「監督が代わって、自分もまたゼロからのスタートになるし、いろんな選手のアピール合戦になってくると思います。ただ、自分的にはセレッソのキャプテンをやっているから、やっぱりチームが一番。『代表に入るためにアピールする』っていう感覚はないですけど、まずはしっかりチームでやっていけばいいかなと考えています」
日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任と西野朗新監督就任という衝撃的な出来事が起き、混乱が続いた4月第2週。その週中の11日に敵地・等々力競技場で川崎フロンターレと戦った山口蛍(セレッソ大阪)は率直な心境をこう吐露した。
この男の「セレッソ第一」というスタンスはどんな時も不変だが、日本代表への思いも少なからずある。2013年の東アジアカップ(韓国)で日本代表デビューを飾ってから現在に至るまで国際Aマッチ39試合に出場。なかでもハリルホジッチ監督体制での出場数は24試合と6割以上を占める。それだけ山口にとって、ハリルジャパンは大きな意味を持つチームだったはずだ。
2016年夏にブンデスリーガ1部・ハノーファーからわずか半年でJリーグへ復帰した時に「そういう選手は代表のスタメンでは使えない」と一刀両断されたり、「ホタルにはもっとコミュニケーションを取ってほしい」と要求を突き付けられるなど、指揮官から数々の叱咤激励を受けたことは、自身の中に深く刻まれているに違いない。
「デュエルの重要性を強く認識した3年間だったとは感じます。自分としてはいろんなボールの取り方があると思うけど、そこを(ハリルホジッチ監督に)制御されて全てできてないところもあれば、個人的に足りなかった部分を伸ばしてもらったこともあった。いい面、悪い面の両方が3年間にはあったのかなと。
ただ、デュエルが大事なのは間違いないこと。普通にボールを取るにしても、相手の方が体格的に上だし、普通に体を当てて取るだけじゃ取れないところも沢山あるので、体が当たる前に取るとか、相手からボールが離れたところを取るとか、間合いを考えながらやるところに磨きをかけていければいいと思いますね」と山口はハリルジャパンでの経験を今後に生かそうとしている。
武器であるデュエルの強さ、ボール奪取力を伸ばしていくことはもちろん必要だが、ボスニア人指揮官に口を酸っぱくして言われた「攻撃面」のレベルアップもやはり重要だ。そのことを本人も強く認識しているのか、14日のFC東京戦では攻めに絡もうとするシーンが随所に見られた。
38分にはペナルティエリア右後方の位置から思い切ったミドルシュートを放つなど、得点への意欲も垣間見せた。思えば、2016年10月の最終予選・イラク戦(埼玉)での劇的アディショナルタイム決勝弾を決め、ハリルホジッチ監督を救ったのは彼だった。その記憶が脳裏をかすめたどうかは分からないが、山口自身も「もっとやらなければいけない」と意識を高めた可能性は大いにある。いずれにしても、長谷部誠(フランクフルト)と並ぶ日本の絶対的ボランチに得点力や試合を決める力が備われば、西野監督率いる新生・日本代表も力強い材料を得ることになる。新指揮官も手応えをつかんだのではないだろうか。
「西野さんがどういう監督で、どういうやり方をするのかっていうのは、Jリーグの監督をやっていた時を含めて全然分からないので、自分としてはイメージがつかめない。でも日本人なのでコミュニケーションの面は大丈夫だと思います」と山口自身も前任者のチームで悩んだ意思疎通の部分には期待を寄せる。彼ら中盤が中心となってスムーズな攻守両面の組織を短時間で構築できれば、ロシア・ワールドカップ本大会でも希望が見えてくる。2014年ブラジルW杯経験者であり、中堅世代の代表格というべき存在の山口は、その作業を率先してやらなければならない。
「23人に選ばれた人は絶対に(ロシアで)結果を出さないといけない。そういう気持ちを持たないとこれからの日本サッカーは発展しない。これからのことを考えれば絶対に結果が必要」とチームメートで親友の清武弘嗣が語気を強めたように、山口も同じ思いを抱いているはず。むざむざと敗れ去るわけにはいかないという責任感は強いだろう。
加えて言えば、6月19日の初戦の相手・コロンビアは4年前の最終戦で惨敗した相手だ。「前回のコロンビア戦は途中からしか出てないから、僕自身は何とも言えないけど、今回は(ラメダル)ファルカオ(モナコ)もいるし、今の方が強いと思う」と山口は警戒感を募らせる。ハメス・ロドリゲス(バイエルン)も老獪さを増し、負傷離脱していたフアン・クアドラード(ユヴェントス)も復帰するなど、盤石の体制で挑んでくる宿敵と互角に渡り合おうと思うなら、とにかく自分を1ランク、2ランク高めるしかない。
ハリルホジッチ監督解任、西野新監督就任という予期せぬ出来事を前向きに捉え、プラスのエネルギーに変えていくこと。それが日本代表の主力の1人である山口蛍に課せられた使命である。
文=元川悦子
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By 元川悦子