両ウイングをこなす初瀬亮 [写真]=川端暁彦
東京五輪世代で最初にA代表となった男はさすがの仕事ぶりだった。ガンバ大阪のDF初瀬亮は今季、所属チームで出場機会を失っており、勝手に「調子が悪いのかな?」という心配もしていたのだが、本人曰く「キャンプからしっかりやれているし、コンディションはまったく問題ない」。実際、この大会でMVPを一人選ぶなら有力候補になるであろう初瀬が見せたのは、そのくらいのパフォーマンスだった。
「このフォーメーションだと、自分のところがカギになってくる」(初瀬)
森保一監督が採用する3-4-2-1のシステムはウイングバックが相手サイドバックと1対1、あるいは2対2になる場面が自然と頻出する戦い方である。そこからの突破が実現し、有効なボールが中央に供給されるかどうかは攻撃の生命線。ボランチとしてもプレー可能なことからも分かるように、サイドの低い位置から起点となることもできる選手だが、この大会で特に目立ったのは“突破からのクロス”というウイングらしい仕事ぶりである。
左右両足を本当の意味で遜色なく使える個性もしっかり発揮した。右ウイングバックで先発しつつ、途中から左ウイングバックへ移るのは朝飯前。プレースキックも両足で自在に蹴り分けるくらいの“両利き”なので、対峙する選手はどちらの足を切っていいのか戸惑ってしまうのも必然。クイックフェイントから裏をかいて突破していくプレーは面白いように成功し、特にパラグアイとの最終戦では相手の右サイドを再三にわたって単騎で切り崩し、3度の決定機を演出するなど奮戦を見せた。
「一戦目から続けていいパフォーマンスを出せたのは良かった。でもその中でホント、もったいないというか、1戦目に続いて。まあ2戦目もそうですけど、やっぱり日本の弱さが出たと思います」(初瀬)
チリ、ベネズエラ、パラグアイという南米三カ国と対戦した今回の遠征の結果は敗戦→PK勝ち→敗戦という結果に終わり、すっきり勝てた試合は一つもなかった。単なる親善大会と言えばそれまでなのだが、初瀬は日本代表のユニフォームを着て戦う試合をそう軽くは捉えていない。3戦目のホイッスルが鳴ると、人一倍悔しさをあらわにしていたのは何とも印象的だった。
「五輪を目指すチームだからこそ、負けたらいけなかった。もっともっと一人ひとりがこう意識持ってやらないと。あっという間に気付いたら五輪が始まって負けちゃいましたということになる。自国開催で負けちゃいけない。ホントに日本全体が応援してくれる場になるし、世界にもアピールできる場。それなのに、『ボールを回したけれど負けました』ではいけない」(初瀬)
元より代表チームへの情熱に関しては誰にも負けていない。確かなスキルに加え、「みんなにプレーで伝えたい」という思いにあふれたパフォーマンス。東京五輪まで「もう2年しかない」中で、熱い魂を持った男が、森保ジャパンへの実質初招集となったこの大会で確かな足跡を刻み、存在感を見せ付けた。
文=川端暁彦
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By 川端暁彦