遠藤の視線の先にあるのはロシアの舞台だ [写真]=野口岳彦
ガーナ戦に臨む日本代表のメンバーリストを受け取って視線を下に落としてく。10番目。遠藤航の名前を見つけた瞬間、「何がなんでもメンバーに入りたい」と言い切った時の鋭い眼差しが頭に浮かんだ。
2016年夏、リオデジャネイロ・オリンピックを経験した遠藤は危機感を覚えた。チームは1勝1分け1敗でグループステージ敗退。48年ぶりとなるメダル獲得の夢は破れ、すべての能力を高めなければいけないと感じた。しかし、それを挫折だとは思わなかった。「とにかくサッカーが好き」とはにかんだ笑顔でこちらを見る。遠藤は壁を乗り越えた時、新しい自分に出会えることを知っている。次はどんな壁が現れるのか。どんな敵と戦うのか。そのワクワク感が彼の向上心につながっている。
ブラジルの地で戦ったあの日から進化したという自信がある。自分の現在地を見極めるために、遠藤は何がなんでもロシアの舞台に立たなければいけない。
■リオ五輪で体感した世界との差「総合力を上げないといけない」
――初めての国際舞台は2年前のリオ五輪でした。グループリーグでナイジェリア、コロンビア、スウェーデンと対戦してみて、彼らの実力をどのように感じましたか?
ナイジェリアは個の力が強く、コロンビアはパワーやフィジカルなどの身体能力の高さに加えて、組織力もありました。スウェーデンは高さがあった。それぞれの特長に対して日本はどう戦えばいいのかをすごく考えさせられた大会でした。
――大会直前に行われたブラジル戦はどうでしたか?
相当強かったです。結局、大会で優勝しましたからね。ネイマールや(ガブリエル)ジェズスといった規格外の選手との試合を経験できたのは大きかったですし、ブラジルにどうやったら勝てるんだろうと考えさせられました。
――考えた結果、どう戦うべきだったと思いますか?
相手は身体能力が高くて、個の力が強い。ドリブルで剥がせる選手やシュートがうまい選手がいて、後ろの選手も強かったです。加えて組織的に戦うこともできる。ディフェンス目線で言うと、僕らが速攻を仕掛けようとした時のセンターバックの対応がすごく良かったと思います。リスクマネジメントがしっかりできていて、なかなか前に収まりどころができないような状況をずっと作られていました。すべての部分でクオリティが上でした。そういうチームへの対処法は、ブロックをしっかり敷いて、焦れずに我慢して守りながらカウンターを狙うか、チリ代表のように一人ひとりの運動量と強さを生かしてプレスをかけ続けるかのどちらかだと思います。
今は個の力に加えて組織力のあるチームが、W杯やオリンピックの舞台で勝っている。個を伸ばしながら、チームとしても組織的に戦い続けないといけないので難しいですよね。でも、個が伸びれば組織力も高まると考えたら、最優先は一人ひとりが個の能力を上げることが重要なんだと思います。
――個の能力と言っても様々な要素があります。遠藤選手はリオ五輪を経験して、個の能力のどういった部分を伸ばしたいと思いましたか?
もう全部ですよ。スピードやフィジカル、戦術眼もそうだし、ボールを保持する力もそう。総合力を上げないといけないと思います。
僕の持ち味はワンタッチでボールを速く動かすところ、縦に入れるところです。でも、ボールをキープできないと、国際舞台で収まりどころを作るのは難しいと感じました。ブラジルの中盤の選手はボールを持てていました。プレッシャーをかけても、全然感じていないかのようにプレーできる。「ボールを保持する力」は意識しないといけないところだと思っています。
――プレッシャーがかかっていても、余裕を持ってプレーするためには何が必要だと思いますか?
そこは経験だと思います。強豪国となるとヨーロッパのトップリーグでやっている選手がほとんどで、おのずとプレッシャーがかかった中でも速いプレーをせざるを得ません。そういう慣れもあると思います。
■テーマはボランチで違いを生み出すこと
――遠藤選手がロシアW杯で勝負したいポジションは?
やっぱりボランチで勝負したいですね。浦和ではセンターバックに入ることが多いので、頭の切り替えが必要ですけど、ボランチとしてのプレーイメージを常に持つように意識しています。複数のポジションをこなせるのは自分の良さでもありますけど、それぞれのポジションで代表レベルのプレーをできるかと考えた時に、自分はまだまだ物足りない。「あいつはどのポジションでもやれるな」と思わせるためには、より高いレベルでの経験が必要だと思います。
――クラブとは違い、日本代表では先発の機会が多くありません。途中から入ってプレーすることに難しさを感じるのでは?
