シーズン15得点を目標に掲げる武藤嘉紀
2015年夏に鳴り物入りでドイツ・ブンデスリーガ1部・マインツに移籍し、初年度前半戦で7ゴールという大ブレイクを果たした武藤嘉紀。しかし、2016年2月のハノーファー戦で右ひざ外側側副じん帯を部分断裂し、後半戦を棒に振ったことで、順風満々だったキャリアに微妙な狂いが生じ始めた。
長く苦しいリハビリを経て、迎えた昨シーズンは開幕戦のボルシアMG戦で途中出場。いきなりゴールを挙げ、完全復活の予感を漂わせた。だが、9月のUEFAヨーロッパリーグ(EL)FKガバラ戦で再び右足を負傷。2度目の長期離脱を余儀なくされる。本人も大きなショックを受けたに違いない。
2017年2月に2度目の復帰を果たした時、マインツは下位に低迷。ベストパートナーだったユヌス・マリ(ヴォルフスブルク)も移籍し、武藤はジョン・コルドバ(ケルン)、ボージャン・クルキッチ(ストーク)らと新たなポジション争いを強いられた。試合に出たり出なかったりという不安定な立場の中、彼は残り2戦となった5月13日のフランクフルト戦で値千金の決勝弾を叩き出し、マインツ残留の原動力となった。
「残留争いを経験してメンタル的に強くなったと思います。ああいう雰囲気の悪い時はチームメートも『お前のせいで負けた』とか『お前が決めてれば勝てただろう』とか普通に言ってきましたし、みんな人のせいにするようなところがあった。それでも『自分がゴールを決めてやろう』『自分がチームを救ってやろう』ってずっと思い続けられた。メンタルが成長したのかなと思います
それに、海外では得点が全てだということを改めて痛感しました。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も『FWである以上、ゴールだけを狙え』『ストライカーとして貪欲になれ』っていつも言ってるけど、ゴール数が自分の評価につながる。自分の価値を高めるためにも、ポジションを確保するためにも、点を取るのが一番早い。そう思います」とドイツ3シーズン目に向けて6月30日に日本を出発する際、武藤はしみじみと語っていた。
新シーズンのマインツはマルティン・シュミット監督が退き、サンドロ・シュワルツ新監督が就任。コルドバもボージャンもチームを離れ、逆にケナン・コドロがオサスナから加入するなど、FWの陣容も様変わりしそうだ。こうした中、背番号9がFWの大黒柱として君臨できるか否か。それはプレシーズンからのアピールに懸かっている。本人も「スタートダッシュ」の重要性を口にする。
「ホントに今季はゼロからのスタートになる。監督も代わったし、今まで活躍してたとかは関係ないと思う。自分がスタートからいいコンディションだってことを見せないといけない。下(U-23)から上がってきた選手に監督のことを聞くと、ホントに最高にいい監督だと。人間性もサッカーに対する資質も素晴らしいと聞いているので楽しみですね」と本人は前向きに語る。
勝負の3年目に武藤が掲げるテーマは、ズバリ「シーズン15点以上」。昨シーズン7得点の大迫勇也(ケルン)が言う「2桁」をさらに上回る大目標である。
「15点っていうのは、オカちゃん(岡崎慎司/レスター)が以前(13-14シーズン)取ってますよね。それを越したいって気持ちがある。しっかり試合に出続けて、チャンスをモノにできれば、決して不可能な数字じゃないってことを1年目、2年目とやって思ったので。それを達成するためにケガをしないことはもちろんのこと、いい意味でエゴイストにならないといけない。PKを譲って、それで1点を取れないのはホントにもったいない。チームメートが『ホント、こいつは変わったな』『どうしたんだ』と思うくらいの(メンタル的な)強さも大事かなと思います」と彼は周囲が驚くほどのエゴをむき出しにして、得点により強くこだわつもりだ。
岡崎越えを果たすためには、本人も言うようにケガなしで1シーズンを戦い抜く強靭な肉体を作ることが肝要だ。昨年末から個人トレーナーをつけ、このシーズンオフもパワーアップに努めてきたというから、成果をピッチ上で発揮したいところである。
「体のバランスだったり、足の力だったり、サッカーに対する体の使い方だったり、細かいところの考え方が変わった。二人三脚で意見を出し合いながら毎日ベストを模索していますけど、結果につながるようにしていきたい」と肉体改造を継続していく構えだ。
このシーズンの後には、2018 FIFAワールドカップロシア大会が控えている。昨年9月のUAE代表(埼玉)、タイ代表(バンコク)の2連戦以降、日本代表から離れている点取り屋にとって、代表復帰は目下の悲願に他ならない。
「ワールドカップは幼い頃からの夢ですし、そこに賭ける思いは強い。自分はケガでどん底を味わってるんで、苦労が報われるように大舞台で活躍するしかない。自分の熱い思いを見せたいですね」と語気を強める武藤嘉紀。潜在能力の高い男にはそろそろ持てる力の全てを出し切ってもらうしかない。今シーズンこそ未完の大器の大ブレイクを見せてほしいものだ。
文=元川悦子
By 元川悦子