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【コラム】“切り札”としてロシアへ…強烈アピールを続けるロンドン五輪世代のスピードスター

2018.05.07

FC東京で好調を維持している永井謙佑 [写真]=J.LEAGUE

「(永井)謙佑が途中で「『足がつりそうです』という話をしてきたけど、『つるまでやれ』、『今日は灰になるまで戦え』と言った(笑)。永井の頑張りがなかったら、後半あのような形で押し返せなかったと思う。僕の中では彼がMVPだと思っています」

 大型連休らしい快晴に恵まれた5日の多摩川クラシコ。敵地・等々力競技場で2-0の勝利を収めたFC東京の長谷川健太監督は、背番号11をつけるスピードスターに最大級の賛辞を送った。

 この一戦で直接得点に絡んだのは、リスタートから精度の高い2本の左足キックを蹴った太田宏介であり、ゴールを叩き出した橋本拳人、森重真人だったが、永井の走りがチームを活性化した部分は大いにあった。気温23.5度、直射日光が照りつけるピッチ上の体感温度は30度をゆうに超える中、72分間プレーした彼は7.767キロを走り、36回ものスプリント回数を記録した。4月14日のセレッソ大阪戦で記録した今季J1最多スプリント回数の42に迫る本数のダッシュを繰り返し、前線から献身的にボールを追い、奪ったら一気に前へと出ていく推進力とダイナミックさを前面に押し出したのだ。

「健太さんからは試合前に『行けるところまで行ってくれ』と言われていました。相手のラインが高いし、結構アバウトな走りでよかった。みんなに『苦しかったら前に出してくれ』と言っていたけど、信頼してボールを出してくれた。本当は自分やディエゴ(オリヴェイラ)が得点できたらよかったけど、拳人やモリ君が苦しい時にセットプレーで取ってくれたので本当に助かりました」と背番号11は満面の笑みを浮かべた。

 長谷川監督率いる新生・FC東京は、2004年、2009年のJリーグヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を制した時代を彷彿させる堅守速攻型スタイルに回帰し、それを研ぎ澄ませる形で大躍進している。攻撃のけん引役はご存じの通り、13試合9ゴールでJ1得点ランクトップに立つディエゴ・オリヴェイラだが、2トップを組むスピードスターも「戦術・永井」と言われるほどの存在感で相手に脅威を与え続けている。

 得点数こそ4にとどまっているものの、4月21日の清水エスパルス戦、25日のサンフレッチェ広島戦、28日の名古屋グランパス戦の3連発で3連勝の原動力になった。その後も5月2日のヴィッセル神戸戦と今回の川崎戦を含めた5試合のスプリント回数はすべて20本以上。36本というのが2回もあった。そのランニングの質の高さがFC東京の快進撃の原動力になっているのは、紛れもない事実だろう。

 もともと永井の速さと抜け目のなさには、多くの指揮官が目をつけてきた。2010年1月のイエメン戦(サナア)で福岡大学在学中だった快足FWを日本代表に初招集し、南アフリカ・ワールドカップのサポートメンバーに帯同させた岡田武史監督(現FC今治代表)はその筆頭。2012年ロンドン・オリンピック代表を率いた関塚隆監督(現日本サッカー協会技術委員長)も永井を軸としたチームを作り、ベスト4入りまで持っていった。

永井謙佑

ロンドン五輪では圧倒的なスピードを武器に大きなインパクトを残した [写真]=Getty Images

 その後、ベルギー移籍を経て一時的に調子を崩したが、名古屋復帰後は徐々に復調。2015年3月に就任したヴァイッド・ハリルホジッチ前監督にも才能を認められ、寵愛を受けた。が、与えられたチャンスでゴールを決められず、FWのサバイバルに勝てなかったため、現時点での日本代表定着は叶っていない。とはいえ、西野朗新監督になった今は評価基準も変わるはず。新たな切り札を探している新指揮官が、このところ圧倒的なキレと鋭さを示している名古屋時代の教え子にフォーカスする可能性は少なくないのだ。

 長谷川監督が突き詰めている現実的なスタイルが、1カ月後に迫ったロシアW杯に挑む日本に必要な戦術という部分も、永井にとっての追い風だろう。西野監督は長谷部誠(フランクフルト)をリベロに下げた3-5-2の導入、強固な守備ブロックの形成も視野に入れているというが、その場合は最前線のアタッカーに一気にゴールまで持っていく爆発力が求められる。同じスピードスターの浅野拓磨(シュトゥットガルト)、裏を取る動きに優れた岡崎慎司(レスター)など複数の候補者はいるが、何事も混とんとした状況にある今はとにかく好調な人間を抜擢した方がいい。永井本人は「ワールドカップ? 特に気にしていないです。とりあえずチームで頑張るのが基本なので、あんまり意識してないですね」と淡々と話したが、南アフリカ大会のミラクル快進撃を実際に知る経験値を生かすのは今しかない。

 山口蛍(C大阪)、酒井宏樹(マルセイユ)らロンドン五輪代表のチームメートが日本代表主力へと飛躍した今、遅れてきた永井もその仲間入りを果たしていい頃だ。大迫勇也(ケルン)や原口元気(デュッセルドルフ)らロンドン落選の憂き目に遭った人間たちも屈辱をバネに力をつけていて、それも永井の大きな刺激になっているはず。昨今は本田圭佑(パチューカ)や岡崎ら30代選手の代表入りばかりが話題に上りがちだが、今回のロシアW杯は20代後半になったロンドン世代が軸を担うべき大会。そのエースだった永井も陰に隠れている場合ではない。まずは5月14日の予備登録35人枠に滑り込み、18日に発表される国内直前合宿メンバー入りを狙って、貪欲に前へ前へと突き進んでもらいたい。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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