練習に復帰した山口蛍。滅メニューで調整を行った [写真]=元川悦子
2018 FIFAワールドカップロシア アジア最終予選・イラク戦(13日=イラン・テヘラン)に向け、9日から現地入りしている日本代表。11日夕方にはテヘラン郊外のコッズ・スタジアムで現地3回目のトレーニングを行った。
この日も冒頭15分のみのメディア公開だったが、前日まで別メニューだった長友佑都(インテル)は全体練習に合流。7日のシリア戦(東京)以降、3日連続で練習を休んでいた山口蛍(セレッソ大阪)も復帰し、早川直樹トレーナーと強度の高いランニングを行った。
「まあ順調には来ているかなと思う」と本人が言うように、右下肢痛自体はかなり癒えた模様だが、問題は現地適応だろう。この日も17時時点の気温は36.8度、湿度10パーセントという猛暑だけに、この気象条件にいきなりフィットするのは難しい。他のメンバーはトレーニングを3日消化して、暑さにもかなり慣れたようだが、山口はやや厳しいかもしれない。
「暑さは大丈夫ですけど、最初はちょっと乾燥してる感じで結構きつさがあった。(標高も高いので)息が上がるところも多少なりともあると思います」と彼自身も難しさを覚えている様子。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も彼の起用をどうするか悩みどころだ。
とはいえ、長谷部誠(フランクフルト)が離脱している現在、本職ボランチの山口を温存できるほどの戦力的余裕がチームにはない。今回のボランチ要員は今野泰幸、井手口陽介(ともにガンバ大阪)、遠藤航(浦和レッズ)と山口だが、4-3-3のアンカーをこなせるとしたら山口と井手口くらい。ダブルボランチを採用するなら今野と井手口のG大阪コンビを並べて、その前にトップ下を置けばある程度は計算できるだろうが、指揮官はイラク戦を視野に入れてシリア戦で4-3-3をテストしたはず。そのシナリオ通りに行くならば、どうしても山口の存在が必要になる。ハリルホジッチ監督は戦術を変えるのか否かという難しい判断を迫られそうだ。
その決断を下すに当たって、やはり山口の状態は重要ポイントになってくる。右足首痛を抱えて千葉県内での欧州組合宿を2日間欠席した浅野拓磨(シュトゥットガルト)が5日から復帰して7日のシリア戦に出場した例もあるだけに、山口もピッチに立てないことはないはず。「僕だけじゃないけど、多少の痛みを抱えてる選手は他にもいる。あとは監督の判断だと思うけど、できるだけの準備をして臨みます」と悲壮な決意を口にした。
当たりと球際が強く、屈強なフィジカルを誇るイラクのような相手には、接近戦に強いタイプの選手が絶対に必要だ。実際、昨年10月のホームゲーム(埼玉)でもボランチで先発した柏木陽介(浦和)が球際で勝てず、途中から出場した山口が中盤を立て直した。加えて、その試合では1-1で迎えた後半ロスタイムに左CKからの劇的決勝弾を叩き込み、チームを絶体絶命の窮地から救っている。「それについてはあまり何も考えていない」と本人はあくまで謙虚な物言いを崩さなかったが、あの1点がなければハリルホジッチ監督は解任されていた可能性が高かった。自身のクビを救ってくれたダイナモへの信頼はこれを機に一気に深まり、指揮官はその後の最終予選全試合で山口を使い続けてきた。
しかし、長谷部が離脱した3月の2連戦(UAE・タイ)でのパフォーマンスはあまりいいとは言えなかった。「ハセさんと今野さんがケガをして『本職ボランチは自分しかいない』と言われたことが重圧になった」と山口は悔しい胸の内を吐露した。その失敗を糧に自然体を心がけた今回の2連戦だったが、シリア戦で予期せぬケガに見舞われ、再び苦境に直面することになった。
それでも、もともとタフなメンタリティを持つ彼は逆境でより勝負強さを発揮する選手だ。前回イラク戦の決勝ゴールはまさにその象徴。今回もケガを抱えながらも持てる能力の全て出し切ってくれるに違いない。
「(イラクは)すごくアグレッシブに来ると思う。相手のホームとまでは言わないですけど、やっぱり相手の方がグラウンドとか環境含めて有利。そうやって強く来る相手に対し、自分たちも負けないくらい強くいかないと、簡単にやられてしまう。僕が出る機会があれば、球際とか当たりの部分はより求められてくるし、そういうプレーが多くなるかなと思います。今回も中盤3枚でやるとしたら、シリアのやり方を参考にできる部分がある。この前の反省を生かしながら、自分たちでしっかり修正してやりたいです」
13日に行われる最終予選終盤戦の行方を左右する大一番。日本のボランチの軸を担う男のケガはどこまで回復するのか。そして、ハリルホジッチ監督は中盤を山口に託すのか。その判断が待たれる。
文=元川悦子
By 元川悦子