ポーランド代表のラインナップ(写真は韓国戦のもの) [写真]=Getty Images
ポーランド代表は3月の国際マッチウィークで、“仮想セネガル”のナイジェリアを相手に攻撃陣が不発で0-1の敗戦、“仮想日本”の韓国には3-2の接戦でなんとか白星を収めた。アダム・ナバウカ監督はW杯に向けてのテストだと強調していたため、“ベストなポーランド”を見ることはできなかったが、両試合や選手と現地記者の話しから“強み”や“付け入る隙”が見えてきた。
ナバウカ監督はW杯欧州予選後の昨年11月から、新システム「3-4-3」導入に着手した。ポーランドはW杯予選で突破13チーム中最多の14失点を記録。絶対的エースを中心とした攻撃力でカバーしたものの、守備に不安を解消すべく守備時に5バックとなる「3-4-3」を採用した。だが、これはあくまでもW杯を見据えた“プランB”のようだ。ポーランド代表の番記者を15年以上務めるダリュシュ・クロブスキ氏は「W杯は何が起こるか分からないから、戦術的なオプションが欲しかったのだろう」と解説。ユーロ2016やW杯予選で戦った「4-2-3-1」や「4-4-2」が“プランA”になるようだ。「監督も3バックがファーストチョイスではないと示唆してきた。個人的には4バックがメインとなると思う。大会中に選択肢が多ければ、成功の可能性も高まるはずだ」。
新システムの導入に伴い、新戦力も積極的にテストしていた。現在はMFヤクブ・ブワシュチコフスキが背中の負傷で昨年11月を最後に離脱が続き、FWアルカディウシュ・ミリクも今年3月に右ひざのじん帯損傷の大ケガから復帰したばかり。現地記者が最も問題視する主力の負傷について、ナバウカ監督は最悪の事態を想定して新戦力を発掘。昨年11月から4試合で計8人もの選手をデビューさせた。特にこの2試合で高いキック精度を披露した左ウイングバックのラファウ・クルザワや、左ウイングに入ったサンプドリアの21歳ダヴィド・コフナツキらは現地記者の期待も大きい。そしてチームの問題を受け止め、新システムや新戦力のテストを続ける指揮官の柔軟な姿勢は、本番で確実にアドバンテージになるはずだ。
攻撃面では、レヴァンドフスキにアジアと世界の差を改めて痛感させられた。韓国は「5-4-1」で臨み、序盤はFC東京DFチャン・ヒョンスを中心とするタイトなディフェンスでポーランドの攻撃陣を封じ込めていた。だが、それは長くは続かず、32分にFWカミル・グロシツキの正確なクロスから、レヴァンドフスキが韓国3バックの隙間をいとも簡単に突いてヘディングシュートを流し込み、日本にとって希望と思えた韓国の堅守をあっさりと打ち破った。
エースに隙を与えてはいけないことは当然ながら、その影で虎視眈々とチャンスを伺っている選手がいることも忘れてはいけない。特に韓国が失点後すぐにDFを1枚削って「4-4-2」へ変更すると、前線でスペースを得たポーランドの両ウイング、グロシツキとピオトル・ジエリンスキの怖さが増した。前半終了間際にはカウンターからグロシツキがスピードを活かして追加点を奪い、ゲームメイカーでボランチでもプレーするジエリンスキはアディショナルタイムに豪快ミドルで劇的決勝点を挙げる勝負強さを見せた。エースの存在もさることながら、ポーランドの攻撃の起点であるウイングにも注意が必要だ。
だだ、レヴァンドフスキの強力な存在感は時に弱点にもなり得る。昨年11月のウルグアイ戦はスコアレスドロー、メキシコ戦は0-1の敗戦と、レヴァンドフスキの負傷欠場が響いて無得点・未勝利で終了。今回のナイジェリア戦も、ブンデスリーガでレヴァンドフスキとの対戦経験を持つマインツDFレオン・バログンを中心とした相手の堅守に苦戦した。代表経験が浅い選手が多く出場したこともあり、依存度も高くなったレヴァンドフスキは最前線から下がり、サイドにポジションを移すなど、ビルドアップにも参加するシーンが目立ったが、決定的なシーンにはつながっていなかった。
エースに決定的な仕事をさせなかったバログンは、「ポーランドはレヴァンドフスキに頼ってしまう部分がある」と指摘。そして“エースの抑え方”をこう語った。「彼は深い位置に侵入したがり、常にDFの裏を狙っている。彼がどこにいるかしっかり認識し、後方でも首を振って目を離さなければ、止めることができるだろう」。基本的なことのようにも思えるが、バログンは世界トップレベルのストライカー相手にそれを実践することが「簡単ではない」と強調することを忘れなかった。
一方、守備面では3バックというテスト的な布陣とはいえ、スピードへの対応は明らかに苦手としている印象だった。ナイジェリア戦ではテクニックとスピードがあるFWアレックス・イウォビやMFヴィクター・モーゼスらに手を焼いた。ナイジェリアの決勝点もモーゼスがエリア内で仕掛けて得たPKによるものだった。後方から冷静に味方の攻撃を見ていたバログンは、ポーランドの弱点を「最終ラインのスピードがないところ」と指摘する。「ストライカーが身体能力を活かし、彼ら(ポーランドDF陣)よりスピードがあれば、問題を引き起こすことができるだろう」。
韓国戦では、ディフェンスリーダーのカミル・グリクをはじめ、ウカシュ・ピシュチェクとミハル・パズダンという現状ベストと思える3バックで臨んだ。韓国のエース、ソン・フンミンは前線で孤立してしまい、「とてもコンパクトで裏に抜けるのが難しかった」と苦しんでいた。それでも、2列目のイ・ジェソンには何度か裏への抜け出しを許し、さらに韓国が2トップに変更した後はソン・フンミンと途中出場のファン・ヒチャンを中心としたスピードある攻撃に苦戦。スルーパスからファン・ヒチャンに抜け出されるなど、失点していてもおかしくない場面もあった。日本にとってもポーランドの守備陣を相手にスピードある裏への抜け出しが有効となりそうだ。
さらに韓国戦の後半は、GKヴォイチェフ・シュチェスニーが「選手が交代したことでコントロールを失った」と振り返るように、レヴァンドフスキやピシュチェク、グリクら主力をベンチに下げると韓国の反撃を許した。85分にバイタルエリアのプレスが緩みMFイ・チャンミンのミドルシュートを浴びると、87分にはDFの裏へ走り込んだパク・チュホの折り返しからファン・ヒチャンに押し込まれて同点。主力不在時の不安定さが顕著に露呈していた。
ポーランドは「3-4-3」を採用して以来、4試合目の韓国戦で初ゴールと初勝利を挙げた。一貫して新システムを使用してきたナバウカ監督は「結果も大事だが、W杯への準備を進めることが重要だ」と今回の代表戦もテストであることを強調している。それは“プランA“の既存システムへの自信であり、本番を見据えた準備に本腰を入れている証だろう。ポーランドは間違いなく強敵だが、守備の課題やエース依存などの問題は抱えている。日本は今回の2試合で見えたその“わずかな隙”に活路を見いだしたい。
取材・文=湊昂大
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By 湊昂大