着いてパスを出すところを、近いと思ってしまってパスを出してしまったりとか。あがっていたのかな。徐々に落ち着いてできてきましたけど」
満員の東京スタジアムで、昌子は幾ばくかの違和感とともにプレーを続けていた。突破を図るアタッカーを“自らの間合い”に引き込み、駆け引きと対人の強さでボールを狩り取っていくセンターバックが、相手との距離感を見誤る――。本人は否定していたが、視野の確保や落ち着きがいつもの水準になかったという意味で、やはり「緊張」がそこにあったと言えるだろう。
それでも昌子は「1対1になれば、自分自身がいつもやっていることを出せばいいと思っていた」と言うように、22分に見せたペナルティーエリア内でのスライディング・シュートブロックなど、自らの持ち味を発揮しながら時計の針を進めていった。センターバックの相棒・吉田麻也(サウサンプトン)との連係も時間を追うごとに向上していく。前半はスコアレス。満足のいく出来ではなくとも、最低限の「無失点」でハーフタイムを迎えた。
だが、後半開始早々に落とし穴が待っていた。48分、シリアの右CK。ショートコーナーでプレーを再開され、ゴール前のマークにズレが生じた。次の瞬間、飛んできたクロス。昌子はヘディングでのクリアを試みて跳躍したが、ボールは頭上を越えていった。着地した時には、ゴールネットが揺れていた。
「19番は俺のマークだったから。背中には(存在を)感じていたし、届くと思った。でも、それが結果。そこを決めてくるのが高いレベルだと思います」
「俺のマークミスです」と昌子が振り返ったワンプレーで先制を許した日本代表。10分後、今野泰幸(ガンバ大阪)のゴールで同点に追い付いたが、逆転には至らなかった。ホームで1-1。鹿島で常々「どんな内容でも、勝てばいい」と話している背番号3は、求める結果を得られなかった90分を終えて「しっかりと反省しないといけない」と悔しさを滲ませた。
だが、昌子の視線は前を向いていた。「くよくよしていても先がない。巻き戻しできるならしたいけど、できないものは仕方ないし。失点に絡んだことがないセンターバックはいないと思うし、こういう経験ができるのも試合に出たからこそ。痛い思いをして強くなっていくのだと思うので」。そして、こうも言った。「Jリーグで百何試合とやってきて感じたことだけど、(失点を)引きずったら絶対にやられる。そういう経験をしてきた。周りから何を言われようが、それ(引きずらないこと)を自分自身でできるのは成長だと思う」。
2014年にクラブでレギュラーを掴んだ昌子。今でこそJリーグを代表するセンターバックの一人だが、「鹿島で出始めの頃もボロボロに言われたりとかもした」というように、そして本人が「一段上がって一段戻ったり、そういうサッカー人生だから」と振り返っているように、順風満帆な道のりかと言えば、そういうわけではない。「周りの目を気にしたりとか、なんでもかんでもネガティブに捉えることは終わったよ」という言葉は、苦しみの日々が存在したことを示すものでもある。
2015年、鹿島の背番号3を纏い始めた当初、どこか不安定で“軽い”プレーが批判を浴びることもあった。チームの結果が伴わず、責任を抱えた時もあった。そして苦しみの末、昨季のJ1ベストイレブンという実績が示すとおりの実力を備えても、代表ではなかなか出場機会に恵まれずにいた。2015年3月31日のウズベキスタン代表戦が国際Aマッチデビュー戦だったが、2年以上が経った今、通算キャップ数はようやく「3」になったに過ぎない。
そんな道のりを経て今があるからこそ、昌子が下を向くことはない。森重真人(FC東京)が不在の一戦、活躍すれば一気に定位置獲得が見えてくる――。大きな期待をかけられた中、すんなりと物事は運ばなかった。それでも昌子は「そんな中でも応援してくれる人がいる。活躍や堂々としている姿を見せられたらと思う」と奮起を誓う。
2015年、2016年に刻んだキャップ数はそれぞれ「1」、そして今年もこれで「1」となった。昌子の次なるステップは「1」を「2」にすること。「これから成長していくうえで大きな一歩だったと思う」というシリア代表戦を経て、“二歩目”を踏み出すことができるだろうか。「切り替えて、次頑張ります」。その視線は6日後、テヘランで臨むイラク代表との一戦に向けられていた。
取材・文=内藤悠史
By 内藤悠史