中国サッカー界で神格の域に入ったリッピ監督リッピ就任以降、中国代表はFIFAランクが60位にアップ。55位の日本と59位の韓国に肉薄する勢い
EAFF E-1サッカー選手権2017が今週末に開幕する。決勝大会には男女代表ともに日本、韓国、北朝鮮と中国が出場、男子は9日から味の素スタジアムにて、それに先立ち女子は8日からフクダ電子アリーナにて、東アジア王者の称号を懸けての熱戦が始まる。
来夏にロシアで開催されるワールドカップ本大会への出場権を逃した中国は、先月下旬にこの大会に挑む代表選手23名を発表。長らく中国代表を牽引してきたMF鄭智(広州恒大)らベテラン勢と、GK曾誠(広州恒大)やFW武磊(上海上港)などの主力は招集せず、初代表の選手を含む若手主体のメンバーで来日することとなった。
AFCチャンピオンズリーグでの日本勢との対戦により、一躍名を馳せた中国の至宝武磊の招集見送りは残念ではあったが、ワールドカップ最終予選、AFCチャンピオンズリーグや中国スーパーリーグでの激闘を終えたばかりの武磊に、休息の時間が必要だったのも事実であり、配慮による招集見送りとなった模様だ。
今回発表された中国代表における注目選手は、武磊と同じ上海上港に所属するGK顔駿凌だろう。代表正GKの曾誠の召集が見送られたことで、中国代表のゴールマウスはこの男に託されることになるはずだ。
顔駿凌は、上海の根宝サッカーアカデミーの出身で、チームメイトであった武磊などとアカデミー時代から名を馳せ、現在所属する上海上港の前身である上海東亜からの生え抜き選手だ。クラブの昇格(乙級→甲級→超級)とともに頭角を現した、中国代表の次世代を担う大型GKである。
AFCチャンピオンズリーグや中国スーパーリーグで、ワールドクラスのアタッカーとの対峙を重ねてきた経験値は、目下のライバル曾誠にも劣らず、この大会でも印象的な活躍を見せるに違いない。
そして、我々が肝に命じておかなければならないのは、この代表チームを率いるのが名将マルチェロ・リッピ御大であることだろう。
今さら詳しい説明をする必要もないが、ユヴェントスやイタリア代表を率いたリッピが成し遂げた数々の功績は、決して色褪せることはない。幾多の成功と失敗の矢面に立ち続けて、一度は指導者として引退したはずのリッピが、2012年シーズンの途中で広州恒大の監督に就任すると聞いた時は失笑ものだった。
しかし、リッピは広州恒大という未成熟のクラブを見事なまでに乗りこなし、中国とアジアのタイトルを獲得してみせる。また、当時は上手くいかなかったが、ファビオ・カンナヴァーロへの禅譲も行なうなど、身を退く潔さも見せた。
中国のサッカー改革が本格化すると、今度は低迷する中国代表チームに三顧の礼を持って招聘され、ワールドカップアジア最終予選で未勝利のチームを引き継ぎ、苦手意識に苛まれていた韓国と、ウズベキスタンやカタールにも競り勝ち、プレーオフ進出寸前まで紡ぎ導いたのだ。
実際に、リッピ就任以降の中国代表は、FIFAランクを一気に挽回している。最新のランキング(11月23日発表)では60位にランクされており、55位の日本と59位の韓国に肉薄する勢いなのだ。
中国のサッカー界では、マルチェロ・リッピというひとりのイタリア人指導者は、既に神格の域の人物と言って過言ではないだろう。日本ではイビチャ・オシム、韓国ではフース・ヒディンク、中国ではマルチェロ・リッピとなる。
韓国代表は、既にリッピ率いる中国代表から一撃を食らった経験がある。最終的にはワールドカップ出場を決めたが、あの敵地長沙での歴史的敗戦を冷静に分析して、この大会に臨んでいるはずだ。中国代表との対戦は9日となる。
日本代表は、12日の第2戦で中国代表と味の素スタジアムで対戦する。日本は国内組が中心となり、中国は若手主体の構成となっていることから、純粋なA代表同士の対戦とは言い難いが、相手のベンチにはマルチェロ・リッピ御大が鎮座していることを意識して観ると、よりこの大会を楽しむことができるだろう。
文=池田宣雄・香港
協力=アジアサッカー研究所