トルシエ氏から西野ジャパンに送られた提言とは [写真]=小林浩一、Getty Images
決して平坦な道のりではなかった。黒星スタートとなったアジア最終予選、世界との差を痛感した欧州遠征、まさかの監督交代劇……、様々な試練を乗り越え、日本代表は6度目となる世界の舞台に立とうとしている。2018 FIFA ワールドカップ ロシアが開幕して5日、日本代表はグループステージ初戦となるコロンビア戦を迎える。しかし、前回大会で大敗を喫した相手との初戦を前に、不安の声が尽きることはない。それでも、元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏は、「絶対言い訳しないで――」と、あえて厳しい言葉を送る。運命のコロンビア戦直前、自身の経験を基に西野ジャパンへの提言を語ってくれた。
インタビュー・文=サッカーキング編集部
写真=小林浩一、ゲッティイメージズ
――日本代表の試合は今でも観戦されていますか?
「そうですね。A代表の試合、Jリーグやアジアチャンピオンズリーグについても注目しています」
――日本代表は“オールジャパン”というコンセプトで、日本全体でロシアW杯を闘おうとしています。
「“一体感”が代表チームで出てくれば選手のモチベーションも上がっていくと思いますし、選手たちはプロフェッショナルだから、楽しいイメージを共有しながらやってほしい。オールジャパンということに関しては、日本全体でそういう雰囲気作りをすることが重要になります。そのために、メディア、サポーターの力も必要になります。選手たちは、『どういう批判をされているか』『自分たちはどう分析されているか』ということに敏感ですし、(サポーターなどの)皆さんから送られるメッセージを有難く聞いている。だから、西野監督は選手が持つ力以上のものを出せるように、選手たちを支えていくこと。我々ももっともっとメッセージを発信して、(ロシアW杯)初戦のチャンスをモノにして闘えるようにしたいですね」
――トルシエさんが日本代表の監督だったとき、激しいジェスチャーや口調で選手を指導していました。そこにはどのような狙いがあったのでしょうか?
「アグレッシブな表現をすることで彼らの集中力を高めて、より高いパフォーマンスを出せるようにと考えていました。というのも、当時は海外でプレーする選手も少なくて、日本にないコミュニケーションを取ることで彼らのリアクションを引き出そうと思ったからです。時には彼らのプライドを傷つけるようなことも言いながら、でも、道理にかなう形で接していました。そうすることで、選手が内に秘めている色々なエネルギーの源を呼び覚ましたいと思っていました。そうすれば、選手ももっと表現力豊かなプレーをしてくれるんじゃないかと考えて。だから、彼らの気持ちや体に潜んでいる力、魂に潜んでいる力に訴えかける。そういったところから眠っているエネルギーを引き出そうという狙いがありました」
――以前、中田浩二さんが「中山雅史さんや、秋田豊さんのような雰囲気を作れるベテランがいたことで、チームの雰囲気が良くなった」と話していました。これもトルシエさんの狙い通りだったのでしょうか?
「そうです。中山が秋田がチームに入ることでチームに“冠”が付くような形になります。つまり、彼らがいることでチーム全体を守ってもらえる、チーム全体を包み込んでくれる。チームには4年間で自信を持っている若い選手たちがいっぱい入ってきました。そういった選手たちを守って安心させたのが、中山や秋田。でも、彼らはベテランですがJリーグでしっかりと選手としてプレーしていたので、まだまだ若いと。ベテランというと年寄りのように聞こえるけれど、それは違う。そして、彼らが何を体現してくれたかというと、日本の伝統や日本が持つお互いをリスペクトすること、そういったことを選手たちに示してくれたと思います。だから、この2人は日本代表のパフォーマンスに大きな力を貸してくれたと思います」
――日韓W杯は自国開催でした。そこで勝ち進んだこともあって、プレッシャーが日に日に大きくなるようなことはなかったのでしょうか?
「むしろ反対ですね。『自分たちにしっかりした試合ができるのだろうか?』『上手く対処できるだろうか?』『勝つことができるのだろうか?』ということを試合の前に感じていたことは確かです。でも、『自分たちの準備万端だ!』『すでにやるべきことはやっている!』と考えていました。だから、これからやることも、試合だって『これまでやってきたことの繰り返しだ!』という気持ちがありました。準備ができているからこそ、試合に向かっていくことができた。若い選手たちで構成されている日本代表でしたが、成熟度の高さは私自身も賞賛するほどでした。国内組の選手がほとんどで、出場国の中でも平均年齢が約23歳で若いチームでした。そうした選手たちがワールドカップで闘って、世界に認められて、ビッグクラブからもオファーが来るようになったのは大変名誉なことだと思います」
――西野監督も迷いはあると思います。スタメンはどうするか? 3バックか? 4バックか? トルシエさんはフラット3を徹底的に叩き込みましたが、もう時間はない。西野監督にはこれからどのような決断が求められて、日本代表はどのような闘いをしていくべきか教えてください。
「はっきり言って、西野監督には時間が足りない。新しい戦術や考え方にしても時間が足りないから、(ヴァイッド・)ハリルホジッチがアジア予選で作ったベースをキープしていくこと。だから、4バックで行く。4-2-3-1で、中盤にはディフェンスと攻撃的な選手を使うシステムをそのままキープした方が良いと思います。そうすれば選手たちが分かりやすい。だから、西野監督がやれることは心理的なことで、選手たちに対して『君たちの力を信頼している』とか『力を発揮してくれ』と奮い立たせる。それから、選手はそれぞれ自分の責任を全うして、自分で判断してやっていくこと。西野監督はスタメンや交代メンバーを選ぶことが重要になるけど、それだけで勝てるわけではないし、勝つためには選手それぞれにどのような役割を与えるか。選手はリスクテイクをして判断する。ピッチに立つのは選手ですし、ゴールを決められるのは選手たちでしかない。だから、自分でしっかり責任を果たすという気概に燃えて。『日本代表は混乱状態にあるから…』なんてことを絶対言い訳にしないで、成熟度を見せてほしいです」
《トルシエ氏 プロフィール》
フランス出身のサッカー指導者、サッカー選手。日本サッカー協会の要請を受け、1998年サッカー日本代表監督に就任。1998年の代表監督就任以降、A代表とU-21の監督を兼任し、U-20を率いた1999年のワールドユースで準優勝、2000年のシドニーオリンピックでは32年ぶりの決勝トーナメント進出。2002年日韓W杯では日本代表をベスト16進出に導いた。
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By サッカーキング編集部
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