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【インタビュー】急速な進化を遂げる井手口陽介……いざ「想像を超えた」戦いへ

2017.08.29

 井手口陽介が過ごしたこの1年は、まさに激動だった。

 プライベートでは結婚を発表し、長女が誕生。サッカーではリオデジャネイロ・オリンピックで世界を体感し、2016シーズンの後半はガンバ大阪で完全にレギュラーの座をつかみ取った。ルヴァンカップの『ニューヒーロー賞』と『Jリーグベストヤングプレーヤー賞』に輝くと、日本代表にも定着。6月のイラク戦では初先発を飾り、最終予選ならではの緊張とプレッシャーも味わっている。

 誰よりも早くスターダムを駆け上がっているが、その要因はいったいどこにあるのだろうか。このインタビューで秘密を探ろうと試みたが、明確な答えはなく、そこにあったのは「21歳の飾らない素顔」だった。

井手口陽介

インタビュー・文=山本剛央
取材協力・写真=ナイキジャパン

■ブラジル戦で痛感した“世界との差”

──結婚と長女誕生を発表したのが2016年6月19日でした。父親となって1年以上が経ちましたが、意識の変化はありますか?
子どもと接していると、サッカーのことを忘れさせてくれるというか。普通の人、普通の父親になれます(笑)。と同時に、「より一層子どものためにも頑張らないと」っていう気持ちにもなる。責任感というか。そういう意味で、少し意識は変わっているのかもしれません。

──昨年は「オムツを代えるのは無理!」と言っていましたが、できるようになりましたか?
今でも無理です(笑)。そこは奥さんに任せています。自分は一緒に遊んだりしていますね。

──結婚して長女が誕生してから、リオデジャネイロ・オリンピック出場、ルヴァンカップの『ニューヒーロー賞』と『Jリーグベストヤングプレーヤー賞』をダブル受賞。そして日本代表デビューと駆け足で階段を上っています。家族を持ったことが井手口選手の活躍を後押ししている面はありますか?
私生活では子どもと奥さんと一緒にいてリラックスしています。オフは1日中、家にいることはなく、大体家族と遊びに出掛けていることが多い。それがリラックスになっていて、心が落ち着いているのかなと思います。ただ、それがサッカーにどこまで関係しているのか、自分では分かりません(笑)。

──では、「意識の変化」という点で、大きなターニングポイントになった出来事はありますか?
やっぱりプロ初ゴールは大きかったですね(2016年9月17日のJ1リーグ名古屋グランパス戦)。一つ取れてから気が楽になり、「どんどんシュートを打っていこう」という意識になりました。攻撃面でも遠慮することなくプレーできるようになりましたね。

──自身初の世界大会、リオデジャネイロ・オリンピックに関しては?
そこまで……ですね。むしろ大会前にブラジル代表と親善試合をしましたが、そっちのほうが印象に残っています。ブラジルの選手はみんな「止めて・蹴る」の基本技術が高くて、ボールを全く奪えませんでしたから。スピードも全然違う。ネイマールなんて、かなり余裕を持ってプレーしていて、世界との差を痛感しました。

──その後、2016年11月に日本代表に初選出され、2017年6月にはシリア戦で代表デビュー。最終予選・アウェイでのイラク戦で初先発を飾りました。
この時が、この1年での最も大きな出来事になりました。サポーターの期待に応えなければいけない責任感だったり、日本国民の期待というのを身をもって感じました。この緊張感の中でプレーして、結果を出さなければいけない。そういう代表ならではのプレッシャーを感じられたことは大きかったように思います。

──それでも、緊張はしなかった?
いや、しました。自分にしては珍しく(笑)。「やらないといけない」と過剰に思い過ぎたのか、試合が始まる前に緊張していました。

井手口陽介

■「何も考えないこと」が逆にいい

──パフォーマンスを発揮するため、プロになってから意識が変わった部分はありますか?
食事に気を遣うようになって、バランス良く食べるようにしています。でも、それくらいですね。

──周りの先輩選手に聞いたりして?
いや、そこまではしていません。周りの選手たちが食べているもの、飲んでいるものは多少気になりますけど、決まったタイミングで何かをするっていうのは、自分は長続きしないタイプなので(苦笑)。

──では、試合日はどういうふうに過ごしていますか?
特別なことは何もしていませんよ。移動中、僕はあまり音楽を聞かないタイプなので、海外ドラマなどを観て過ごしています。試合会場に着くとウォーミングアップの時間が来るまで自分でストレッチをしていますが、その程度です。

──アカデミー時代から特に変わっていない?
はい。基本的に何も変わっていません。

──他にプロになってから、ピッチ外で取り組んでいることなどは?
……ないです。あ、でも、子どもができてからは早く寝るようになりました(笑)。

──井手口選手を見ていると、性格としては「マイペース」、「素直」、「奔放」という言葉がピッタリあてはまる気がします。そういった性格がサッカーにいい影響を与えていると思いますか?
どうですかね。あまり気負ったりはしないというか、ほとんど何も考えていないところが逆にいいのかなと思います(笑)。

井手口陽介

──ピッチでも遠慮はしないですよね?
さすがに最初はしますよ(笑)。でも、慣れると遠慮はしません。

──試合中は味方選手がどう思っているかとか考えたりしない?
はい。自分のプレーに集中しているというか。他の選手がどう思っているかなんて考えたこともありません。

──相手に寄せてボールを奪うプレーなどを見ていると、本能で動いているようにも見受けられます。
自分の場合は、考えながらプレーするよりも、何も考えていない時のほうがいいプレーができます。考える前に動く、という感じです。

■大一番は「想像を超えたもの」

──日本代表の大一番、オーストラリア戦とサウジアラビア戦が近づいてきています。
まずは選ばれるように、目の前のリーグ戦を頑張りたいです。代表のことは選ばれてから、チームに合流してから考えます。

──それでも、ワールドカップ出場の懸かった試合に出たいという欲もあるのでは?
それはありますけど、今はまだ意識していません。

──今考えても仕方がない。
はい。今考えて想像したりするのと、実際にやるのとでは絶対に違う。想像を超えたものが必ずあるはずなので。

井手口陽介

 インタビューから1週間後の8月24日、日本代表ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はアジア最終予選オートラリア戦とサウジアラビア戦に臨むメンバー27名を発表した。最年少メンバーとして選出された井手口はクラブを通じて次のようにコメントしている。

「今回、最終予選でも最後の最後の試合を目前に、選出されてうれしいです。出場を決めることがチームの目標となった今、プレッシャーもかかる中、自分自身ができることを精一杯することが出場を決めるために必要なことだと思います。自信を持って、また、短い時間ですがキャンプでしっかりと力をつけて臨みたいです! そこに出場していれば最高です!!」

「想像を超えたものが必ずある」と断言するワールドカップ出場の懸かった大一番。日本代表に招集を受けたのは3度目になるが、「慣れたら遠慮しない」という21歳が何か大仕事をやってくれるのではないか──。

 少年から父親へ。若手の一人から主軸選手、そして日本代表選手へ。激変に身を置く中でも、決して自分らしさを失わず、マイペースに戦う井手口を見ていると、そんな期待が膨らんでくる。

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