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【コラム】日本代表の希望となった長友佑都…W杯で左サイドの「地獄」を“天国”に

2018.05.31

ガーナ戦にフル出場した長友佑都 [写真]=三浦彩乃

 西野朗新監督体制の初陣であり、3週間後に迫った2018 FIFAワールドカップ ロシアに向けて重要な試金石となった30日のガーナ戦(日産スタジアム)。監督交代という大ナタを振るったにも関わらず、0-2で敗れた日本はさらなる崖っぷちに追い込まれた状態だ。

 日本代表は3-4-3の新システムに積極果敢にトライしたが、前半開始早々の8分に槙野智章(浦和レッズ)がエマニュエル・ボアテング(レバンテ)をペナルティエリア手前で倒して与えたFKからいきなり失点。後半立ち上がりにも再びボアテングに、長谷部誠(フランクフルト)と吉田麻也(サウサンプトン)の間を割られ、飛び出した川島永嗣(メス)が引っかけてPKを献上。これを決められ、終わってみれば0-2の敗戦を喫した。最終ラインを3枚にして守りに厚みを出すという狙いが結果につながらず、サポーターからも容赦ないブーイングが浴びせられた。

 そんな中、数少ない希望となったのが、左ウイングバックに入って攻守両面に絡んだ長友佑都(ガラタサライ)だろう。開始5分にタッチライン際を抜け出して大迫勇也(ケルン→ブレーメン)の決定機を演出したのを手始めに、凄まじい回数のスプリントを繰り返す。後半も盟友・香川真司(ドルトムント)を献身的にサポートし、柴崎岳(ヘタフェ)の得点機もお膳立てしてみせる。長谷部が下がった後はキャプテンマークを巻いてプレー。背番号5をつける男は水を得た魚のように90分間、ピッチ上で躍動し、停滞しがちだったチームを力強くリードしていた。

「ホームで負けた結果は受け止めないといけないし、悔しさは残りますけど、3バックを初めてやってポジティブな要素も沢山あった。前半はちょっと引きすぎた部分があって、いい形でブロックを敷いて守れていたとは感じています」と本人は努めて前向きに語っていた。

 今年1月に移籍した新天地・ガラタサライでは闘将ファティ・テリム監督から積極的な攻め上がりを求められ、攻撃的サイドバックとして君臨。3シーズンぶりのリーグ制覇の原動力となった実績通りのパフォーマンスをこの日も披露した。イタリアでの7年間で身に着けた守備力に、攻めのアグレッシブさを加え、一段階飛躍した印象を残したのは確かだ。

 とはいえ、ロシア・ワールドカップの本番で対峙するのは、コロンビアのフアン・クアドラード(ユヴェントス)、セネガルのサディオ・マネ(リヴァプール)、ポーランドのヤクブ・ブワシュチコフスキ(ヴォルフスブルク)といった世界超一流のサイドアタッカー陣。実際、クアドラードには4年前のブラジル大会で粉砕された苦い過去がある。「左サイドはもう地獄でしょう」と長友本人も苦笑する難敵だけに、ガーナ戦のような思い切った攻撃参加は見せられない。より攻めに比重を置いて、自身の背後を攻め込ませない策を講じる必要があるのだ。

「この試合でも僕が上がった後、相手に引っかけられてカウンターを食らったり、残っている選手につけていない場面があった。そこはボランチがズレるのか、槙野とか3バックの1枚が絶対についてファウルしてでも止めるのかという割り切りが必要。クアドラードやマネは世界トップレベルの速い選手なんで、フリーでボールを持たれたらちょっと厳しい。もっとオートマティックに守れるようにしていかないといけない。だから(直前合宿地の)ヨーロッパに行ってからは細かい部分を徹底してやらないと。練習の時間だけじゃなくて、それ以外も相当話すことになると思います」と長友は自ら率先して周囲とのコミュニケーションを図っていくつもりだ。

 危機的状況にいる日本がロシアでミラクルを起こそうと思うなら、チームとして強固な一体感を持って戦うしかない。それは2010年の南アフリカ大会で長友が学んだ教訓だ。その結束を作るために不可欠なのが選手同士の意思疎通だ。8年前も壮行試合の韓国戦(埼玉スタジアム)で0-2という今回と同じスコアで敗れ、赴いた直後のスイス・サースフェーで選手ミーティングが行われ、超守備的戦術へと舵を切ることになった。

「あのミーティングは今でもよく覚えています。ああいうミーティングをもっと増やすべき。南アの時みたいに下がって守ることも考えていかないと厳しいかなと感じます」と彼も言うように、下がる時は下がるというハッキリした共通意識を形成していかなければ、今回のようにアッサリ失点するだけで終わってしまう。そんな戦いは3度目の大舞台に挑む男には絶対許されないのだ。

「僕らは追い込まれれば追い込まれるほど、批判されればされるほど這い上がる。この状況の方が僕らにとってはポジティブなんじゃないかと思います」と本人も語気を強めたが、その底力を示すのは今しかない。日本代表は6月2日にオーストリア・ゼーフェルトに赴き、10日あまりの調整を経て、ロシア入りするが、限られた時間を最大限生かしていくしかない。足掛け11年間の代表キャリアを誇る長友にはそのけん引役として大いなる存在感を発揮し、ロシアでエースキラーとしての大仕事を見せてほしい。とりわけ、前回屈辱を味わったクアドラードへのリベンジを果たすことが肝要だ。左サイドを地獄から天国に変えられるのは、自分自身の力だけだ。

文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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