途中交代で入る時は、自分の良さを出すことだけを考えます。あとはピッチの外からしっかりと戦況を把握して、どういうプレーを求められるのか、自分はどういうプレーをしたらいいのかを考えています。ただ、そのイメージと実際にやってみた感覚が違うこともあります。難しいですよね。
――そういうギャップが生じた時は、どのように対応しているのですか?
理想は短時間で対処法を判断することです。例えば、思ったよりもプレッシャーが速い、相手が戦い方を変えてきた、という時にそれをしっかりと見極めることが大事になります。速いプレッシャーに対して簡単に逃げるのか、逆に少しでもボールをキープする時間を作るのか。状況に応じた判断を瞬時にやるしかない。僕はその修正がすぐにできるほうだと思っています。
――焦らず、常に冷静にプレーしている印象が強いです。
焦ることはないけど、落ち着きすぎてしまうところがあって(苦笑)。熱というか、もう一段階パワーを出したい時になかなか出せないことがあるんです。冷静にプレーしすぎて、チームとして勢いを出したい時にゲームを落ち着かせてしまうというか。ボランチだったら特に違いをもたらさないといけなんですけどね。
――例えば、一本のパスでスイッチを入れたり、声を出したり?
そうですね。声も、一つひとつのプレーも大事だと思います。押し込まれている状況で、相手を剥がしてカウンターになるパスを入れるとか、シュートまで持っていくとか。ヨーロッパのトップでやっている選手たちは、そういう場面で違いを生み出せています。
――違いを生み出すことが、ボランチでプレーする上でのテーマになっていると。
本当に難しいですよ。運動量を落としてしまうと自分の良さは出せないので、そこはベースとして保ちつつ、違いを生み出すプレーをどのタイミングで発揮するか。今シーズン、ボランチではまだ数試合しかプレーしていないですけど、課題として感じているところですね。後ろにいる時とは違って、360度を意識しながら動かないといけない。疲れるけれど、やっていて面白いですよ。
■憧れの舞台へ――。何がなんでもメンバーに入りたい
――初めてA代表の選手としてピッチに立った時の感覚を覚えていますか?
もちろん、覚えています。そこに入りたいという目標を持ってやってきて、それが実現した。素直にうれしかったです。でも、そこがゴールだとは思わなかったです。むしろ、ここからがスタートだという感覚でしたね。
――大会が迫ってきましたが、今の日本代表に必要なことは何でしょう。
まずは一体感が大事だと思います。U-23アジア選手権ではトレーニングから全員が声を出してチームを盛り上げ、一丸となって戦いました。アジアチャンピオンになれたのはその結果だと思うし、チームの雰囲気はすごく良かった。いかに全員が同じ空気感を持てるかが重要になると思います。あの時はキャプテンとしてチームを客観的に見ることができたからこそ、サブの選手たちの立ち居振る舞いの大切さが分かりました。それはA代表でも間違いなく生かせるし、生かさないといけません。
――個人としては何を示したいですか?
そんなに難しいことをしようとは思っていません。しっかりと準備をして、自分の今の力を100パーセント出し切りたいと考えています。W杯はその国を代表する選手が集まる舞台だし、自分たちよりも実力が上の選手ばかり。その中でいかに自分の良さを出していけるか。どれだけ食らいついて、結果を残せるかだと思うんです。ただがむしゃらにやるだけですね。
――リオ五輪から成長した部分を示したいですね。
浦和ではボランチでプレーする機会は多くなかったけど、それでも2年前に感じたようなプレッシャーを感じることはなくなりました。落ち着きを持ってプレーしているセンターバックでの感覚が、ボランチでも少しずつ持てるようになってきている。もちろん、満足はしていないけど、その変化は大きいと思います。より周りが見えるようになれば、自分の良さが出せます。
ただ、もっと駆け足で成長したかったというのはありますね。一歩ずつ進んではいると思うんですけど、ちょっと躓いているかなと。浦和で試合に出て、アジアチャンピオンになって、連戦に耐えられるフィジカルも身についた。5年前と比べたら成長している。でも国際舞台やより高いレベルの試合を経験することで、もっと成長できると思います。
――ロシアW杯出場は大きな目標の一つだと思いますが、キャリアの通過点とも言えます。サッカー選手としての理想像はありますか?
やっぱり海外でプレーしてみたいです。それは一つの夢だし、純粋に海外でプレーしてみたいですね。それが代表にもつながるだろうし、自分のサッカー人生を充実したものにしてくれると思います。次のW杯のことを考えたら、ヨーロッパのトップリーグのどこかでプレーしていないと高いクオリティは示せないと考えています。
――そう考えると、ロシアW杯は経験しておきたいですよね。
そうなんです。今回は何がなんでもメンバーに入りたいです!
インタビュー・文=高尾太恵子
写真=野口岳彦、ゲッティ イメージズ
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By 高尾太恵子
サッカーキング編集部